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偏愛と放浪の記録

「イメージ―Ways of Seeing 視覚とメディア」(著:ジョン・バージャー/訳:伊藤 俊治)

2013-05-02 23:49:32 | 【書物】1点集中型
 文庫を見かけて、気になったので借りてみた。そしたらなかなかに年季の入った単行本だった。原題「Ways of Seeing」が示すように、「見ること」の意味の歴史の中での変容を芸術から広告までの広範囲で検証するというもの。

 思った以上に読み進めるのが大変で(笑)ちょっと、いやけっこう苦労したんだけど、「見られる」存在としての女性、描かれた対象物の所有者たることを示すための絵画、「見る者の現実の生活に対して最大限の不満を抱かせようとする」広告……という、それぞれの時代における絵画等の立ち位置の解釈には「なるほど!」と思わされる。
 さらに、本編を踏まえて読む訳者の論「見ることのトポロジー」は、その後の時代の変化を示している。いろいろな論述からの引用も多いので文章量が多くてこれまたなかなか進まなかったんだけど(笑)本編より現代に近くなっているためか、「見ること」の位相の変化がより飲み込みやすく感じられた。

 見ることは単に対象を見るという視覚による行為だけでなく、対象が置かれた空間をそこに立つ自分が知覚することも包含している。さらに、たとえば美術館の展示作品であればそれに添えられた解説文と照らし合わせて作品を見ることによって、作品から受ける印象が変化する。
 つまり、「見る」と言いながら、ひとは実は五感すべてによって対象物を認識している。しかしそれは実は「見せられる」状態ともなり得るということで、「見る」という能動が知らぬ間に受動へと変化しているということだ。鑑賞者の「見る」という行為を通して、鑑賞者側に見せる側(作成者側)が望むイメージを受け取らせる状態であり、言うなれば広告が本質的にめざしているのもその形であろう。
 自分が自分の意思で、見たものを捉え、その意味を考え、自分の言葉で組み立てる。今や、その行為は実は思うほど簡単なことではないのかもしれない。


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