life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「世界の日本人ジョーク集」(著:早坂 隆)

2016-07-18 23:14:34 | 【日常】些事雑感
 某大学の教養科目の先生がこの本を授業の題材に使っていて、いくつか見せてもらった「ジョーク」の例がおもしろかったので、実物を読んでみた。
 2006年の本なのでネタ的にはちょっと古さもあるのだが(小泉政権とか)、日本だけではなく各国が外国からどう見られているかが垣間見える。日本人=金持ちの構図が
10年前でも幅を利かせてる感じがちょっと悲しいんだけども、それだけ印象強かったということではあると思う。

 しかし「電球ジョーク」はなんでこんないろいろパターンがあるのか、そのことがおもしろいやら驚くやらである。もろもろのジョークの背景にある情勢を併せて解説してくれるので、笑いどころがわかりやすい。原文がわからないと全然意味が通じないものもあるので。それにしても「L」と{R」の違いとかこんなに極端なのにありがちに見える例を出されると、やっぱり私なんぞには英語は無理だ! と思わされてしまう(笑)。
 個人的にちょっとツボに入ったのが「食文化」の「イギリスは豊かな国だと聞いていたのに、イギリス料理などを食べている」というやつで。アメリカも似たようなものの気もしないでもないが(笑)。

 日本人を示すジョークは、外から見た場合のステレオタイプな姿なので、納得できるものもあれば苦笑してしまうもの、痛いところを突かれるものも(笑)あるんだけれども、おそらくそれは逆も言えることなのだろう。その意味では、その国を見たりその国の人の言葉を聞いたりして直接知ることはやはり大事だなぁとあらためて思う次第。わかるとなお、こういうジョークがおもしろくなりもするだろうし。
 著者の「ジョーク集」はいろいろあるようなので、ほかのものも読んでみたい。何年かおきに同じテーマでまたジョークを集めてみてもらったら、変化する部分もあっておもしろそうだなと思うし、わかりやすく社会の動きを知る素材になりそう。

「細木数子 魔女の履歴書」(著:溝口 敦)

2016-07-13 21:38:35 | 【日常】些事雑感
 本屋で面出ししてあるのをたまたま見かけた。細木数子という人や占いには特に興味はなかったけど、そういえばこの人いつの間にかいなくなってたのは何故? と、その点にちょっと興味を持ったので借りてみた。
 著者は裏社会、特に山口組周辺のドキュメントなどを数多く手掛けているジャーナリストだそうだ。そういう人が何故細木数子ネタなのかというと、それ自体は「週刊現代」編集部の連載企画に著者が乗ったというものである。当初は特に批判目的で始めたわけではなかったそうだが、連載開始前から既に暴力団の関与を匂わせる動きがあったらしい。かつ、連載開始後は細木が講談社に対して損害賠償訴訟を起こしたという経緯があったそうだ。

 本文に詳細に記されているが、細木自身が生来、裏社会との繋がりを持って生きてきている。戦前はまだ妻妾同居が珍しくなかったという話からして実感がなく、隔世の感も大きい。ポン引きから水商売、その自店絡みの売春などなど、延々とその手の商売を続けつつ、ほんの少しかじっただけの占星術にどんどん尾ひれをつけて、「六占星術」なるものを看板に据えた……という感じのようだ。ざっくり言うと。
 金の臭いのする人を嗅ぎつけて、とにかく利用しまくる。ヤクザの女におさまり、果ては自ら「女ヤクザ」のごとき振る舞い。そして「神水から墓石まで」という絵に描いたような霊感商法。TV出演から墓石ビジネスを含めた占い関係の収入まで年収ざっと24億円というから恐れ入る。そんな細木は著者曰く「時代の持つ貧しさと低俗性の象徴」であるが、これはまさに言い得て妙だろう。しかもそんな細木と裏社会の諸々の繋がりを承知していながら、祀り上げていたTV局もまた低俗の極みである。

 しかし世間は細木の番組を面白がって(信じているかどうかは全く別の問題として)観賞してもいたわけで、TV局も低俗なら、その仕掛けにしたり顔で乗ってみせる側もまた十分に低俗だ。細木数子という存在があまりにも大きすぎて目を眩ませられるが、そうした低俗さは誰の中にも存在する。細木のように表出するかどうかは別として。だから自制も自省も必要なのだ。
 ……って、そんな人生訓みたいな話をしている本ではないが。ただ「あとがき」にあったように、細木数子に「あまりに敵が多すぎ」、多くの関係者が著者へ取材協力を惜しまなかったことを考えると、やはり細木数子のような「魔女」の所業に対して、何かを感じておくべきだとは思うのだ。

「元素生活」(著:寄藤 文平)

2015-05-30 23:33:51 | 【日常】些事雑感
 寄藤氏の本は一度読んでみたかったのだがずっと手がつけられずだった(本当は、もともと「絵と言葉の研究」を読んでみたかった……のだが未だに読んでいない)。が、この本があるのを知って、寄藤氏が書く科学系ってどんなんだろうと俄然気になったのと、少し前に別の元素系の本を読んでて興味が持続していたので読んでみた次第。オリジナルしおりがついてるのが嬉しい(笑)
 元素を擬人化して特徴ごとにパーツを組み合わせたコスプレ紛い(笑)のキャラクターとして見せる発想がさすが。元素が人間そのものであるならば、ということで「人間の原価」を計算してるのも面白い。あと、元素がそもそも自然のものだけではなく、これからも創られていく可能性があることを今さら理解した。

 結局、やっぱり周期表を覚えるのは大変なんだけど(笑)どういう点が見分けのポイントなのかがそのまま、キャラクターの描き分けのポイントになってるので「なるほどなー」と思う。これだけ作り込んだら覚えるよなぁ。でもなんで男子限定なのかなー。女子な元素がいたらどうなるのかな、とか思ったりもした。

「スパイのためのハンドブック」(著:ウォルフガング・ロッツ/訳:朝河 伸英)

2014-08-20 21:25:53 | 【日常】些事雑感
 タイトルが面白かったので。世の中にありそうで実はあんまりお目にかからない「How to スパイ」な本である。著者が在籍したのが、CIAやKGBと並び称されるほどのイスラエル情報機関モサドだというのも、ありそうであんまりないような気がする。元CIA局員の回想録みたいなのは見かけるけど。
 著者はユダヤ人を母に持つドイツ生まれ。ナチが力を持ち始めたころパレスチナに移住、イスラエル建国後にイスラエル軍に志願して、その後モサドにスカウトされてエジプトにて職務を遂行していたらしい。エースといえる凄腕部員だったそうで、「シャンペン・スパイ」とも呼ばれ、この本でもその由来に少し触れられている。また、その名もまさしく「シャンペン・スパイ」という回顧録も出版されている。

 ……でこの本だが、How toものらしくまずは10の設問によるスパイ能力テストに始まり、その設問の意味をひとつひとつ解説してくれる。そして実際のスカウトのされ方、尾行のトレーニング、経歴偽装のコツ、異性との関わり合いなどなどのレクチャーが続く。スパイ同士が会見するときの手口はよくスパイ小説でもお目にかかるシーンそのものである。
 また、通常の(?)スパイ活動だけでなく、著者自身の経験もあって「拘置所、刑務所、懲治監」といった場所でどのようにして生き延びるか、といったような話もある。さらには引退後の生活についてまで……というのは要するに、もらうものは引退してからよりも活動している今こそ胸を張って要求し、もらっておかないと後悔する、という話だったりもするのだが(笑)。

 特殊な職業であることだけは間違いないわけだが、全体的に語り口も軽妙であり、緊迫するミッションの話などはほぼないので、「お仕事紹介」として気軽に読めてしまう。1982年の本なので多少、現代のスパイのあり方と違ってきているところもあるだろうが(というか「スパイ」という言葉自体が死語に近くなってきている雰囲気もあるが)、「向き不向き」みたいな普遍的な話が中心なのでさほど違和感なく、ちょっとしたトリビア感を覚えつつ楽しめる本でもある。

「これが物理学だ!」(著:ウォルター・ルーウィン/訳:東江 一紀)

