life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「over the edge」(著:堂場 瞬一)

2015-10-29 21:44:55 | 【書物】1点集中型
 堂場作品は「警視庁失踪課」を1つ読んだ気がする……んだけど実はドラマを見ただけかもしれない(笑)。そのくらい記憶がおぼろげなわけだが、この本についてはまず元刑事の探偵とNY市警の刑事というコンビに興味を持った。で、とりあえずシリーズものじゃないやつでもう1回堂場作品がどんな雰囲気か確認してから、今後いろいろ読むかどうか考えようと思って手を出してみた次第。
 几帳面なNY市警の現役刑事ブラウンと、だらしなさをそのまま形にしたような元刑事の濱崎。ブラウンは仕事としての視察の傍ら、東京で失踪した友人を探す中で何者かに襲われ、濱崎と出会う。興味からブラウンに手を貸そうとする濱崎を、ブラウンはその性格から信用することができない。ただいかにも異邦人である風貌の故に日本人の手がどうし得も必要になったことで、2人はつかず離れずの状態でブラウンの友人を探すことになる。

 酒と煙草の小道具がちょいちょい出てくることやら、ブラウンと濱崎それぞれの過去がごく断片的に語られていく雰囲気やら、終盤になってまじめに女の話が出てくるあたりはもろにハードボイルド。なんだけど、そういう雰囲気は見えるものの、話の進展がいまいち見えにくいというか、盛り上がりは少なくてわりと平坦な感じ。空気感は嫌いではないんだけど、登場人物の動きを見ていると犯人に意外性はないので、もう少し手に汗握る山あり谷ありがあっても良いかなーと思った。しいて言えば最後の、犯人たちと濱崎・ブラウンそれぞれの対決は盛り上がりと言えば盛り上がりなのだが、まあそりゃ当たり前の話ではある。
 というわけで、悪くはないんだけども、なんとなく「次」があってもなくてもいいかなぁという印象だった。ただ、動きを追っていて楽しくなりそうと思われるのは間違いなく濱崎なので、濱崎がNYに行くともっと面白くなるんじゃないかなぁと思ってみたりはする。

 でも結局まだピンと来てはいないので(笑)やっぱり「鳴沢了」シリーズから入った方がいいのかなー。ドラマはけっこう面白く観たので(1つか2つだけど)。

「混沌(カオス)ホテル」(著:コニー・ウィリス/訳:大森 望)

2015-10-08 21:28:25 | 【書物】1点集中型
 「犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」が楽しくて、いろいろ読んでみたいと思いつつも読めてなかったウィリス作品。「ザ・ベスト・オブ」ということで、ユーモア系短編集である。

 表題作「混沌ホテル」は量子論の捉えどころのなさが現実におりてくると何が起こり得るか、みたいな感じか。起承転結なんて感じられなくても、どこで何が起きてるのか全然把握できない学会でも(笑)結局収束しきらないのがまさにカオス。このハチャメチャぶりに乗っかれ、ノリだけで充分楽しめるぞ、という雰囲気。「女王様でも」は女性特有の話題というか問題というか悩みというか、をSFに仕立ててある。読後、男女で感じ方がきっと違うだろうと思うので、比べてみたい気がするなぁ。
 「インサイダー疑惑」「まれびとこぞりて」はどちらも謎解き的要素を含むが、これまたウィリスのコメディらしく軽快でウィットが効いている。登場人物たちが大真面目なだけに、余計におかしみを誘う。で、やっぱりちょっとラブコメ的要素が入ってるのもウィリス流なのかな。べったりはしてないので読みやすいけどね。
 論文タッチの「魂はみずからの社会を選ぶ」は、論文らしく註が多いので読むのはしんどかったのと、話自体はそんなにきちんと理解できていない気がするけど(笑)、詩という題材をこんな形でSFにもっていくのが単純にすごいなあと。この詩をそう読むか、という。発想力の勝利なんだろうな。

 というわけで、ウィリスのコメディ系が楽しめるのは十分理解できてきたので(ってまだ長編1つとこの短編集だけだけど)、そろそろシリアス系も読んでみようかな。と思いつつ、やっぱりあまりに楽しいユーモア系の誘惑に負けてしまいそうな気もするんだけど(笑)

「オフ・ザ・マップ 世界から隔絶された場所」(著:アラステア・ボネット/訳:夏目 大)

2015-10-03 22:02:19 | 【書物】1点集中型
 実感しにくいが現実として存在する、あるいは現実として消失した場所を紹介している本。「CIAの拘留施設」あたりに安直につられて(笑)読んでみた次第。とはいえ、そんなスパイ小説みたいな話をするための本ではない。当たり前だけど。
 あると思われていたが、実は存在しない場所であった「解明された幽霊島」サンディ島を皮切りに、国境が突然書き換えられたためにその土地の住人ににも絶大な影響を与えることになった中米のある地域、政治や戦争あるいは原発事故が生んださまざまな廃墟、ある国の中に他国の土地が存在する「飛び地」(この例が複数あるというのが驚きだ)、海上を漂う「浮遊島」などなど、40弱の場所が紹介されている。

 読んでみて思ったのは、「場所」というのは単なる「位置」を指すものではないのだということ。当たり前の話ではあるが、どんな場所でも、場所とはその周囲にあるものやそこにある人間社会によって意味が生じる、本質的には相対的なものなのではないかと思う。場所は今そこがそうなった理由を必ず持っており、つまり歴史と物語があるということだ。この本はその、場所を形作るストーリーを存分に教えてくれるものである。
 また場所はときに、人に閉じ込められるような気持ち、そこに縛り付けられているような窮屈さを感じさせることもある。しかし「どこにも属さない」ということは「何にも護られない」ということであり、そのような場所にあると現代の社会においてどれほど存在が不明確なものになるかの実例ともいえる「場所」も紹介されている。それを理解すると、あくまで現代社会における話にはなるが、国家というものの存在は決して軽視すべきではないという話も、説得力がある(まあ、その国家が健全なものであるかどうかはまた別の話なのだが……)。地理学も、突き詰めていくとこんなに興味深いテーマが生まれてくるのだなぁと、そんな新しい発見をさせてくれた本だと思う。