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殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
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年末が来た・2

2024年12月21日 14時46分25秒 | みりこんぐらし
主治医の厚意により、年末年始を病院で過ごせそうなサチコ。

すっかり入院する気になって、喜んでいる。


カンの鋭い彼女は、娘が帰省に積極的でないことを感じ取っていた。

電話はいつもサチコの一方通行、帰省の話が出始めても

マーヤからの連絡は全く無いのだから

カンが鈍くてもわかるというものだ。


日が経つに連れ、「娘に見捨てられた」という気持ちは強まって

サチコの精神は不安定になっていった。

認知症とはいえ、高いプライドをそのまま維持するサチコにとって

見捨てられた惨めさを実感するのは非常につらいことだった。


やがて彼女は、プライドを守る唯一の方法を考えつく。

「老人ホームに入るから、帰省の必要は無い」

自分から先に、そう告げるのだ。

彼女自身はこのシナリオに満足したようで

「もう一人暮らしは無理だから、老人ホームに入りたい」

と私に訴えるようになった。


しかし、サチコの言うがままに施設を見つけ

めでたく入居させたところで、何になる。

帰る帰ると無理を言って困らせるのは、目に見えているではないか。

サチコが求めているのは、本当に終の住処なのか。

それとも自身の体裁をつくろうために、ほんの一週間を過ごす宿なのか。

これをはっきりと見極めるまで

私はサチコの再三にわたる訴えに放置を決め込んでいた。


ところで、ここしばらくは

要介護2でも入れるグループホームを考え続けていた私。

けれども前回、精神病院の健診で相談員にたずねてみたところ

「認知症だけなら入れるんですが、鬱病という病名が付いていると

グループホームは受け入れが難しくなるんです。

あれでも探せば、受け入れてくれる所があるかもしれませんが…」

という返事だった。

“症”と“病”の違いを通感したものである。


介護保険を利用するようになり、施設のお世話になって3ヶ月…

介護関係者の独特な言い回しは理解したつもりだ。

「探せば」、「あるかもしれません」

二重の仮定は、つまるところ「ほとんど無理」ということである。

私はこの時点で、グループホームというカードを捨てた。


ともあれグループホームに諦めがつくと

不思議なことにサチコが本当に求めているのは

老人ホームへの入所でなく

デイサービスが休みの間に泊まる仮の宿だとわかった。

「だったら入院という手があるじゃないか…」

そう気がついたのも同じ頃で

ほどなく精神病院の受診日が訪れ、主治医に相談した次第である。


さて、主治医と我々の間で入院が決まり

日程の調整のために相談員と面談することになったが

その相談員から「待った」がかかる。

「入院は制限が多くて楽しくないし、テレビも見られないから

どこかショートステイのできる施設を探された方がいいと思うんです。

この施設の中から、どこか選んで連絡を取ってみられてはどうですか?」

そう言って、市内の老人施設のパンフレットを何枚か渡された。


ケアマネや相談員と接するようになって、いつも思うけど

あの人たちは、さりげなく家族に徒労を強いる。

裏で色々と、我々シロウトにわからない都合があるんだろうけど

上辺や口先の親身がうまいわ。


が、それらのパンフレットを見て

私より先に難色を示したのはサチコだった。

「市内では、ここが受け入れてもらえる可能性が高いんですが…」

相談員お勧めの施設は、一つ下の妹の元旦那シュンが勤めていた所であり

私の夫の姉カンジワ・ルイーゼが給食調理員として働いていた

いわくつきの老人ホーム。


「シュンがおった所へなんか、行くものか」

サチコは吐き捨てるように言う。

何かの拍子に身内だと知られる可能性が無いとは言えないので

サチコはそれを嫌っているのだった。


そうでなくてもここは、とても不便な場所。

クネクネの細い道を延々と登った先にある、崖の上だ。

私の大嫌いな、車が離合できない道である。

サチコでなくても、行くものか。


絶対に行きたくない施設が登場したことで

元々反抗的なサチコは、ますます入院したくなった。

その情熱に押された形で、入院は決まった。


これでホッとした私は、シクシクと痛んでいた胃が

たちどころにスッキリし、年賀状を書く余裕も出た。



今回は、郵便局のカタログで決めた年賀状。

私の好きな、ホールマーク製。

華やかな花柄が好きなのよ。

《続く》

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