2014-05-30 21:58:57 | 【日常】些事雑感
 「不確かさの自覚なしに行なう測定は、いかなる場合も意味がない」

 サブタイトルは「マサチューセッツ工科大学『感動』講義」。WEB講義が世界中で人気を博しているMIT教授、ウォルター・H・G・ルーウィン教授の、大学で行われている物理学の講座をまとめたものである。口絵もたくさんあるけど、それ以上に文中で動画などがいろいろ紹介されている。それがなかなか見切れなかったのがちょっと残念ではあるが……

 この世にあるあらゆる現象を解き明かすための大いなる力である物理学が、どのように築かれ、その力がどのように現代社会に活用されているのか、ときにエキサイティングな実演も交えて紹介される。ニュートンの法則から宇宙船の中で宇宙飛行士が浮遊する理由が読み解けたり、床から5mの高さにストローでクランベリージュースを吸い上げて圧力の意味を示したり、さまざまな姿を見せる虹の姿が粒子であり波動であるという光の二面性に結びついたり。
 後半は現在の著者の専門であるX線天文学にシフトしている。サイエンス系の読み物に興味を持つまで、物理学と天文学がこれほど密接に関係しているとはよもや思っていなかったど文系の私であるが、知ってしまった今となってはこのあたりの話にワクワク感が湧き起こってしかたない。そもそも分光学が生み出されただけでもすごいと思ったけど、自然現象の中で発生するX線を、その発生理由を突き止めることによってその原理をほかの何かに活用する、まさにこの手法こそ物理学の真骨頂といえる鮮やかさがある。

 全体的には、大学の講義でありつつも「どんなモノを見せたら、物理学に対して学生を興奮させることができるのか」を常に念頭に置いて構成された、一種のエンタテインメントじゃないかと思う。虹の美しさには単純に心惹かれるし、感覚で「美しい」とか「好き」だと感じる芸術作品にしても、実はものすごく緻密に計算された制作過程があったからこそ、鑑賞者にその感覚を与えるものだったりすることがあるのだ(すべてがすべてではないにしても)。人間の感覚をものづくりに生かそうとする人間工学もそれに近いものがあると思う。やっぱり、こうやって見ると物理学って面白い学問なんだよね。得意にはどうしてもならないけど(笑)。

1984年から30年経ったというので

2014-05-05 23:58:39 | 【日常】些事雑感
 久しく会えずにいた友人から、「地元に来るのでよかったら一緒にどう?」と、「TM NETWORK 30th FROM 1984」に誘われた。って、友人の地元は名古屋なのであるが(笑)。でも、なかなか会う機会も作れてなかったのでいいタイミングだと思い、誘いに乗って行ってきた。ここ2年ほどLiveやってたのは知ってたんだけど、実際は「Major Turn-Around」以来行ってない(し、それ以降のアルバムも聴いてない……)ので、なんと10数年ぶりのTMですよ。その間に行ったLiveと言えばOASISの来日公演ぐらいだ。
 まあ、オリジナルのフルアルバムが出てるわけじゃなし、正直大きな期待は持っていなかった。でも事前にちょっとチェックだけしてみたset listを見ると「終了」前の曲がほとんどだったのである意味安心して(笑)臨んだ次第。

 会場行ったら、ホールだけどそれなりに人がいっぱいいてこれまたひと安心(笑)したわけだが、一応パンフくらい買っとくか~と思って見てみたら3,000円とか言われたので腰が引けた。私の中での予算が2,000円だったから(笑)。結果、却下した。

 そんでLiveが始まってみますと、いやいや、初っ端の映像からけっこうかっこいいじゃないですか。これは期待できるかも。と思いながら2分余り(と、前日に会った別のTMおたくというかTKおたくな友人から聞いていた)の映像を眺めていたものだった。
 OP曲は先月出たばかりの新曲「LOUD」だったんだけど、知ってたのに事前に動画ちゃんと見ておかなかった(笑)。でもキャッチーな曲だったのでノリやすかった。PV映像はスター・トレックかVirtual InsanityかScream(Jackson兄妹の)か、ってとこだったけど(笑)←好きなタイプの映像だけど

