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殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
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現場はいま…愛媛騒動・1

2025年04月05日 14時10分22秒 | シリーズ・現場はいま…
「僕はもうじき定年で、嘱託になります。

肩書きが無くなると発言権も失うだろうから

この仕事が置き土産になると思います」

そう言って、とある仕事を振ってくれたのは

会社の向かいの工場に勤めている森本君。

そこは、東京に本社のある財閥系一部上場企業の地方工場。

そして彼は責任者だ。


夫が本社に拾われたことによって

義父の会社が倒産を免れた話は再三してきたが

森本君の勤める会社が取引先だったことも

本社がうちを救済してくれた理由の一つである。

財閥系一部上場企業という格式高い取引先は

当時、土建業から総合商社への転身を図っていた本社にとって

喉から手が出るほど欲しいものだったからだ。

ここを取引先に持っているからこそ、夫は67才になった今も

雇ってもらえていると言っても過言ではない。


森本君は高校生の時分から、四つ年上の夫と仲がいい。

伊達こきの彼らは洋服を買う店が同じだったことから

客同士として知り合ったが、彼のお姉さんが夫の同級生だとわかり

さらに親しくなった。

そして彼は、私と同じ高校の2年後輩。

歌のうまい同級生サヨちゃんの弟と同級生だったので

4人でおしゃべりしたことも何度かあった。


やがて森本君は向かいの会社に就職し、順調に昇進していった。

元々賢くて人当たりが良かったので、当然といえば当然だが

出世にあたって一番の後押しになったのは

彼の亡き父親だと認識している。

彼のお父さんも同じ会社に勤めていたが

中年期に工場で発生した事故により、亡くなったのだ。

功労者であり、尊い犠牲者の息子として

森本君の就職と昇進は約束されたようなもの。

昔はそんな風潮だった。


肩書きが上がって権限が増えてくると

森本君は何かと便宜を図ってくれるようになった。

義父の会社が倒産しかけ、本社との合併話が持ち上がった時も

影になり日向になり、多くのサポートをしてくれたものだ。


「ぜひとも本社との直取引を…」

財閥系一部上場企業が大好物の本社は、うちとの合併前も後も

森本君にさんざんアピールを繰り返したが、彼は首を縦に振らなかった。

「ヒロシさんを通してください」

そう言って我々のボスである河野常務すら、にべもなく跳ねつけ

彼の会社の仕事には夫が不可欠であることを強調。

その振る舞いは、夫の存在価値を高める援護射撃となり

「助けると言って近づいて、全部奪ったら切り捨てる」

という本社の方針をひっくり返した。


一番欲しい取引先を奪えないのだから

切り捨てるわけにいかないまま十数年が経ち

業界では乗っ取り屋と陰口をたたかれる本社に乗っ取られなかったのは

今やうちだけになった。

森本君という守護神がいたからだ。

その恩義は生涯、忘れられるものではない。


さて説明が長くなったが、その彼が“置き土産”と称して仕事を振ってくれた。

ありがたいことである。

が、問題は仕事の内容。

行き先は、愛媛県だ。

つまりものすごく遠いので、運転手は一日に一往復しかできないため

利益がほとんど無い。


こっちにいれば、別の取引先を何往復もして

日に何万円かの利益を上げることができるが

まる一日かけて四国へ渡るとなると

本来上がるはずの利益を捨てることになる。

利益だけを考えたら、気持ちは嬉しいけど、困ったな…というのが本音。


しかし商品の納入先も、やはり同じ企業の支社なので

考え方と対応の仕方によっては四国進出…

つまり取引拡大の可能性を含んだ大仕事になる。

森本君も、それを見込んで振ってくれたらしい。


ただ、発展の方向へ向かうのは、ものすごく大変だ。

何しろうちには、アホが服を着たピカチューがいる。

本社の営業部も、あの悪名高い永井営業部長を始めとする逆精鋭揃い。

それらと戦いながら、うまく動かすなんて夫には無理である。


森本君から話を聞いた夫は、愛媛の仕事を快諾した。

「森本がくれた仕事じゃけん、やるしかない」

夫はその夜、私にそう語った。


とりあえず夫がやるべきことは、本社サイドにこの話を伝えること。

地元業者とやる地元周辺の仕事であれば、こちらの単独でできるが

相手が大手、しかも県外となると種々の手続きや経費がかかるので

通常は事務所に居るピカチューに話し

彼から本社の営業部に伝える手順になっている。


しかし夫は横に座るピカチューを無視して、本社の永井部長に連絡した。

もはや夫とピカチューの仲は最悪で、口もきかない。

最初にピカチューの耳に入れたら

ヤツが自分が獲得した仕事だと勘違いして威張り散らすのは明白。

夫には、それが我慢できないのだ。

永井部長に言ってもロクなことになりそうもないが

夫にとっては、ピカチューよりマシらしい。

《続く》

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