今年も大掃除の季節が訪れた。
訪れはしたものの、我が家ではそのまま停滞していた。
2〜3年前から急に大掃除がつらくなり、どうもやる気が起きない。
加齢による体力減退が原因と思われた。
そんなにつらいなら、普段からやっておけばいいのに‥
早めに取りかかればいいのに‥
誰でもそう思うだろう。
けれども姑と暮らす嫁に、その手段は通用しない。
庭の剪定が終わる12月中旬までは、普段の掃除とみなされ
大掃除を行ったことにならないのは過去に何度か経験済み。
「今年はやってもらえない」
姑の脳内ではそういうことになる。
姑という生き物は、そして年寄りという生き物は
ひとたびインプットされた認識を簡単に変えることができない。
そこで悶々と苦しむ。
決して意地悪なのではなく、それが姑であり、年寄りなのだ。
納得させるため、再びやって見せる必要が生じる。
つまり普段からやっていても、早めに取り掛かっても
徒労でしかない。
とはいえ、こちらもあと2年で還暦だ。
今までと同じことをしていたのでは、しんどい。
そこで今年は対策を練ることにした。
まず、私を取り巻く環境を冷静に眺めてみる。
そうしてみると、我が家はむやみに窓が多い。
数えてみたら大小合わせて30ヶ所ぐらいある。
総二階で、家のぐるりに窓が付いた設計だから仕方ないのだ。
窓の掃除は、ガラスの部分を磨いたら終わりではない。
網戸とサッシの溝もセットで付いてくる。
網戸、ガラス、サッシの溝‥この3点セットは
手の届かない高い所にもたくさんある。
そしてそのたびに、脚立の昇降と移動が付いて回る。
脚立は高く、そして重い。
年々高い所が苦手になり、スリルで足がガクガクと震えることもある。
この時点で、窓の数もさることながら、脚立もガンと判明。
思えば嫁いで以来、この窓たちと闘ってきた。
結婚して最初の大掃除には
外側の窓ガラスに付着した白いウロコ状のクモリを
完全に除去するまで家に入ってはならないと
舅から厳しく言い渡された。
あまりにも窓が多いので、姑は磨く気にならず
ホースで水をかけて終わらせていたツケが、このウロコ。
昔は効果的な薬剤も無く、マジックリンを片手に奮闘したものだ。
つらくはなかった。
大掃除となると、待ってましたとばかりに
危ない所、汚い所を命令されて行ってきたが
私が嫌なのは狭い所だった。
長身の者は、体をかがめるような狭い所が苦手なものだ。
伸び伸びすることが仕事になる、窓磨きは好きだった。
働いてさえいればそっとしておいてもらえるため
安全も確保できたので、むしろ張り切った。
ちなみにマジックリンでウロコは落ちなかった。
「よう落とさんのか!つまらんのう!」
嫁が寒風吹きすさぶ屋外で悪戦苦闘する姿をコタツから眺めた後
成果を点検しては怒鳴られるのも恒例だった。
お前の女房がつまらんのじゃ‥
私は心の中で、いつも反論していた。
私が毒舌というものを手に入れたとしたら、この積み重ねがあればこそ。
「若かったから、できたのだ‥」
自由は無かったが、体力だけはあり
高い所も平気だったあの頃を懐かしく思い出す。
そして窓さえ制すれば、うるさ方は静かになり
大掃除はほぼ終わったようなものだったことも、ついでに思い出す。
敵は本能寺でなく、窓にある‥
私は確信し、いよいよ具体策の検討に入った。
脚立を使わずに窓と取り組める物といえば
長さのある棒状の物体が浮かぶ。
腕力の衰えた私がダメージを受けないように
棒は軽くなければならない。
そこで目をつけたのは、浴室にあった風呂掃除の道具。
伸縮するアルミの棒の先に、長さ6〜7センチの
白いフサフサした化学繊維が付いた
『LEC激落ちお風呂まるごとバスクリーナー』。
当初、私が注目したのはカツラ状のフサフサではなく
伸縮する棒の方だった。
脚立を使わずに窓が磨けたら‥その一心で、棒を手に取ったのである。
使ってみると、いい!
非常にいい!
まず網戸にガラスクリーナーをシュッシュと散布し
水に浸したカツラの毛で洗うと、一発で綺麗になる。
作業の合間に、毛を軽く水洗いしてリセットしながら
次に窓ガラス、最後にサッシの溝‥全部これ一本で美しい仕上がり。
それからホースで水をかけ、乾いた雑巾で拭くとピカピカになる。
雑巾が届かない所は、やはり伸縮する棒の付いたモップの先に
雑巾をセットして拭く。
室内は毛をよく絞って使う。
毛は細くて長いので、桟(さん)のホコリも一緒に綺麗になる。
調度品や飾り物、額にも使える。
今まで数日かかっていたのが、数時間で終了。
網戸は網戸、ガラスはガラス、溝は溝と
それぞれ道具を取っ替え引っ替え
ポケットに入りきらない物は腰に挿したり背中に背負ったり
八つ墓村みたいな格好で奮闘していた、あれは何だったのだ!
私の37年を返せ!
