life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「忍びの国」(著:和田 竜)

2015-01-31 19:46:05 | 【書物】1点集中型
 「のぼうの城」は、書店で気にはなっていたものの読んでない。が、映画は割合面白く観た(テレビで……)。なもんで、実際の和田氏の作風はどんなものかなと思い、友人が貸してくれるというのをありがたく拝借した次第。
 タイトル通り、物語の中を駆け回るのは、本当かよ! ってな技術だらけの忍者たち。しかし実際は、普段は小作農として暮らし、用あらば親方的な地侍を通して傭兵的に隠密的な活動を請け負い、最終的に地侍に搾取される下人たちがほとんどである。

 実は、題材的にも文章量的にもぱっと見、読みやすそうなわりに意外と話が頭になかなか入ってこなかった(笑)。伊賀忍者の世界が想像よりもかなり殺伐としていて逆に毒気を抜かれたというか、こっちも殺伐とした気分になったというか……感情移入しにくかったからなのかな。それとも( )書きのモノローグが多かったせいなのか。無門をはじめ、超人的な伊賀の技の描写はそこそこ迫力もあったし、文吾の青臭い感じはちょっと微笑ましくも思えたけども。なので、むしろ信雄の情けなくもいじらしい父へのコンプレックスやら、大膳や平兵衛の行く末の方が気になってしまった。
 とはいえ、クライマックスの無門とお国のシーンは、いい盛り上がりだったと思う。無門は人を人とも思わぬ伊賀者の中にあって、それが当然であると重々理解している。彼はその技を金に換えることと、その金でお国の関心をひくことしか考えていなかった。しかし、自分の本当の名前を知らないことをお国が憐れんでくれたことによって、無門は生まれて初めて己が「人間」であることに思い至ったのだろう。

 和田氏はもともと脚本家だそうだが、それを知った状態で読んだせいか、終わり方なんかは映像作品っぽいなぁなんて感じもした。あと、文章の作り方が脚本っぽいといえばそうかも。一つ一つの文や段落が短めだったり、台詞と同じくらいモノローグがあったり、会話もわりと単語が多かったり口語っぽかったり。時代小説はハードな書かれ方のほうが好きなので、個人的な好みとしてだけ言えば好みではないんだけど、ネタが忍者だけにスピード感は出やすいのかな。

「魔術師 [イリュージョニスト] (上)(下)」(著:ジェフリー・ディーヴァー/訳:池田 真紀子)

2015-01-29 23:46:18 | 【書物】1点集中型
 気づけばこちらも前作「石の猿」を読んでから1年以上ぶりのライムシリーズ。アメリアが昇進試験に取り組む一方で、怪しげなマジシャンの殺人ショーがひとつ、またひとつと展開される。しかしその狙いが、複数の事件を経てもなかなか見えてこないのである。
 マジックの心得があることからコンサルタントとしてチーム・ライムに加わる助っ人・カーラによって、いわゆるマジックやイリュージョンが観客を欺く手法も事細かに描写されていて、そういうHow to部分もかなり興味深く読める。そしてその、常人には考えられない超絶テクニックを駆使する犯人「魔術師」に翻弄される捜査チーム。さらにまさかまさか、ライムその人の目の前に「魔術師」自身が現れて、絶体絶命! な事態まで巻き起こる。

 相変わらずのジェットコースターぶりは、例によって下巻でさらに加速する。一見、何がどうつながるのかわからない別の事件とも次第に結びつきが見えてくるとともに、誤導に次ぐ誤導、変身に次ぐ変身、そして「誤導には誤導を」と言わんばかりのライムとサックスの、魔術師との鍔迫り合いが繰り返される。
 挙句、犯人逮捕であっさり終わらないのがこれまた例によってのライムシリーズで、ライムの口から飛び出す大どんでん返しがまだ残っている。犯人のステージネームの意味も、ここにきてようやく明かされるという次第。加えてカーラの人生にも、果てはアメリアの人生にもどんでん返しが待っていた。そして新たな事件がまた始まる。この途切れなさ、ある意味落ち着かなさがライムシリーズらしさ。相変わらずのエンタメまっしぐらで、さくさく読めすぎて困る(笑)。

