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偏愛と放浪の記録

「生物から見た世界」(著:ユクスキュル、クリサート/訳:日高 敏隆、羽田 節子)

2018-03-01 20:40:03 | 【書物】1点集中型
 「岩波文庫・紀伊国屋90年記念 高橋源一郎セレクト10点」というのを見つけ、その中から読んでみた1冊。とか言って高橋源一郎氏の本を読んだことがあるわけではないんだけど。

 動物は、「適切な知覚道具と作業道具が選ばれてそれがある制御装置によって結び合わされ、依然として機械のままであるとはいうものの、動物の生活機能を果たすに適した一つの全体となったもの」つまり「純粋な客体」として、概ね科学の世界では捉えられているのだそうだ。
 しかし著者は、それら動物も「知覚と作用とをその本質的な活動とする主体だと見な」し、主体として「知覚世界」「作用世界」をもち、それらを以て「一つの完結した全体」である「環世界」を築いていると述べる。この「環世界」が、主体である個々の生物種にどのようにひらけているのかを見せてくれるのが、この本である。

 ……という概念的な部分が序章で多く語られているのだが、読んでいて一番難しく感じたのが実はこの序章であった。各章に入ると個別の生物種の各論なので、意外に序章よりは頭に入ってきやすい。「視空間」で出てきた視覚エレメントの話や「知覚空間」など、動物が世界をどのように見ているのかを図で具体的に見せてくれて、わかりやすかったし。「最遠平面」の概念は、それが単に種の異なる動物間での違いだけではなくて、人間でも大人と子供では視空間の捉え方が違うということもわかり、目の高さが違うだけのことではない差異がわかって、新たな発見だった。
 他にも「なじみの道」や、入れ物が替わっただけで水がどこにあるかわからなくなる例など、著者の言うように「われわれ人間が動物たちのまわりに広がっていると思っている環境(Umgebung)と、動物自身がつくりあげ彼らの近く物で埋めつくされた環世界(Umwelt)との間に、あらゆる点で根本的な対立がある」例が、さまざまな角度から示される。主観的世界とは実はこれほどにも科学的に説明できることであり、その主観的世界である環世界を理解せずには、動物の行動を突き詰めていくことはできない。
 人間にしろ、自分の行動範囲にないものを自分の生活に取り込むことは難しいはずで、つまりはそういうことなのだろう。事実=客観としての環境だけでは測れない世界が、動物にあるのだということを理論的に理解させてくれる1冊だった。


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