寡作の人であるらしいが、何やらとても魅力的な作品を書いているらしい、と知ってまずは中編集から。というか、図書館にも全部は入っていなかったというのもあるのだが。
巻頭の「デュオ」で早速、SFとしてもサスペンスとしてもちょっと予想していなかった角度からの衝撃を受けた。体が一つになっている双子の天才ピアニストと、そのサポートを請け負う調律師。双子の中にある、身体的特徴だけではない秘密が少しずつ明らかになっていき、「もう一人」との密かな戦いが始まる。命のあるところ、命をかたちづくるものとは何か、というSFらしいテーマをユニークに照らし出す物語だと思う。これだけで一気に作品世界に惹き込まれた。
これはいわゆる普通の世界の中に異物的な要素を置くことによって転回される物語だけれども、表題作は逆にユニークな世界観によって展開される物語。この世界観がまたすばらしかった。象徴としての図形が人の心に与える影響は確かに存在するわけで、それを物語世界の中で人の生活により密接なものとして置くことによって「もの」と「かたち」の関係、さらにそれらを繋ぐ「ちから」を突き詰めていく。その集大成としての週末の場面には、「幼年期の終り」のような雰囲気も感じつつ。
そのほか、「呪界のほとり」はユーモアあるキャラクターの会話が面白い。老人の冗談に紛らわせた種明かしも、SFならではの洒落がきいていると思う。「夜と泥の」は何といっても空気感だろう。東南アジアの湿度の高い熱帯を思わせるような、ねっとりした夜と沼のざわめき、少女の「亡霊」ともいえる「残像」。その「残像」を中心にした生態系が築かれ、そこにはやはり人の命のあり方の可能性が描かれている。
総じて、切り口のアイディアに気持ちよく驚かされるものばかり。他の作品もぜひ読みたいと思わせてくれる1冊だった。……ので、図書館に「自生の夢」も入れてほしい。あと他の文庫も……。←買えよ
巻頭の「デュオ」で早速、SFとしてもサスペンスとしてもちょっと予想していなかった角度からの衝撃を受けた。体が一つになっている双子の天才ピアニストと、そのサポートを請け負う調律師。双子の中にある、身体的特徴だけではない秘密が少しずつ明らかになっていき、「もう一人」との密かな戦いが始まる。命のあるところ、命をかたちづくるものとは何か、というSFらしいテーマをユニークに照らし出す物語だと思う。これだけで一気に作品世界に惹き込まれた。
これはいわゆる普通の世界の中に異物的な要素を置くことによって転回される物語だけれども、表題作は逆にユニークな世界観によって展開される物語。この世界観がまたすばらしかった。象徴としての図形が人の心に与える影響は確かに存在するわけで、それを物語世界の中で人の生活により密接なものとして置くことによって「もの」と「かたち」の関係、さらにそれらを繋ぐ「ちから」を突き詰めていく。その集大成としての週末の場面には、「幼年期の終り」のような雰囲気も感じつつ。
そのほか、「呪界のほとり」はユーモアあるキャラクターの会話が面白い。老人の冗談に紛らわせた種明かしも、SFならではの洒落がきいていると思う。「夜と泥の」は何といっても空気感だろう。東南アジアの湿度の高い熱帯を思わせるような、ねっとりした夜と沼のざわめき、少女の「亡霊」ともいえる「残像」。その「残像」を中心にした生態系が築かれ、そこにはやはり人の命のあり方の可能性が描かれている。
総じて、切り口のアイディアに気持ちよく驚かされるものばかり。他の作品もぜひ読みたいと思わせてくれる1冊だった。……ので、図書館に「自生の夢」も入れてほしい。あと他の文庫も……。←買えよ