 「ライムは証拠さえあれば満足する。犯人の心理や人となりまで吟味する忍耐は持ち合わせていない。しかしサックスの心は善悪の問題に引きつけられる」という話が印象的。今さらながらなるほどと思ったし、だからこそ補い合って捜査ができるということなんだなと。これからもこの2人のチームには思わぬ横槍が入ってくることがありそうだけど、そこをどう乗り越えていくのかも楽しみのひとつになりそう。

「ウはウミウシのウ シュノーケル偏愛旅行記 特別増補版」(著:宮田 珠己)

2015-01-19 22:43:31 | 【書物】1点集中型
 タマキングは旅行ものから入ったからか、シュノーケリングonlyのこの本は意外と後回しだったが、増補にての文庫化を機に思い切って購入。
 ダイビングをちょっとだけ経験した身からすると、「どうせ海に入るなら水面だけじゃなくて、その下のもっと広い世界も楽しんだらいいのに、なぜ?」と(押しつけがましくも)思ってたのも否定できない(笑)が、予想通りと言おうか、「だらだらしたい」とか「面倒くさい」とかいうシュノーケラーとしての主張の根拠は、いかにもタマキングである。

 まあ私自身も、なんでシュノーケリングよりダイビングかといえば、気を遣わずに呼吸ができる方が楽だからと思ってるだけなんだけど(笑)。でも確かにダイビングの装備は面倒くさいのだ、実際。浮上するときもうっかり普通に泳ぐ気分で浮上しかけて、しまった! 速すぎた! ってなって慌てて減速したり……。
 そんなやる気ないダイビングをやりつつ(今やってないけど)、なぜ装備もルールも楽なシュノーケリングにしないのかというと、ぶっちゃけて言えば要するに、シュノーケルだけで水面に顔つけて呼吸するのが苦手なだけなのである(笑)。どうもうっかり深く行きすぎて、シュノーケルに水が入ってしまう。で、水吸って目も当てられないくらいむせる(笑)。

 って、そんな私個人の話などはどうでもよくてこの本の話に戻る。
 変なカタチの生きものへの執着ぶりはまさにそれこそがタマキングであった。相変わらずイラストも絶品。特に、冒頭いくつかで早くも出てきたカエルアンコウは先制パンチだ。半ばを過ぎたころのマンジュウヒトデの奮闘コマ絵も妙に笑える。でもって終盤になってまたしてもカエルアンコウだし、フリソデエビの目線は鼻毛おやじを彷彿とさせるし(笑)。いっそ画集出していただきたい。
 しかも、旅先で出会ったカップルだとかどこぞの店員の女の子に振り回されたりしているのも例によってタマキングだし、突然バーベキューの話だか、親知らずだか唾液管に詰まった石の話だかで明後日の方向に行ってしまうのもタマキングである。
 そして、まさに「見識が深まらない」ことこそタマキング本の醍醐味なのであるからして、印税はぜひどしどしタマキング自身の満足を得るためだけに使っていただきたい(笑)。

 というわけで、タマキングのシュノーケリング観に納得したところで「こうなったらやっぱりジェットコースター本も盆栽本も読まないといかんなぁ」と勢いに乗ってとりあえずジェットコースター本はついに買ってみた。でもまだいろいろ積んである本があるので(笑)読むのはもうちょっと後になるが。

「特捜部Q ―キジ殺し―」(著:ユッシ・エーズラ・オールスン/訳:吉田 薫・福原 美穂子)

2015-01-16 00:09:50 | 【書物】1点集中型
 「檻の中の女」に続く「特捜部Q」シリーズ第2作。読みたいと思いながらも結局1年以上経ってしまっていた(汗)。
 スーツケースを引きずる怪しい女と、彼女を追っているらしい、後ろ暗さ丸見えのセレブの男たち。20年前、高校生だった彼らと彼女が踏み出した暗い嗜虐の道と、現在の彼らが突き進む絵に描いたような頽廃的享楽の道、彼女が潜む世の中の裏通りどころか地下道が交互に描かれながら、最初は影も形も見えなかったカールが追う20年前のある事件との接点が少しずつ明らかにされていく。

 理由なき暴力に手を染めどんどんエスカレートしていく彼らと彼女の行動は、発端が20年前という設定であるものの、まさに今この時代に注目されるようになってきたタイプの犯罪を彷彿とさせるものである。彼らと袂を分かち、果ては復讐の対象として捉えるようになった彼女――キミーが胸に抱く復讐の理由とは、しかし自らが暴力に加わっていたことに対する罪の意識ではなかったということも。
 彼らが自分たちの快楽と保身しか頭になかったとすれば、キミーもまた自己の憎しみしか頭になかった。この人々の物語の結末には、憐れみもやるせなさもやるせなさも感じられない。残るのはその罪に対する憤りと、理解しがたいという感情だけだ。前作のミレーデに対しての犯人の仕打ちもそうだったけど、今回のキミーと男たちの行状も精神的にエグい話だらけで、解決しても気分爽快になるものでは全くない。澱んだ後味ばかりが残る。これが「Q」の事件のカラーってことなのかなー。うう。

 とはいえ、そんな事件の凄惨さや異常さをそれこそカールやアサド、今回からは彼らに加えてローセの、一種天然風味の軽妙さを持つ個性が救っている。カールの同居人たちも含め、カールの周囲の人々があまりにも凸凹していて、振り回されっぱなしのカールを見ているのが読者として楽しいのも事実なのである。
 今回は、アサドにやはり何かしらの謎があることも見せられたので、それがどこでどう効果的に明かされるのかも今後の楽しみになった。それにもちろん、ハーディをわが家に迎えてカールがどう変わっていくのか、あるいはハーディがどう変わっていくのか。アンカーの死に隠された陰謀らしきものは? って、そんな思わせぶりな「?」ばっかりまき散らされたら、読者としては食いつかずにはいられないよねぇ(笑)。まあ、それも「Q」の面々の愛すべき人となりと、苦笑を誘われつつも報われるように祈らずにいられないカールの暮らしぶりあってこそだけど。

「異常快楽殺人」(著:平山 夢明)

2015-01-09 23:44:14 | 【書物】1点集中型
 いや、これは……想像を絶する衝撃作であった。
 エドワード・ゲインの犯罪については「オリジナル・サイコ」で、アンドレイ・チカチロの犯罪については「子供たちは森に消えた」で既に読んでいたのだが、それらを超えるインパクトだったような気がする。かのハンニバル・レクターのモデルとなったヘンリー・リー・ルーカスも、なるほどこれがハンニバルか~~と思うだけでぶっ倒れそう。
 これだけの事例が7つも並んでいれば当然かもしれないが、どれもこれも描写のリアリティがすごすぎて、逆に表現のしようがない感じ。読みながら何度「エグすぎる!」と思ったか知れないが、しかしその不快感とは逆に引き込まれてしまって、「キツい(汗)」と思いながらも一気に読んでしまった……。かなり消耗しました。

 これらの犯罪者たちには、幼年期に筆舌に尽くしがたい虐待を受けたという共通点がある。それがすべての原因ではないにせよ、ひとつの示唆であることは間違いない。ある社会は、虐待を行う者を生む温床となりうる。あらためてそれを感じる1作であった。多くは語らないが(っていうか語れない、すごすぎて)、名著だと思う。

「連環宇宙」(著:ロバート・チャールズ・ウィルスン/訳:茂木 健)

2015-01-06 21:49:52 | 【書物】1点集中型
 「時間封鎖」「無限記憶」ときてシリーズ完結編。今作の主人公(のひとり)は、前作の最後で「時間封鎖」のジェイスンと同様の存在になったかと思われたターク・フィンドリーだった。しかも実態を持った姿として登場する――スピン解除後の時代を生きる少年オーリンが無意識に書き留めた膨大な物語の語り手として。そしてそのタークの物語は、あのイクウェイトリアの砂漠での出来事からなんと1万年後のもの。そこから今作の謎が始まる。

 今回も例によって物語は2軸で進む。オーリンを取り巻く人々とオーリン自身の謎を中心とした「現代」と、オーリンの綴る1万年後のタークの物語。進むにしたがって、オーリン自身の時間軸の中にターク・フィンドリーも実在することが明らかになっていき、それはまさに前作でタークがリーサに多くを語らなかった過去そのものであることがわかる。
 さらに、1万年後のタークがいるヴォックスという群島は、仮定体のアーチが繋ぐ惑星群「連環世界」を移動するものだった。そして地球もイクウェイトリアも人類にとってははるか昔の存在でしかない時代。ヴォックスの人々は大脳辺縁系ネットワークを介してコリュパイオス――「人々の声」と呼ばれる「たったひとつの良心」を共有している。自分たちを守るためだけの良心を。そのあたりは、ユートピアの姿をしたディストピアであるともいえる。

 そのヴォックスには、タークを救った本人であるアイザックも現れた。1万年前と変わらず、仮定体と通じることのできる神のような存在として人々に崇められる者として。
 滅びゆくヴォックスの姿を通して、アイザックは仮定体の正体を語る。やっとヴェールが剥がされたという感じ。いずれはアイザックも肉体を持たぬ存在となるであろうと思わせ、結末は文字通り宇宙の果てへ向かっていく。しかしその果ての先には選ばれなかった世界、別の宇宙があるのだ。そのすべてが「フラクタルな構造」であるという言葉は、そう想像するだけで何か侵しがたい美しさを感じる。終末でありながら、無限に開けていく宇宙がそこにある。
 正直なところ、この最終章(第三十二章)があれば仮定体の謎については充分であるし、SFのSFたる醍醐味もここに集約されているように思える。

 でもやっぱり、この手の連作は続けざまに、しかも手元に全部揃えて常に確認できるようにして読まないと、細かい部分の記憶が曖昧になってしまうなぁ。もう1回きちんと読み直したい。……とか言って読んでないものたくさんあるんだけど(笑)

「機龍警察 未亡旅団」(著:月村 了衛)

2015-01-02 17:10:31 | 【書物】1点集中型
 私にしては珍しく間断なく(ってほどでもないか)読み進めている「機龍警察」シリーズも4作目。今回は、チェチェン共和国の女性テロリスト集団「黒い未亡人」が、特捜部のターゲットである。
 いつも通り本筋に絡みながら描かれる登場人物の物語は今回さて誰のだろう、もしかしていよいよ沖津部長かなと思ったら、由起谷主任と城木理事官のダブルキャストだった。さすがにまだ沖津さんは早かったか(笑)。

 過去に屈託があり、その屈託を抱えているからこそ警察組織に身を置くことになったとも言える2人。片や現場の刑事としてチェチェンのテロ組織の少女カティアと接し、片や警察官僚として政界につながる肉親と警察組織の間で揺れ動く。現場でほとんど交わることのない2人だが、ひとつの事件を核にそれぞれの立場だからこそ突き当たる壁と、それに向き合う戦いがしっかり描き出されていた。
 愛憎は表裏一体のものとは言うけれど、「砂の妻」シーラの愛はまさにそれだった。カティアが見たように、シーラの内面が究極の目的を前に我知らず手段を選ばないものに変貌を遂げていくさまがリアル。そして何もかもを捨てて友だちを救おうとしたのに、憎悪を一身に受けることになったカティア。そこには簡単なハッピーエンドはなく、あくまでも厳しい現実がある。それでも、生き延びたカティアは自分の意志でそう行動したことで救われたし、そのカティアが残した言葉に由起谷も確かに救われた。

 2人がいつかまた出会うことがあるかどうかわからないし、もしあったとしてもこのシリーズの中で描かれることはないだろう。でも、そういうある意味簡単な感動の方向に行かないであろう空気がこのシリーズの良さだろうと思うので、カティアと由起谷の物語はこれでいいのだろう。
 逆に、兄を喪った城木の物語には〈敵〉とつながる影が残り、城木自身の立場も今後どうなっていくか予断を許さない。相手の姿の見えない戦いはまだまだ続くようで、でもちょっとずつ近づいてはいるのかな。今後の展開にさらに期待が高まる。個人的にはそういうストーリーの方が圧倒的に楽しみで、もはや機甲兵装自体はあってもなくてもよくなってきてるんだけど(笑)。だから今はSFよりもミステリとして読んでいる感じ。

 ……って、読んだそばからシリーズ次作「火宅」が出てるらしい。タイトル4文字じゃないのか。でも図書館にはまだ来てないので、早く読みたいけど気長に待とうかなと。