殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

ラスボス・4

2023年02月10日 14時41分45秒 | 前向き論
げに思い込みとは恐ろしい。

市議選に立候補するS君の、高卒という学歴に衝撃を受けた私は

何だかだまされたような気分になったものだ。


昨年10月、義母ヨシコが飼い犬に額を噛まれて通院していた頃のこと。

ガーゼ交換をする看護師がヨシコのズボンの裾をまくり上げて

「どこですか?」とたずねた日があった。

犬に噛まれたというので、てっきり足だと思い込んでいたのだ。

ヨシコからそれを聞いて、ものすごく笑った。


患者の取り違えや手術箇所の間違いは、全て思い込みで起きる…

家族でそう話し合ったが、その時を思い出した。

今後こういうことがあったら、最初に学歴をたずねようと誓った私である。


ともあれ年を取って分別が付いてきたら、善人と知り合う機会が増えてくる…

しかしその善人というのが、なかなか油断ならない…

今回のシリーズでは、その話をさせていただいた。

「話をするだけでいい」

S君に会わせる前、レイ子さんはそう言ったが

私がうっかり彼女の思惑に乗れば、無料でウグイスをやる羽目になっていたかもしれない。

少なくとも彼女はそのつもりだったと思う。


ああいったパッと見、善人は、自分を中心に物事を回していく。

S君と私の立ち位置を比較した場合、ボランティアという高尚な行いで知り合い

共にしんどいことをやってきた彼と、行きずりでたまたま見知った私とでは

レイ子さんに近いのは断然彼の方。

より近い方、より可愛い方、より大事な方が良くなるようにマネージメントする…

それが善人と言われる人の思考で、この揺るぎない優先順位があるからこそ

物事をあまり考えることなく、スピーディーに進められるのだ。

図らずも、そしておめおめと善人の天秤にかけられた後味の悪さが

だまされたような気分を残したと思われる。


ゲスに振り回されてバカを見るのも苦々しいものだが

相手が善人となると内容が複雑になってきて、また違った味の砂を噛むことになるらしい。

それでもゲスから噛まされる砂より、味の方は少しマシかもしれない。


ということで、私はまだ善人に振り回されてブーブー言ってる、その程度。

じゃあ、自分とはかけ離れた、セレブという高みにおわす人々はどうなのか。

セレブといっても田舎のことなので都会のそれとは規模が違うし

その中で私の知る人数もわずかだが、目を向けてみると彼らもまた

私とたいして変わらない気がする。


とりあえず身近なセレブといったら全国ネットの企業経営者、同級生のユータロー。

田舎にそんな会社があるんか?と言われそうだけど、あるんよ。


彼は子供の頃から思慮深い紳士で、かつ秀才。

東京の有名大学を出て父親の会社に入り、20年ぐらい前に社長を引き継いだ。

彼の代になってからは海外にも進出し、多角経営にも乗り出した。


地元の数少ない財界人として有名な彼は、生来の頭の良さもあって

人との距離を調節するのが実にうまい。

金持ちはお金があるだけに、下手に人を近づけたら厄介なことになるのを身体で知っているのだ。

かといってツンケンしているわけでもなく、ぽわ〜んとした雰囲気。

“気さくな麻呂”という表現がピッタリかもしれない。

ああいった生まれながらのセレブは、俗世から一線を引いたお公家さんのように振る舞うことが

角を立てずに身を守る最良の手段だと知っているのかもしれない。


しかし、そんなユータローでも人に振り回されることがある。

えらい人は、様々な民間組織の会長や理事なんかをやっているからだ。

その役目上、色々と嫌な目に遭うことがあるらしく、時々、ものすごく怒っている。

麻呂なので感情をあらわにすることは無いが、マジで腹を立てている時がある。


周りの皆が皆、彼と同じく紳士で秀才の麻呂ならいいけど

特に田舎はそうでない人の方が多いので、色々あるのは当たり前なのだ。

やっかみや下心の標的にされるのは、彼にとって日常なのかもしれない。

賢くなったことも金持ちになったことも無いので想像するしかないが

ユータローのような人間は、バカからバカにされるのが一番腹が立つのではなかろうか。

そりゃもう、私が考える何倍も情けないかもよ。

セレブはセレブで大変らしい。



また、造船所の日雇い作業員から身を起こし、30代半ばで長者どんになった

私より3才年上のKさん。

叩き上げでズバ抜けたお金持ちになったら、浮世のドロドロとは無縁になるかと思いきや

彼に言わせると、お金というのは匂いがするそうで

そりゃもう面倒くさいのがジャンジャン近寄って来ては、あの手この手を繰り出すのだそう。


何とかして親しくなろうとする者、投資、出資、寄付の誘い…

お金があると、向こうも本気で攻めてくるので

庶民の私が遭遇する事態とはまた違った厄介があるらしい。

「欲にかられたヤツらに振り回されるのが、一番腹立つ」

彼の口からも“振り回される”のフレーズが出るのだ。


そういうのに疲れてくると、彼はその地を引き払い、パッと別の土地に移る。

40代から夫婦でリタイア生活に入り、子供は独立、双方の親はすでに他界…

彼らを引き止めるものは何も無い。

行く先々で優雅なホテル暮らし、気に入ればマンションを買ったり借りたり

絵に描いたような悠々自適ぶり。

だけど彼が言うには、自由な暮らしって飽きるんだそうよ。


そうやって各地を回ってきた彼だが、今は隣の市まで戻ってきてバカ高いマンションに暮らしている。

が、これはこれで大変そうだ。

豪華マンションに暮らしながら、外出する時はボロい作業着を着る。

車はマンションの駐車場にある高級車の他に、中古の大衆車を所持していて