 アレンジは全曲、今年仕様だったのでどれもどの曲か見当をつけるまで若干時間がかかった(笑)のだが、おなじみのフレーズがイントロに散りばめてはあるので、どっかでちゃんと気づけるようになっていた。全体として今のてっちゃんがやりたいらしいEDMというやつで、まあそもそも原点はその辺にあるよねという、音質は今風になってるけど全体の雰囲気がTMの原点っぽい感じ。アレンジに違和感もなかったし、だから安心して楽しめましたよ。
 ショーコンセプトをしっかり固めている印象ではあったので、ウツと木根さん(一応哲哉さんも)の小芝居(←おい)もそんなにわざとらしくなく、ストーリーとして見てられた。まあ、OP映像が「Starring~」から始まるように、舞台というか映画のようなつくりになっていたから、かーなーり時間きっちり! って感じだったけども、完成度は高かったと思った。TMらしいステージだなと、個人的には思った次第。観に行く前に入れ込んでなかった分(笑)満足度は高かったです。楽しかった。誘ってくれた友人に感謝です!

 なもんで、これならお布施してもいいと思い(笑)結局パンフは買って帰りました。はい。

 もはや決して細くも華奢でもない哲哉さん見てると過ぎし年月を思わずにはいられないのだが(笑)、ウツの声がとても安定していたし、何より「こんなにLiveできれいな声出てたっけ??」と思わせるくらいに歌声に透明感と若々しさがあって、驚きました。ごめんなさい。そして木根さんは、ピアノを弾くシーンなかったのは若干残念ではあったが、木根さん自身の雰囲気が全く変わってなくてそれがとても安心できました。猫背も(笑)。
 ということで、今日良かったよ~と、別席で参加していた昨日のおたく友だちにメールしてみたら、だったら「DRESS2」買ってよ! Liveのアレンジはこれが元だから! と畳みかけられ、まんまと買った。で、今聴いている。各曲のタイトルをもうちょっと考えてほしかったが(笑)。昔みたいにおもしろいMix名とかつけてほしかったのにー。(一緒につい「小室哲哉ぴあ TM編」とか買っちゃったのは内緒。)

 おたく友人の話によると、ステージに出てきてたドロイド(あれ、TAKE THATの「PROGRESS live」で出てきたあのどでかい人形思い出すんだけどね。なんだっけあの名前、忘れちゃったけど)と、映像の中にあった「1974 in LONDON」みたいなのがどうもリンクしているらしく、ドロイドは女の子で、1991年には17歳なわけで……という話なんだそうだが。んでもって、Liveの最後、予告として「2014 Winter」とか言ってたのと結びついて、「CAR●L2」とかになるって話らしいんだが(全然伏せ字になってない)。
 ただ、CAR●Lって話そのものが完結してるし、あれってあの音をわざわざこだわってロンドンで録ったんじゃん! あの音だからいいんじゃん! とか個人的には思ってるので……それをいい意味で裏切ってくれるといいなあと思うのですが。あと、リプロダクトでもリミックスでもやってくれていいねんけど、ツアー2回続けて過去曲メインっつーのも何なので(笑)、どうせやるならオリジナルフルアルバム出してくださいよという(私の)意見もある。

 まあ何はともあれ、今回のLive自体は来てよかった! というのが素直な感想。ぜひ、この質を保って還暦を迎えてほしいです(笑)。

なんか右手の親指が痛いと思っていて、

2013-12-21 21:23:37 | 【日常】些事雑感
 力を入れると痛いのである。ボタンを押したり、洗濯ばさみを止めたりという動作が全然できないくらいの痛み。最初はつき指かなーと思ったのだが(つき指したこともないんだけど、なんとなくこういうイメージなのか? と勝手に思った)、別にぶつけてもいないし腫れてもいないし熱を持ってるわけでもない。
 よくわからないので、2、3日様子を見てみたんだけど、落ち着く様子がなかったので診てもらいに行ったら、腱鞘炎だった。ううむ。普段と違うことした覚えがないのに。
 注射をするとすぐ良くなるらしいのだが、かなり痛い(間接注射はそういうものらしい)ので湿布で経過を見ましょうということで、あっさり診察も処置も終わってしまったのだけど(笑)、問題は年賀状を書くのがこれからだということですよ! たいした枚数もないけど(笑)やっぱりこの状態で書きものをすると相当、字に乱れが出るので、正直やばいと思っている。書くのやだなぁ。かといって、年賀状に「腱鞘炎になりました」とか書くのも嫌だな。(笑)

