life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「夢をかなえるゾウ」(著:水野 敬也)

2014-10-26 23:41:32 | 【書物】1点集中型
 表紙のガネーシャの強烈さに惹かれて(笑)読みたいリストに入れていたものの、長らくほったらかしにしていた本である。あらすじ見た限りでは普通の小説かと思ったのだが、読んでみたら自己啓発書だった。こういう書き方もあるのか、なるほど。

 「しょぼい」会社員の前に突然現れたゾウ――の姿の神様、と言えば、言わずと知れたガネーシャ。しかし関西弁。主人公が酔って口走った「変わりたい」という言葉を聞きつけ、「契約」を結ぶ。主人公が「変わる」ためのお題をガネーシャが出し、主人公はそれを必ず実行するという約束。
 だが、いざ始まってみると、ガネーシャの課題は「靴をみがく」とか「コンビニでお釣りを募金する」とか「トイレ掃除をする」とか「まっすぐ帰宅する」とか、それだけ見ると何故それが「変わる」に結びつくのか? といったもの。どれも、やればできるはずなのにやってない、気づいてない、みたいなことである。ただ、怪しげでしょうもないひとり漫才まがいのガネーシャの解説を聞けば、なぜそれが「自分を変える」ことにつながるのかの理屈はわかる。
 「変わる」ためには「意識を変える」のではなく「行動を変える」。確かに真理だ。でも意識することが無駄なわけでは決してなくて、「報酬は何に対して支払われるものなのか」を考えるのも、意識が変わる原因のひとつだろう。「意識が変われば行動も変わる」のではなく、「意識を変えて、行動も変える」ということかな。

「機龍警察 自爆条項(上)(下)」(著:月村 了衛)

2014-10-23 23:03:38 | 【書物】1点集中型
 シリーズ第2作。キモノ密輸に関わる虐殺事件に見え隠れするIRF。前作で龍機兵の何たるかを知ったところで、今回はその搭乗員のひとり、元IRFであるライザの過去が明かされる。物語は現在の事件とライザの半生が交互に語られていく。さらに現在の前作から含みを残したままだったフォン・コーポレーションの2人も再び見え隠れしつつ。
 タイトルの「自爆条項」が意味するところが2段構えになっているのも心憎いし、後手後手に回っていたのを最後の最後で追いつくところまで持って行った、沖津部長の鬼気迫る「読み」を追うのもスリリング。そして今回は何といっても本題の、自らの過去と向き合い戦うライザが、自分の罪の意識とどう決着をつけることになるのか。キリアンと緑の父との対比が良かった。あと、相変わらずの姿とユーリの、会話の噛み合ってないコンビぶりも意外にツボにはまる(笑)。

 ライザの「これまで」は今回で大体見えてはきた。それでもまだそれぞれに明かされていないストーリーの多い「傭兵」たちと「部長」はもちろんのこと、個人的には、キャリア警察官ならではの宮近と城木の動きや心理も興味深く見ている。あとは当然、〈敵〉の正体も。なので忘れないうちに次作も貸出予約を入れた次第である(でもちょっと待たされる……)。
 余談であるが、解説でパト2に言及があったので、とりあえず前作での自分の感覚が妥当な範囲だったとわかりほっとした(笑)。じゃ、いっそ、押井さん監督の機龍警察シリーズでも作ってもらいますか(笑)

「シュレディンガーの哲学する猫」(著:竹内 薫+SANAMI)

2014-10-16 21:26:03 | 【書物】1点集中型
 シュレディンガーの例の実験から生まれてしまったらしい「シュレ猫」と、入れ代わり立ち代わりその猫に「リンクする」錚々たる哲学者たち。わかるようでわからない「哲学とは何ぞや?」を、さまざまな哲学者の論を例に引いてひもとく小説のような解説のような物語。ノリは軽いけど、それら哲学者たちの論の基礎的なところを網羅してくれるもので、どの論にしても「そういう考え方があるのか」と素直に蒙を啓いてもらった気になったものであった。

 まず冒頭のウィトゲンシュタインの「言葉とは」からして、「私の言語の限界は、世界の限界を意味する」とか、深いとしか言いようがない。ファイヤアーベントの論ずる哲学と科学の関係も興味深い。科学は確かに大切なものだけど、科学を至上のものとする排他主義に陥ったのでは意味がないということ。「知識とは、むしろ互いに両立できない(そしておそら共約不可能でさえある)選択項の絶えず増大する大洋なのであって」「オカルトであろうが占いであろうが最新科学理論であろうが、なんでもお構いなしに知ることによって、人は自らの判断力をうまく働かせることが可能になる」。そう考えるとまさに彼の言う「anything goes」って、とても大きな言葉だなー。
 同様に、小林秀雄である。理論物理学的思考。しかし彼の哲学にいあるそれは科学者たちには理解しきれなかったということ。知の極致は、科学の粋だけが到達するのでもなければ、文学の頂点だけが知るものでもない。「二つの見方のどちらかが正しいというのではなく、単に違うのだ、ということ」。考えれば当たり前のことなのだけど、ことが学問となると意外とそういった柔軟性が欠ける、人間の不思議さ。

