突如、ガーデニングらしき行為に手を染めたのにはワケがある。
老人クラブで配られた、葉ボタンのせいだ。
毎年12月になると、老人クラブから葉ボタンが届く。
老人1名につき、葉ボタン2個。
うちには老人が2人いたので、去年まで4個もらっていた。
もらって嬉しいほどでもないけど
配ってくれる世話役に悪いから植えておこうか…
その程度の扱いで何年も経過。
今年は義父アツシが他界したため、2個になった。
夫に先立たれた女性は、一人になった現実を
数で思い知らされる。
このような配り物もそうだが
先に男が死ぬと、中元歳暮の数まで変わるものだ。
「わかっちゃいるけど、折りにふれて数に現れると悲しいものよ」
実家の父が死んでしばらくの間、気丈なはずの母はそう言っていた。
義母ヨシコは、このところ腰痛に苦しんでいる。
ただでさえ甘ったれなのに、痛みで気の弱っているところへ
葉ボタン半減はきついかも…
いつになく気を利かせた私は、急いでホームセンターへ走った。
葉ボタンをめでたげに飾って、ごまかそうとしたのだ。
適当に植物を買って家に帰り
花が終わって、硬い木と化している日日草をズボッと引っこ抜く。
その穴へ、葉ボタンや他の植物を
植えるというより埋めたら、何となくそれらしくなった。
先週末あたりから、少し庭を歩けるようになったヨシコは
私の「作品」を見て、「あら、いいじゃない」と言い
数が減ったことには無関心の様子。
葉ボタンを持って来たのがいつもの人でなく
裏のおじさんに交代していたことに興味を示していた。
「前のおっさんは世話役を引退したんだわ。
今度は裏のおっさんなのね」
自分より年下の人をおっさんと呼ばないように…
孫に注意されるヨシコ。
そうだった…寂しい寂しいと言うわりに
ヨシコは案外ドライなのを忘れていた。
葉ボタンの心配は、無駄骨に終わった。
その時、鉢に入りきらなかった植物がいくつか残った。
これらに新居を与える必要にかられて庭を見回すと
あちこちにたくさんあるではないか。
植えたきり枯れ果てたのや、すでに違う植物が生息している鉢が
何十個もぶら下がったり、転がっている。
これまで、私に許されていたのは二階のベランダのみであった。
毎年、ベランダの手すりにぶら下げた5つの鉢に
真紅のペチュニアを並べる…
それが私にとって唯一のガーデニング。
庭…特に道路に面した人目につく場所は
ヨシコの譲れぬ舞台であり、私は掃除をするだけだった。
人が散らかした庭をせっせと掃除するのは
ちっとも楽しくない。
しかし今、ヨシコは腰痛で動けないではないか。
監視もつかないし、許可もいらないではないか。
「やるなら今のうちだ!」
私の胸に黒い野心が芽生えた。
鉢で干からびている前任者を引き抜いて葬り
葉ボタンの取り巻きからあぶれたパンジーやプリムラを植える。
緑一色の庭にひと鉢置くと…
おお、美しい!
花が咲いたようだ!
当たり前か!
下剋上は一気に行なわなければ、失敗する可能性が高くなる。
私は再びホームセンターへ走り、おびただしい花々を買った。
そしてガンガン植えまくる。
数時間後、よその家のようになった。
私の反乱を知ったヨシコは、一瞬複雑な表情をしたが
ほどなく順応して「色とりどり」を楽しんでいる。
めでたし、めでたし。
老人クラブで配られた、葉ボタンのせいだ。
毎年12月になると、老人クラブから葉ボタンが届く。
老人1名につき、葉ボタン2個。
うちには老人が2人いたので、去年まで4個もらっていた。
もらって嬉しいほどでもないけど
配ってくれる世話役に悪いから植えておこうか…
その程度の扱いで何年も経過。
今年は義父アツシが他界したため、2個になった。
夫に先立たれた女性は、一人になった現実を
数で思い知らされる。
このような配り物もそうだが
先に男が死ぬと、中元歳暮の数まで変わるものだ。
「わかっちゃいるけど、折りにふれて数に現れると悲しいものよ」
実家の父が死んでしばらくの間、気丈なはずの母はそう言っていた。
義母ヨシコは、このところ腰痛に苦しんでいる。
ただでさえ甘ったれなのに、痛みで気の弱っているところへ
葉ボタン半減はきついかも…
いつになく気を利かせた私は、急いでホームセンターへ走った。
葉ボタンをめでたげに飾って、ごまかそうとしたのだ。
適当に植物を買って家に帰り
花が終わって、硬い木と化している日日草をズボッと引っこ抜く。
その穴へ、葉ボタンや他の植物を
植えるというより埋めたら、何となくそれらしくなった。
先週末あたりから、少し庭を歩けるようになったヨシコは
私の「作品」を見て、「あら、いいじゃない」と言い
数が減ったことには無関心の様子。
葉ボタンを持って来たのがいつもの人でなく
裏のおじさんに交代していたことに興味を示していた。
「前のおっさんは世話役を引退したんだわ。
今度は裏のおっさんなのね」
自分より年下の人をおっさんと呼ばないように…
孫に注意されるヨシコ。
そうだった…寂しい寂しいと言うわりに
ヨシコは案外ドライなのを忘れていた。
葉ボタンの心配は、無駄骨に終わった。
その時、鉢に入りきらなかった植物がいくつか残った。
これらに新居を与える必要にかられて庭を見回すと
あちこちにたくさんあるではないか。
植えたきり枯れ果てたのや、すでに違う植物が生息している鉢が
何十個もぶら下がったり、転がっている。
これまで、私に許されていたのは二階のベランダのみであった。
毎年、ベランダの手すりにぶら下げた5つの鉢に
真紅のペチュニアを並べる…
それが私にとって唯一のガーデニング。
庭…特に道路に面した人目につく場所は
ヨシコの譲れぬ舞台であり、私は掃除をするだけだった。
人が散らかした庭をせっせと掃除するのは
ちっとも楽しくない。
しかし今、ヨシコは腰痛で動けないではないか。
監視もつかないし、許可もいらないではないか。
「やるなら今のうちだ!」
私の胸に黒い野心が芽生えた。
鉢で干からびている前任者を引き抜いて葬り
葉ボタンの取り巻きからあぶれたパンジーやプリムラを植える。
緑一色の庭にひと鉢置くと…
おお、美しい!
花が咲いたようだ!
当たり前か!
下剋上は一気に行なわなければ、失敗する可能性が高くなる。
私は再びホームセンターへ走り、おびただしい花々を買った。
そしてガンガン植えまくる。
数時間後、よその家のようになった。
私の反乱を知ったヨシコは、一瞬複雑な表情をしたが
ほどなく順応して「色とりどり」を楽しんでいる。
めでたし、めでたし。