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殿は今夜もご乱心

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現場はいま…愛媛騒動・5

2025年04月12日 13時26分56秒 | シリーズ・現場はいま…
翌朝、出勤した次男はピカチューに告げた。

「愛媛行きの前に念書を作るけん、サインしてもらえますか」

「念書?」

「シートが飛んで事故したら、保険が出んことは言いましたよね。

だから板野さん(ピカチューのこと)に

損害賠償を引き受けてもらう念書ですよ」

「えっ?」

「今日、司法書士の事務所へ行って

書類を作って来るんで、署名と印鑑よろしく」

「ま、待て、何でワシが…?」

「シートの命令責任があるけん」

「いや、シートは向こうが希望したんじゃし…」

「言いなりになったんですよね。

で、危険を承知で僕らにやらせようとしとる。

だから裁判で有効な念書が欲しいんですワ」

固まって黙り込むピカチュー。


「サイン、できんですか」

「…できんのぅ」

予測通りだ。


「じゃあ、事故の可能性が大きいのを知りながら

僕らに行けぇと言ったんですね?」

「……」

「危険がはっきりしたんで、こっちの意見を聞いてもらいます」

次男は打ち合わせ通り、シートの掛け方の指示を撤回することと

助手を付けることの二つを要求。

ピカチューは、即座に呑んだ。


予想を上回るビビりように気を良くした次男は

助手に付ける第三者を自ら指名。

うちから車で40分ほどの支店に勤務するアラフォー男子、黒石君だ。


彼は過去に、藤村の子分として暗躍していた。

藤村が夫や息子たちを追い払ったあかつきには

ヤツと一緒にうちの会社を運営する心づもりで

休日になると、うちの3tダンプにこっそり乗っては

運転の練習をしていたものである。


何でわざわざ、印象の良くない人物を指名するかって? 

本当にロクなのはいないから、誰でもいいのだ。

同じ誰でもいいなら、加齢臭漂う爺さんより

一日中、横に乗せても苦にならないパッパラパーの方がマシ。

さらにシート掛けの重労働に耐えられる、次男と同年代の若手で

手伝わせても心が痛まない人物という条件のもと

栄えある助手には黒石君が選ばれた。


永井営業部長の許可を得れば、他の支店から助手を借りる行為は

こちらでできる。

相手が大企業なので、彼はホイホイと許可してくれるだろう。

しかしそれでは、ピカチューの存在が隠れてしまう。

ピカチューが依頼する形で、黒石君を引っ張り出すことが肝心だ。


ついでに次男は自分と黒石君、二人分の昼食代を出せと

ピカチューに要求。

彼は、この要求もあっさり呑んだ。



こうして迎えた当日、黒石君は朝早く会社にやって来た。

ドライブ気分でルンルンの黒石君を助手席に乗せたら

まず商品を積みに出発だ。


到着したら積み込みの前に、ピカチューが買ったバカでかいシートを

ダンプの荷台全体に広げる作業が待っている。

次男が考えた安全策は、こうだ。

まずカラの荷台全体にシートをカーペットのように広げ

その上に商品を積み込む。

積み込みが終わったら、荷台の両側に垂れ下がっているシートの余りを

荷台の上から引っ張り上げて商品に被せ、上から包み込む。

そしてシートの耳を縫い合わせるように縛るというものだ。


この方法なら、シートの上に載せた約9tの商品が重石になるため

風圧で飛ぶアクシデントは避けられる。

ただし総重量40キロのシートで

風呂敷のように商品を包むのは大変な労力。

そのために助手が必要なのだった。


黒石君は早くもこの作業で、フラフラになった。

大型ダンプの荷台が3メートルあることなんて知らなかった彼は

ダンプに付いている数段のハシゴをつたって

荷台に乗り移ること自体、恐怖だったらしい。

その高い所に立つだけでなく、重たいシートを引っ張り上げる作業は

彼の心身のキャパを大きく超えていたようである。


ぐったりした黒石君を乗せ、次男は愛媛県新居浜までひた走った。

「ダンプをナメてました…」

道中、黒石君は何度もつぶやいたという。

「あんな高い所から落ちたら、◯にますよ。

こんなことをさせる板野さんは、おかしい」

「いっつもおかしいよ」

「マジ…?」


問題のシートは荷台でおとなしくしていたので

車は予定の午後1時より少し早めに到着、納品も無事に終わった。

シートを掛けて欲しいと希望した相手は

こんなに大掛かりになるとは思っていなかったらしい。

「粉塵防止の建前があるので、一応言いはしたけど

ここまでしなくてよかったのに。

何も知らなくて申し訳ないことをしました」

そう言ったそうだ。


さて納品が終わったら、再び荷台に上がって

シートを畳む作業が待っている。

また黒石君に手伝わせようとしたが、彼のダメージは大きく

気の毒に思った向こうの人たちも手伝ってくれたという。

帰り道は黒石君とサービスエリアで昼ご飯を食べ

二人はすっかり仲良くなって帰って来た。

《続く》

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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (Unknown)
2025-04-12 14:31:13
みりこんさん
すばらしい!!
次男君
カッコいい!!
万事上手くいって、昼食美味しくいただいたことでしょうね。
ホッとしました。
返信する
Unknown (みりこん〜Unknownさんへ)
2025-04-13 08:00:25
ありがとうございます。
気を揉みましたが、とりあえず無事に帰って来て
私もホッとしました。

昼ごはんは会社の奢りになったので
ちょっぴり豪勢なものになったようです。
返信する

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