殿は今夜もご乱心

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宇宙人のその後

2016年10月05日 22時36分52秒 | みりこんぐらし
同級生であり、病院の厨房で同僚だった

けいちゃんは、7月に甲状腺癌の疑いが発覚した。

今も厨房で働く彼女が

入院手術のための休暇を願い出た際

厨房のドンである管理栄養士のA子と

部下の栄養士B子は、冷酷にも

「本当に必要な手術?」などと言った。


それを聞いた私は

「あいつらは宇宙人なのだ」

と言った。

「宇宙人だから、地球のバチは当たらない」

とも言った。

(2016年7月20日・宇宙人の秘密)


そして9月、けいちゃんは無事に手術を終えて退院した。

摘出した腫瘍は良性、術後の経過も順調。

そこで先日、元同僚のエミさんと私とで

彼女の全快祝いを催した。

その席上で、けいちゃんから衝撃の発表が。


退院後の自宅療養中、A子から電話があったという。

経過を心配してのことではない。

「話があるから、家に行ってもいい?」

という連絡だった。

さすが宇宙人である。


話があると言われ、親しく行き来する仲でもないのに

家に来ると言われ、当惑したけいちゃんはたずねた。

「いい話?悪い話?」

A子は答えた。

「両方」

そして電話は切られた。


病気を理由に肩叩きが行われると思ったけいちゃんは

首を洗ってA子の訪問を待った。

しかし、訪れたA子の話は全く違う内容だった。

「私、結婚することになったんよ」


けいちゃんが入院している間に、A子は44才にして

結婚が決まったというではないか。

出会いから2週間足らずのスピード婚で

結婚しても仕事は続けるそうだ。

バチどころか、幸せが訪れおった。


けいちゃんはポカンとした後、かろうじて言った。

「お、おめでとう‥それが、いい話?」

「うん」

「どうやって知り合ったん?」

「B子さんの紹介。

でもね‥悪い話の方は、これ」


私がまだ厨房で働いていた10年余り前

病院の拡張に伴う募集で入ったのがB子。

今もそうだが、当時38才の彼女は

横着で横柄な女だった。


A子とB子はウマが合ったのか、すぐに親しくなった。

じきにA子が、B子の亭主と子供たちを

呼び捨てにするようになったので

A子を家族総出でご接待している様子も想像できた。


B子は、そのご接待の一環として

男の紹介も熱心に行った。

B子の亭主は都市部の大手企業に勤めており

田舎ではエリートの部類。

あくまで田舎の基準だが、B子は

ハイクラスの奥様を演じるのが実にうまく

前々からエリートとの結婚を望んでいたA子は

B子の優雅な生活に憧れた。


そこでB子は自分の亭主に同僚の男を紹介させ

見合いを取り持つようになった。

結果はことごとく不発に終わったが

その頃にはA子と厨房は、B子の思うがままに

操られていた。


やがてB子はA子の推薦で、パートから非常勤に昇進し

公務員に準ずる月給とボーナスをゲット。

A子の縁談は身を結ばなかったが

B子の営業の方は結実したのだった。


話は戻って、このたびめでたく

結婚が決まったA子の相手は

B子の亭主のイトコで、バツイチの45才。

A子が年を取ったため、ついに紹介する相手がいなくなり

身内をあてがったらしい。


2人はすぐに意気投合し、結婚を決めた。

これでA子とB子は大親友から親戚に進化し

ますます仲良しこよしになるはずだった。

しかしA子とイトコから結婚の報告を受けた

B子夫婦は大反対。


「なんで反対されるのか、わからない。

紹介しておいて勝手だと思わない?」

同意を求められ、言葉に詰まるけいちゃん。

「その理由は、あなたが一番よく知っているのでは‥」

というやつだ。

B子が反対するのは、A子が今も

妻子ある美容師との不倫を続けているからである。

(2011年9月9日・月光仮面の謎)


B子は早い時期から、A子の不倫を知っていた。

日々、A子のおのろけを聞くのも

B子の重要な仕事だったことは

時折聞こえてくる2人の会話で丸わかりだった。


他人なら許せても、親戚へ嫁に来るとなると話は別。

どうせ今度も不発と思い込んで紹介した

B子夫婦はさぞや慌てたと思う。


20代から次々と不倫相手を変え

今の相手とは13年。

婚期を逃して中年になった、いわく付きの女だと

誰よりも知ってながら

みすみすイトコに添わせたい者は、あんまりいない。

だがA子本人は心当たりがない様子で

日頃いじめていたけいちゃんに

味方欲しさで擦り寄ったのだった。


「ヒトシ(男の名前)は

あなたを幸せにできる男じゃない」

B子は、A子にあきらめるよう説得し

「交際の報告もしないで、いきなり結婚とは何事だ」

B子の亭主はイトコにゴネた。


しかしご存知のように

男女の仲というのは障害があると燃えるもの。

夫婦が騒げば騒ぐほど、結婚の決意は強まった。

そこで夫婦は亭主の母親と、男の母親を味方に付け

反対運動は激化した。


そして先週、B子は最後の手段に出た。

「結婚をやめないなら、私が仕事を辞める」

A子は答えた。

「結婚はやめない」

B子は後に引けなくなって退職願いを出した。

しかし12月のボーナスまでは来るという。

10年余りに渡る仲良しごっこは

こうして終わった。


今、2人は口をきかないので仕事がはかどり

厨房はスムーズに回っているそうだ。

2人で組んで、けいちゃんに

意地悪を言うことも無くなったため

彼女の病後も安全。

楽しい全快祝いだった。
コメント (10)
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