life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「スットコランド日記 深煎り」(著:宮田 珠己)

2017-08-27 22:07:59 | 【書物】1点集中型
 「スットコランド日記」の続編。って、もう7年前の本でかなり今さらなんだけど、なんとなく何を読もうか決められない時期にあって、苦しい時のタマキング頼みとか勝手に言って選んだ1冊である。
 武蔵野らへんらしいスットコランドでのタマキングの日常、なのは当然変わらず。ちょうど四国遍路の時期だったらしい。その合間に宮田家は自家用車買い替え、庭付き一軒家購入という二大イベントが今回の目玉であろうか。生活圏がさほど変わらなくても、見える景色が変わるとやっぱりいろいろ変化はあるよね。

 それはそうと、まずオナラ太郎に吹き、夫人のいつもながらに鋭い指摘に頷き、今作もときどきふっと現れる白昼夢なんだかちょっと小説的に何か入れたかったのか、という不思議なタマキングワールドが展開する。劇的ではない、誰もが経験しそうな日常をちょっとした表現で、微妙に笑えるものに変えてしまうこの文体がやっぱり好きだなー。
 それにしても、書くこと=自分を掘り下げること=自家中毒的なストレス、という夫人の指摘はすごい。なんだこの非の打ちどころのない納得感。そしてタマキングの夢の話はいつもSFっぽい。小説をいつか本当に出すのだったらSf書いてくれないかな。タマキングがどんな世界を創るのか見てみたい。

 あと、「ときどき意味もなくずんずん歩く」の増刷の話が繰り返し出てきて、おお、すごいすごい、おめでとうございます! と(今さら)思いつつ、息子さんのサッカーチームの対戦相手にずそずわFCだのでぞいますFCだのが出てくると、古いエッセイを読み返してみたくなってしまったぞ(笑)。ていうか、カースン・ネーピアさんの書き方が面白すぎる。タマキングがこんなにも恐れる人の実の姿をぜひ見てみたくなるのだが。
 終盤では新境地、なんと俳句にまで手を出してしまう(出してしまわなければならなくなった)タマキング。「鳥帰る」のお題が……もう、これこそ真骨頂って感じで(笑)。これをやってしまうのがタマキングですよもう。それと、法務局に封印された真実の書を手に入れに行った時の話も(笑)。

 というわけで、いちいち笑えるツボはそこここに出てくるのにあまりにもさらっと読めてしまうので、逆に深く語るところまでは行き着けないタマキング本だが、「深煎り」だけど「深入り」でもあったのだな、と最終章で気づく。前作は文庫になったから保管に楽でつい印税に貢献しちゃったけど(笑)今作もせっかくだからいずれ文庫にしてほしいんだけどね。
 しかし、今の今まで読んでいなかったおかげで、あの福知山線事故車両にタマキングが乗車していたことも(本当に今さら)初めて知った。いろいろのことを考えると一言で片づけられないお話にはなってしまうけれども、少なくともタマキングが無事であったことは何よりであった。合掌。