life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「ホーキング、宇宙を語る ―ビッグバンからブラックホールまで」(著:スティーヴン・W・ホーキング/訳:林 一)

2019-11-29 22:56:29 | 【書物】1点集中型
 ずーっと、読むつもりでいたけど読んでなかったホーキング先生。本当は、今わかる最大値の宇宙を知るためにはいちばん新しい本を当然読みたいわけだけど、とは言ってもまずこれを読まないことにはホーキング先生に失礼であろう、と(笑)。

 ’95年の訳本だからもう四半世紀近く前の本なんだなあ。なので、初めて知る内容が多いわけでは当然ない。インフレーション理論もビッグクランチも私のような素人ですら耳にする話になったし、ニュートリノも発見されたし、ブラックホールもついに可視化されたし。そう考えると、この時代にこれだけのことを語れていたのはやっぱりすごいことだろうとも思うし、科学者たちの積み重ねてきたものをの大きさに想いを馳せたくなる。
 科学と神の関係だとか、「宇宙が何であるか」ではなく「なぜ存在しているのか」を見出すための統一理論とか、そういう視点は興味深かった。統一理論が存在の理由を解き明かすとしたら、それは神の意思を知ることでもある。ある意味見事なオチがついている。

 この本は、博士としては「宇宙の起源と運命に関する基本的概念を、科学教育を受けたことのない人たちにも理解できるようなかたちで述べること」を試みたものとのこと。サイエンスコミュニケーター的な役割を果たしたかったということだろうか。そう考えてくれる科学者や、研究者ではなくても科学をかみ砕いて語れる人が増えてくれたおかげで、科学によって自分の知的好奇心が刺激され、少しずつでも理解することによって自分の中の世界が広がっているんだなと思うと、本当にありがたいと思う。この先ももっとこういうものに触れていきたい。

「いたずらの問題」(著:フィリップ・K・ディック/訳:大森 望)

2019-11-11 21:48:56 | 【書物】1点集中型
 約2年ぶりに読んだディック作品。というか、そんなに読んでなかったとは自分でも思ってなかった。92年初刊行だそうなのでもう四半世紀余前の作品なんですね。
 で、数あるディック作品から今回何故これにしてみたかというと、いわゆるディストピアものだということだったから。好きなんだよねえ、人間性が抑圧された社会を通して描かれるものが。
 全体としては、ガチガチのSFという雰囲気とはちょっと違って、わりと読みやすい感じがした。ビッグ・ブラザーを思わせる存在感のストレイター大佐の偶像崇拝+ジュブナイルと呼ばれる監視ロボットの存在はあれど、あんまりがんじがらめに監視されている感はない。この社会に適応できない人々にはメンタル・ヘルス・リゾートという別の環境もある。なんというか、緩く飼い殺されていくという感じだろうか。とはいえ、ブロック集会なんかは言ってみればコミュニズム社会における総括とか自己批判とか(この作品世界では「自己」批判ではないけど)の異様さを思わせるものでもある。 

 主人公はさしたる理由もなくストレイター大佐の銅像を破壊するという、許されざる「いたずら」をしてしまった。しかしそれが明るみに出ず、裏腹に高い社会的地位に就く機会すら得る。社会が人間的に歪んでいることを明確に理解しているのに、明らかに違和感を覚えてもいるのに、その社会を一面で司る立場が提示されたことによって、その社会で生きていくための精神の平衡が崩れていくさまが描かれているようでもある。
 自分の信じる、人間としての正気を保つために主人公が画策したメディアを武器にした叛乱は、この社会では狂気だ。無謀でもあるし、だからこそ痛快でもある。そして最後の最後での主人公の選択は、敢えてこの歪んだ社会での「罪」を認めることだったが、それはつまり、人間が人間としてあるための尊厳を守ろうとする姿なのではないかと思う。なんとなく、「月は無慈悲な夜の女王」の読後感にちょっと似ている気がして、嫌いじゃない。

「ウィークエンド・シャッフル」(著:筒井 康隆)

2019-11-04 22:45:15 | 【書物】1点集中型
 久しぶりに本屋をうろうろしていて見つける。30年以上前の本だけど、復刊したらしい。筒井康隆ものはたまにものすごく読みたくなるのだが、こうやって目に入るように見せられるとまんまとそういうことを思い出すんだよなあ(笑)。で、図書館で借りた1冊。←買えよ。

 オープニングの「佇むひと」はどこかで読んだことあるけど、とても好きな作品のひとつ。哀愁という言葉だけではくくれないディストピア。個人的には星新一の「生活維持省」と近い読後感がある。あれも大好きなのだ。というかディストピア系好きなんだよね、それこそオーウェルとかハクスリーとか読んでしまうと離れられない。
 その一方で、「ジャップ鳥」「モダン・シュニッツラー」のコメディ的なノリもいい。「モダン・シュニッツラー」はどっちかというとバカSFのノリかもしれないが(笑)、私としてはバカSF万歳だからツボにはまってしまう。下品だけど(笑)。でもそれは筒井作品だから(と思う)。
 しかし喜劇と見せかけて最後に空恐ろしさに落とす「旗色不鮮明」「生きている脳」とか、それこそ表題作「ウィークエンド・シャッフル」とか、まあこの一連の作品群の人の悪さったらない。「旗色不鮮明」「生きている脳」はよく考えたら無間地獄という、本当にホラーだし。「ウィークエンド・シャッフル」はドタバタ劇に見せつつも人の業というか、本性というか、我が身可愛さというか、本来見たくない部分が最後の最後に最も辛辣な形で表現されている感じ。

 というわけで久々にあっという間に読み終えてしまった。たまに無性に浸りたくなる筒井ワールド、存分に堪能した。個人的には「イヤミス」とかよりよほど嫌な後味が残り、それがまたたまらんのである。