そのボロい作業着と中古車で向かうのは、昼間の健康ランド。


そこには毎日、同世代の仲良しが集まって風呂を楽しんでいる。

彼以外は皆、年金生活者だ。

彼はこの集まりを気に入っているため

他のメンバーに本当の暮らしを知られないよう気を配っているのだそう。

懐具合を知られて、関係が変わってしまうのを恐れている口ぶりだ。

わざわざ手間をかけて自分を貧しく見せるなんて、金持ちの遊びのようにも思えるが

彼は本気である。

金を持つとは孤独になるのと同じ…

だからこそ、自分のことを何も知らない人たちとの温かい交流を失いたくない…

彼の弁である。


大金を握ると人間関係の変化も怖かろうが、ルフィも恐れなくてはならない。

やっぱり大変そうだ。

「またやられた〜」と言って終了できる、今の自分で満足することにしよう。

《完》

コメント (7)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ラスボス・3 | トップ | メイクアップベース »
最新の画像もっと見る

7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2023-02-10 15:55:44
君子の交わりは淡くして水のごとし、
小人の交わりは云々ということわざを思い出しました。
お金に縁のないまま定年を迎え、特に世に秀でたものも無く、
妻と二人、年金で慎ましく生活する自分を、幸福に思います。
返信する
Unknown (田舎爺S)
2023-02-10 15:56:34
田舎爺Sでした
返信する
Unknown (みりこん〜田舎爺Sさんへ)
2023-02-11 08:36:01
君子は水、小人はねちっこく何もかんもさらけ出して
しゃべったあげく言質を取られて利用される…笑
気をつけないといけませんね。

突出した人にはその人なりの苦労があって
お金に恵まれた人には、お金で解決できない苦しみが
与えられるのを見ると、自分には到底無理だと思い
お金持ちが全然羨ましくなくなりました。
家族で笑い合い、思いやりと助け合いで生きられる今の幸福を
私も噛み締めています。
返信する
Unknown (まえこ)
2023-02-11 09:51:44
田舎爺Sさんとみりこんさんのコメント拝見して
早くそんな考えになりたいと思う日々。

沢山お金欲しい…
好き放題したーい。


善人で人を振り回す人って
相手の事をバカにしてるんだよねって
夫と話してました。
人の人生にズケズケ入ってこないで欲しいわな。

やはり、距離感は大切ですね。
返信する
Unknown (みりこん〜まえこさんへ)
2023-02-11 19:10:00
なれますとも。
私の場合ですけど、老化したら物欲が薄れて
お金はそんなに必要ではなくなるから。
今じゃ興味あるお買い物は食品だけ〜笑

若い頃はね〜、おしゃれしたいし旅行も行きたいし
あれもこれもと物欲が湧いてましたけど
年取ると身を飾り立ててもババアはババア、旅行は乗り物がしんどい。
好き放題に散財しまくっていた義父母の終着駅を見たのも大きいです。
衣装も宝石も旅の思い出も、いざとなったら何の助けにもならなかった。
現在は流行遅れの残骸が家を占領し、虚しさ満点です。

そうですね。
言われてみれば、善人って人をバカにしてるんですね。
自分はいいことしてる、いい人…という気持ちが強いので
何やってもいいと思っているところがあるのか
え?って、びっくりすること、あります。
距離を調節しながら、うまく付き合いたいものです。
返信する
Unknown (しおや)
2023-02-12 05:41:29
善人の人…
女性の集団に善人が一人おると、やばい二三人にめっちゃ可愛がられ、重宝されます。かゆいところに手が届く働きをするから。
そしてその人を基準にして、「おめーが気を利かせるからあいつらがつけあがる」と思っている私らにまで善人を基準にした気配りを要求してきますww
善人であることは間違いないけど、保身なんですよね。

みりこんさんが出会った一匹狼の善人さんにはまだ遭ったことないです。
70代で両親を見送ったあとなのに、お寺がいかに檀家、門徒のためだけにあるか理解していないのが不思議です。
70代女性も、選挙に出たい男性も、人との付き合いが少なく、わかってないからこそ突き進んでいるような気がします。みりこんさんみたいに危険を察知して避けられるから学習できないのもしれない。
返信する
Unknown (みりこん〜しおやさんへ)
2023-02-12 08:55:34
やばい2〜3人がデッチを可愛がる図、いるいる笑
同心に媚びを売る岡っ引きみたいなの。
働きもそうですけど、口もうまいのは保身ですね。
「ついて行きます!ワンワン!」って感じ。
だけど何かあったら真っ先に切られるから、関係はあんまり長続きしない。

一匹狼の善人かどうか、わかりませんよ。
ああいう人は、これぞと思う真打ちを他人に会わせないから。
恩恵は自分だけが受けることになっています。
で、雑魚同士をもったいぶって引き合わせ、「いいことした」と喜ぶ、それが善人。

なるほど、そういえば善人は新興宗教や左の影響を受けている人も多くて
はっきりと入会しているわけではなくても、近い関係だったりします。
世界平和とか地球温暖化のフレーズが何回か出てきたら、たいてい当たり。
レイ子さんのように両親が長生きな人は、抹香臭い方面を知らないものですけど
お寺を軽視するあたり、そっちかもよ。
ああいった影響を受けている人って
活動範囲の中にいる人や事柄はよく知っているけど
輪の外のことは全然知らないのよね。
善行の名のもとに、何もわかってないのに突き進む…
まさに悪人よりタチの悪いラスボスですな。
返信する

コメントを投稿

前向き論」カテゴリの最新記事