とうとう雪が~

2013-11-08 23:29:24 | 【日常】些事雑感
 ちらついた本日。
 いや本当のことを言うと日中は強風と雨時々霙? 霰? みたいなひどい天気で(笑)。でも夜になって風は多少落ち着いた。

 で、家に帰るバスを降りたら、雪らしい雪がちらちらと。
 WalkmanからちょーどColdplayの「VIVA LA VIDA」が流れてきて、それがなんだか妙にマッチしていて、とてもいい雰囲気に(脳内で)なってしまったよー。
 ……まあ、いよいよ長い冬なんですけどね(泣)

久々に近場の展覧会に行きましたよ。

2013-08-15 19:21:24 | 【日常】些事雑感
 シャガール展。点数はまあまああって良かったんだけど、そのわりに展示スペースが窮屈な感じでちょっとしんどかった。大きい作品は、しっかり全景を堪能できるようにもうちょっと大きいスペースがほしいなぁと。

 でもやっぱり色使いが本当に、誰にも真似できない素敵さ。ステンドグラスの実物が見てみたくてたまらなくなってしまった。サーカス関連の下絵(アルルカンとか女曲馬師とか)あたりからいろいろと見えてくる布や紙でのコラージュ表現も。あと、「ハダサー医療センター附属シナゴーグのステンドグラスのための最終下絵」(長いな)にあった、彩色したダビデの星にも個人的にはすごい惹かれた。
 油絵やステンドグラス以外にも、銅版画や彫刻、陶芸、衣装デザインと幅広く取り組んでいるのも実は今回、はじめて知った。陶芸あたりは造形のユニークさもおもしろい。それから、どれをとっても温かみが伝わってくる恋人たちのモチーフ。シャガールという芸術家の、今まで知らなかったたくさんの側面を見ることができたのはすごく、私自身はよかったと思っている。

 毎年、年1回くらいしか実は来ることがないのだが(いまいち、気になる展覧会が巡ってこないから)秋に「森と湖の国 フィンランド・デザイン」があることが判明した! たぶん去年だかにサントリー美術館でやってて、行きたかったけど行けなかったものと同じ。これは嬉しい。ので、それには絶対に行く予定。

「1922」(著:スティーヴン・キング/訳:横山 啓明・中川 聖)

2013-05-22 23:59:58 | 【日常】些事雑感
 「Full Dark, No Stars」という中編集から2作を収録したもの。残り2編は「ビッグ・ドライバー」という別冊で出ているらしい。

 「1922」はこれぞキングという印象を受けるホラーだった。妻殺しの描写と、ウィルフレッド(と息子ヘンリー)の底なし沼のような転落ぶりには圧倒される。実のところ、スプラッタ的な描写は私自身あんまり好みじゃないのだが、そういう好き嫌いとは全く別のところで「読ませる」力がものすごい。画を想起させる部分と、ウィルフレッドの精神がどんどん蝕まれていく様子が相乗効果を起こして、眼が釘づけになってしまう。
 「公正な取引」は作中に示唆がある通り、まさに「悪魔との取引」である。でも、主人公=悪魔(であるかもしれない何者か)と取引をした人間にとっての最高の状態でエンディングを迎えているというのが、ちょっと独特な雰囲気を残すところ。これを因果応報ととることもできるし、でももしトムがその後エルビッドに出会い、ストリーターと同じことを願うとしたらどうなるのか? と考えてみたりもできる。さらには、ストリーターに共感するのか反発を覚えるのか、そしてなぜ自分がそう思うのかを考えると……むしろ熟した毒があるのは、こちらの物語の方かもしれないなと思う。

 こうしてある意味対照的な2作を読むと、じゃあ「ビッグ・ドライバー」はどんななんだ、って気分にどうしてもなっちゃうなぁ。なので、折を見て読んでみようと思う。