殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

新・墓騒動2

2018年08月21日 09時11分16秒 | みりこんぐらし
「譲り墓は良くないのよ」

一昨年、義父アツシの墓地を購入する時に

三つ年上の友人ラン子が言った言葉をつくづく思い出す

今日この頃の私である。

浮世のことには疎いのに、こういうことには詳しい女

ラン子は、得意げに言ったものだ。

「よその家が買っていた墓地を譲り受けると、先祖が戸惑うんだから」


けれどもそのことを義母ヨシコに伝える気は無かった。

墓地を所有していた古い友人の洋子ちゃんから

転売の話を持ちかけられ、それが父親の故郷の近くだったため

飛びついたヨシコの喜びに水を差すのは、はばかられた。

娘の言うことなら何でも聞くが、嫁の言うことなんて聞きやしないし

私もまた、「譲り墓が良くない」とは、どのように良くないのか

「先祖が戸惑う」とは、どのような状況になるのか

証明する根拠を持たなかった。


が、それがほどなく証明されたことは、以前『墓騒動』の記事にしたためた。

洋子ちゃんの譲りたい墓地は広すぎて、ヨシコが躊躇していたら

同じ墓苑にご主人の墓がある村井さんという人が

子供のために半分買いたいと言い出した。

僥倖ではあったものの、そこへ村井さんの息子が出てきて

半分にすると自分の所が少し狭くなると言い出し、一悶着あった。

この件は岡野石材(仮名)の仲裁でおさまった‥というてん末である。



さて、以後の村井の奥さんは『墓姑』となる。

何につけ、うちの墓が気になる様子で

「墓にあじさいの花を生けてはいけない」

「花が枯れているのに、お参りに来ない」

などと、共通の友人である洋子ちゃんを通じてたびたび連絡が来る。

姑仕えの経験が無いヨシコにとって、これは消耗する出来事であった。

まさか墓で姑に出会おうとは、夢にも思っていなかっただろう。


そこへ今回の土砂災害。

山奥にある辺境の地なので、当然と言えば当然。

頼みの岡野石材は倒産。

義父の墓が無事だったのが、せめてもの救いだ。

しかし、これだけでは終わらなかった。



ヨシコがあんまり墓のことを気にするので

夫は一昨日の早朝、一人でアツシの墓の復旧に向かった。

墓苑も、よその墓もメチャクチャで手がつけられないので

無事な自分の家の墓限定である。

「墓石の周りに流れ込んだ土砂を撤去して小石を敷き詰めて

復旧は完了した」

得意げに話す夫に、ヨシコは目を潤ませて喜び、私もほめたたえた。


その夜、電話が鳴った。

私は二階の自室に居たので、詳しいことはわからなかったが

「うちの墓地をどうしてくれる!」

電話に出たヨシコの話によると、ものすごく怒っていたらしい。

夫が電話を代わり、何やら話していたが

やがて電話は向こうから一方的に切られた。


その後、ヨシコは洋子ちゃんに電話をかけて事情をたずねた。

その話によると、夫はアツシの墓は綺麗にしたものの

アツシの墓に積もった土砂を両側の墓地に積み上げたまま

帰ったようだ。

目先のことだけ必死になり、あとのことは見えない‥

いかにも夫らしい所業である。


右隣は墓姑、村井さんの持ち物で、墓石はまだ建っていない。

左隣はKさんという人が今年になって購入した墓地で

片隅に小さなお地蔵さんが置かれていた。

我々はそれをオブジェと認識しており、墓の数には入れていなかった。

怒って電話をしたのは、そのKさんだそう。


洋子ちゃんが言うには、Kさんは60代後半。

とても気難しく神経質な人で

小さなお地蔵さんは、昔亡くなった身内の子供の供養だという。

「ヨシコ姉さん、とにかく菓子折りか何か持って

謝りに行っておいた方がいいと思うわ。

私、Kさんの家を案内するから明日行きましょうよ」


気難しく神経質と聞いて、震え上がるヨシコ。

右に同じく夫。

こういう人種を最も苦手とする二人であった。


「あんた、一緒に行ってよ」

ヨシコは私を誘う。

楽しい所には娘と行くが、楽しくない所に嫁を誘うのは昔から変わらない。

「◯◯堂の和菓子でも買って‥ねえ」

私が同行するとなると、ヨシコはすっかり増長し

ついでに自分のお菓子を買う気満々だ。

ヨシコは「ついで」と称して、こういうことをよくやる。

人に何か届ける時は、必ず自分の好物。


が、甘党でなければ、日持ちのしない和菓子は迷惑なだけ。

こういう場合、水に流してもらうという意味で

お酒かビールが妥当だけど、相手が飲む人かどうかもわからない。

となると、残る候補は果物。

私は翌朝、懇意の八百屋にメロンを頼み、無地のしをかけてもらった。


《続く》
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする