殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

体験入部・3

2017年11月03日 10時09分03秒 | みりこんぐらし
義母ヨシコの留守を確保したい‥

そんなヨコシマな心によって

おトミ母娘とのお出かけに参加してみた私だったが

これといった案は浮かばなかった。


私がおトミ母娘と接触したことについて

夫の姉カンジワ・ルイーゼは、珍しく所見を述べた。

「聖子ちゃん、生意気じゃろ」

ルイーゼも以前、ヨシコに誘われてこの集いに同行したことがあり

一回で辟易したのだった。

無理もない。

ルイーゼと聖子ちゃんは、ほとんど同じ性格。

女王が2人いてはいけない。


あんたとそっくりでした‥とも言えず

ヨシコ、ルイーゼ、私の3人は、おトミ母娘の話題で大いに盛り上がる。

参加した成果といったら、共通の話題が増えたことだろう。


聖子ちゃんより3つ年上のルイーゼと違い

私は聖子ちゃんより年下なので、生意気とは思わない。

高飛車なお姉ちゃんに引っ張られる妹になった感じ。

普段、一卵性母子VS嫁という猛毒生活を送る身としては

聖子ちゃんの放つ強烈が、心地よい刺激に感じられた。


また一方で、私におしぼりや箸を配るよう指示したり

座る席やバッグの置き場所をテキパキ指定する聖子ちゃんと比較すると

ルイーゼのおとなしさや控え目が際立つ。

よく似た両者であっても、結婚という理不尽を知らない聖子ちゃんより

細かくて面倒くさい旦那を持つルイーゼの方が

柔軟で大らかに思えるのは身内の欲目だろうか。


おトミ母娘は新メンバーの参加が新鮮だったらしく

「また行こう」と言ってきた。

しかし、そうたびたび行けるものではない。

うちには毎日昼ごはんを食べに帰って来る男どもが3人いて

私の外出を阻む原因になっているからだ。

また反面、この習慣は意外に説得力があり

気乗りのしない誘いを断るには最適の理由になっている。


彼らが全員帰らない昼、というのは滅多に無いため

以後はヨシコだけが、誘いの電話2回に1回のペースで参加を続け

私が参加したのは2ヶ月後、つい先日であった。


今度は違う街へ行った。

「どこか、いい所知らない?」

聖子ちゃんがまた言うので、どうせ却下だと思いながら

「しゃれたカフェができてるよ」

と言ってみる。


「カフェ?」

聖子ちゃん、今度は食いついた。

「行ってみたい」ということで、その店へ向かう。


この日、おトミからの電話がいつもより遅めだったので

ヨシコと私は昼ごはんを半分食べたところだった。

空腹でない我々はコーヒーとケーキを注文し

おトミ母娘は、聖子ちゃんの仕切りで

サラダとスープの付いた豪勢なサンドイッチセットに

別注でアイスコーヒーを頼んだ。


おトミは家を出る前に何か食べていたらしく、食事にほとんど手をつけない。

事前に何か食べたことが聖子ちゃんに知られると

規則正しい食事を推奨する彼女に叱られるので、言えないのだった。

しかし今度は、食べないといって厳しく叱られていた。

どっちにしても叱られるのだ。


食べ終わると会計。

レシートを見たら、ぴったり5千円だ。

我々が2人で千円、おトミ母娘が4千円の内訳である。


「じゃ、2千5百円ずつね」

明るく言い渡す聖子ちゃん。

これが噂に聞く不明朗会計か!

そう思ったけど、ガソリン代と思い直して素直に従う。


たまたま私の財布に5百円が無かったため

3千円を出して、聖子ちゃんがお釣りをくれるのを待った。

しかし聖子ちゃんの辞書に、お釣りの文字は無さそう。


ここでヨシコ、私に言う。

「今日は私の分は出すわ」

安い時、目立つように出しておいて

高い時にたかる“海老鯛商法”は、彼女の常套手段である。

ヨシコは財布から5百円を探すが、やはり無かったので

テーブルに千円札を置いて私からのお釣りを待つ。


細かいことを言うようだけど、この千円はたしか私のもののはず。

が‥

「お釣りが無いんだってば‥」

ヨシコに言っている間に、野口英世は聖子ちゃんにさらわれた。


私の出した3千円と、ヨシコの出した千円を掌握した聖子ちゃんは

おトミに残りの千円を出すよう命じ、合計5千円を持ってレジに向かう。

こ‥これが、かの有名な不明朗会計か!

不明朗会計に第2弾があることを知り、感動すら覚えた私であった。


‥食べきれないのに、2人で高い物ばっかり注文して

払いは割り勘にさせるのよ‥

ヨシコがぼやくのを聞いては「細かい」と非難したあげく

「免許持ってない人は、運転する者の気遣いがわからんのじゃ。

たいていのことには目をつぶりんさい」

などと、えらそうに言い聞かせていた我が身を恥じる私よ。

噂の不明朗会計は、聞きしに勝るものであった。

鮮やかな手口を目の当たりにして、もはや感心するほかはない。

敗因は、財布に5百円が無かったこと‥それだけはわかった。


その夜、ヨシコは、半年前の出来事を私に打ち明けた。

バランスのおシマがグループから抜けた本当の理由‥

名付けてケーキ事件である。

《続く》
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする