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偏愛と放浪の記録

「レッド・スパロー(上)(下)」(著:ジェイソン・マシューズ/訳:山中 朝晶)

2014-08-15 22:00:11 | 【書物】1点集中型
 ロシアのSVR(対外情報庁)で、ハニートラップ要員として訓練された諜報員ドミニカは、自国内に潜む裏切り者であるCIAのスパイを探し出すため、とあるCIA局員に近づく。彼女は、自由主義でありながら、対外的にはうまく取り繕いながら体制下を生き抜いていた父と、その父と同様の意思を持つ母の娘である。SVRの高官である伯父に利用され、諜報の世界に引き込まれたドミニカは、伯父の企みのために壮絶な体験を重ねることになる。そして、祖国を愛しながらも、自分の尊厳を守るためにその体制に疑義を抱くようになる。

 著者は元CIA局員。33年にわたり海外で国家安全保障にかかわる情報収集活動に携わり、いわゆる「リクルート活動」を指揮する立場でもあったという。この物語はまさに、その経験があったからこそ構築されたものだと言えるだろう。
 正直なところ、読む前にはドミニカとネイトの手に汗握る駆け引きみたいなものがメインになるのかと想像していたので、ドミニカがすんなりCIAのリクルートを受け容れたのは若干意外ではあった。ただ、その流れに不自然さはない。ネイトが見るからに好青年だったり、ゲーブルがお茶目だったりするのがいいクッションにもなっているような。あと、各章の最後についてるレシピがいいなぁと(笑)。ちょっと作ってみたくなっちゃうものもあったりして。

 自らの後継としてドミニカを育てようとした〈マーブル〉と、本当にこんな(ある意味間抜けですらある)スパイが存在していいのかとすら思わせる(笑)〈スワン〉があまりにも対照的だったが……。スパイとしての自分と、ひとりの人間としての自分の間でドミニカもネイトも揺れ動く。ドミニカの激情は目まぐるしいが、その人間性の部分とスパイとしての突出した能力の落差、あるいは結びつきが彼女の行動に理由や展開をもたらしている。
 このエンディングは正直、続編もあるんじゃないか? という気分にもなる(もちろん期待の意味も大きいが)。でもMI5(テレビドラマ@BBCの)なんかもこれに近い雰囲気で終わってる。とすれば、諜報の世界というのは(いや、フィクションなんだけど)得てしてこういうもの、なのかもしれない。ル・カレのスマイリーシリーズもそんな空気はあったし。なので、「レッド・スパロー」としてのドミニカの物語がこれで完結するものだとしても納得できなくはないし、逆に「もし」続編があるとしたらそれはそれで楽しみにしたいと思う。

 あ、あと、どーでもいいけどネイトの同僚アリスの友人ソフィーが「セーラー・ムーンのランチボックス」を持ってたのにちょっと笑った(笑)。


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