 そして、哲学という観点では(個人的には)想定していなかったサン=テグジュペリやカーソンも登場した。この人たちも哲学の部類に入るのかと最初は思ったものの、読んでみるとそれなりに納得できた。サンテックスの著は、そう言われてみれば確かに哲学っぽい表現ではある。また、カーソンを論ずる小林秀雄の「意識の深部から、意識の表面に顔を出したもの」という読み解き方が面白い。
 あと、小ネタとしては「プラトニック」という言葉の起源なんか実は知らなかったので、ちょっとしたトリビア。当時のギリシャ知識人は「のきなみホモセクシュアルであった」って、それはそれで身もふたもない話だが(笑)

 全体として、読みやすくとっつきやすい哲学入門書だと思う。ここから、気になった学者を読み進めていくのもいいかなと。シュレ猫の存在というか、ストーリー仕立てが必須なのかどうかは若干謎なんだが(笑)、このちょっとライトな感じがあったからこそ哲学に触れることもできたのであるから、ありです。主人公は微妙だけど(笑)シュレ猫のキャラクターは嫌いじゃない。

「オリジナル・サイコ」(著:ハロルド・シェクター/訳:柳下 毅一郎)

2014-10-12 22:35:09 | 【書物】1点集中型
 何か同じハヤカワ系のを読んでたときに巻末広告で見たのがきっかけで、長いこと読みたい本リストに入ってたんだけどほったらかしになっていた。そしたらちょうど前後して「サイコ」をCSでやってたので見てしまった。その記憶も新しいうちにこれを読むことになったので、なんだかちょっとハマりすぎた(笑)。
 これはその「サイコ」の犯人のモデルになった、エドワード・ゲインの人生を追うノンフィクション。全然知らなかったのでシリアル・キラーだと勝手に思い込んでいたけど、実際はネクロフィリアであり、サイコパス的なところもあったり。なんというか、「想像を絶する」という言葉はこういうときのためにあるんだなぁと実感するものすごさだった。ただ、その詳細をここでずらずら並べ立ててもちっとも面白くない(というか、面白いとか面白くないとかいう次元の話ではないのだが)のであえて述べない。とにかく、衝撃が強すぎて感想も分析もへったくれもない(笑)。一読あれとしか言いようがない。

 ゲインがこうなった背景には、母親の影響が確かに大きいであろう。しかし、「なぜ、不幸なものではあるがユニークというにはほど遠い、エディー・ゲインの幼年期の経験が、彼に限ってこれほど途方もない犯罪に爆発することになったのか」。愛情と憎しみと、その相反しつつも非常に近似する感情が引き起こす異常性が、ここまで振り切れた行動に彼を駆り立てたのは本当にそれだけなのだろうかと、やっぱり考えずにはいられない。

「暗殺者の復讐」(著:マーク・グリーニー/訳:伏見 威蕃)

2014-10-06 22:05:48 | 【書物】1点集中型
 「グレイマン」シリーズ4作目。幕開けはグレイマンが因縁の相手、シドレンコへの復讐に向かうシーンから。そして、実はそんなグレイマンを監視している、CIAの手足となる民間企業タウンゼンドがいて、最新機器を駆使してジェントリーを追跡し、その抹殺作戦要員たちを放ってくる。が、そこには思わぬ協力者が出現する。
 今回は、その協力者の動きが最大のキイになる。グレイマン同様に「作られた」男であるデッドアイことウィトロックとの、謎と読み合いと駆け引き。おかげで「見つけ次第射殺」の原因同様に謎だった「キエフ」の件が明らかになる。これが読者にとって今作の最大の収穫かも(笑)。

 グレイマンとデッドアイの2人が非常に近い存在であるがゆえに、アクションが倍増したような気分にもなる。首相暗殺を阻止すべくグレイマンを追い、最後はともに動くことにもなるモサドの存在も、事態を複線化してくれて面白い。クライマックスの肉弾戦は相変わらずの大迫力、さすがの不死身っぷりだった。
 しかし、デッドアイのような「欠陥」にもしジェントリーが自ら納得したら、グレイマンがデッドアイに変わる可能性もあるのか? そんな、これまではっきりと表に出ることのなかったジェントリーの心理的(精神的)な不安要素も見えてくる。そのことによってこの先、ジェントリーは自分自身と戦わなければならない事態に直面することもあるのかもしれない、とふと思わされもする。

 最後には、図らずも災い転じて福となり(か?)母国アメリカに戻ることになったジェントリー。果たして次回作では何が訪れるやら。