窓との闘いを楽勝で終えた私は、この文明の利器を何人かに勧めた。
が、誰も関心が無いようだ。
そりゃそうだろう。
姑と暮らす人なんて滅多にいないし
窓だらけの古い家に住んでいる人もいない。
唯一、うちへ週に2回来る魚屋の奥さんが興味を示した。
商売をしていると忙しい。
魚屋さんだと、年末は特に忙しい。
大掃除に良い方法は無いかとたずねられ、我が意を得たりとお勧めした。
素直な奥さんはさっそくホームセンターで買い求め、使ったという。
すごくいいと喜んでくれて、非常に満足した私であった。
訪れはしたものの、我が家ではそのまま停滞していた。
2〜3年前から急に大掃除がつらくなり、どうもやる気が起きない。
加齢による体力減退が原因と思われた。
そんなにつらいなら、普段からやっておけばいいのに‥
早めに取りかかればいいのに‥
誰でもそう思うだろう。
けれども姑と暮らす嫁に、その手段は通用しない。
庭の剪定が終わる12月中旬までは、普段の掃除とみなされ
大掃除を行ったことにならないのは過去に何度か経験済み。
「今年はやってもらえない」
姑の脳内ではそういうことになる。
姑という生き物は、そして年寄りという生き物は
ひとたびインプットされた認識を簡単に変えることができない。
そこで悶々と苦しむ。
決して意地悪なのではなく、それが姑であり、年寄りなのだ。
納得させるため、再びやって見せる必要が生じる。
つまり普段からやっていても、早めに取り掛かっても
徒労でしかない。
とはいえ、こちらもあと2年で還暦だ。
今までと同じことをしていたのでは、しんどい。
そこで今年は対策を練ることにした。
まず、私を取り巻く環境を冷静に眺めてみる。
そうしてみると、我が家はむやみに窓が多い。
数えてみたら大小合わせて30ヶ所ぐらいある。
総二階で、家のぐるりに窓が付いた設計だから仕方ないのだ。
窓の掃除は、ガラスの部分を磨いたら終わりではない。
網戸とサッシの溝もセットで付いてくる。
網戸、ガラス、サッシの溝‥この3点セットは
手の届かない高い所にもたくさんある。
そしてそのたびに、脚立の昇降と移動が付いて回る。
脚立は高く、そして重い。
年々高い所が苦手になり、スリルで足がガクガクと震えることもある。
この時点で、窓の数もさることながら、脚立もガンと判明。
思えば嫁いで以来、この窓たちと闘ってきた。
結婚して最初の大掃除には
外側の窓ガラスに付着した白いウロコ状のクモリを
完全に除去するまで家に入ってはならないと
舅から厳しく言い渡された。
あまりにも窓が多いので、姑は磨く気にならず
ホースで水をかけて終わらせていたツケが、このウロコ。
昔は効果的な薬剤も無く、マジックリンを片手に奮闘したものだ。
つらくはなかった。
大掃除となると、待ってましたとばかりに
危ない所、汚い所を命令されて行ってきたが
私が嫌なのは狭い所だった。
長身の者は、体をかがめるような狭い所が苦手なものだ。
伸び伸びすることが仕事になる、窓磨きは好きだった。
働いてさえいればそっとしておいてもらえるため
安全も確保できたので、むしろ張り切った。
ちなみにマジックリンでウロコは落ちなかった。
「よう落とさんのか!つまらんのう!」
嫁が寒風吹きすさぶ屋外で悪戦苦闘する姿をコタツから眺めた後
成果を点検しては怒鳴られるのも恒例だった。
お前の女房がつまらんのじゃ‥
私は心の中で、いつも反論していた。
私が毒舌というものを手に入れたとしたら、この積み重ねがあればこそ。
「若かったから、できたのだ‥」
自由は無かったが、体力だけはあり
高い所も平気だったあの頃を懐かしく思い出す。
そして窓さえ制すれば、うるさ方は静かになり
大掃除はほぼ終わったようなものだったことも、ついでに思い出す。
敵は本能寺でなく、窓にある‥
私は確信し、いよいよ具体策の検討に入った。
脚立を使わずに窓と取り組める物といえば
長さのある棒状の物体が浮かぶ。
腕力の衰えた私がダメージを受けないように
棒は軽くなければならない。
そこで目をつけたのは、浴室にあった風呂掃除の道具。
伸縮するアルミの棒の先に、長さ6〜7センチの
白いフサフサした化学繊維が付いた
『LEC激落ちお風呂まるごとバスクリーナー』。
当初、私が注目したのはカツラ状のフサフサではなく
伸縮する棒の方だった。
脚立を使わずに窓が磨けたら‥その一心で、棒を手に取ったのである。
使ってみると、いい!
非常にいい!
まず網戸にガラスクリーナーをシュッシュと散布し
水に浸したカツラの毛で洗うと、一発で綺麗になる。
作業の合間に、毛を軽く水洗いしてリセットしながら
次に窓ガラス、最後にサッシの溝‥全部これ一本で美しい仕上がり。
それからホースで水をかけ、乾いた雑巾で拭くとピカピカになる。
雑巾が届かない所は、やはり伸縮する棒の付いたモップの先に
雑巾をセットして拭く。
室内は毛をよく絞って使う。
毛は細くて長いので、桟(さん)のホコリも一緒に綺麗になる。
調度品や飾り物、額にも使える。
今まで数日かかっていたのが、数時間で終了。
網戸は網戸、ガラスはガラス、溝は溝と
それぞれ道具を取っ替え引っ替え
ポケットに入りきらない物は腰に挿したり背中に背負ったり
八つ墓村みたいな格好で奮闘していた、あれは何だったのだ!
私の37年を返せ!
窓との闘いを楽勝で終えた私は、この文明の利器を何人かに勧めた。
が、誰も関心が無いようだ。
そりゃそうだろう。
姑と暮らす人なんて滅多にいないし
窓だらけの古い家に住んでいる人もいない。
唯一、うちへ週に2回来る魚屋の奥さんが興味を示した。
商売をしていると忙しい。
魚屋さんだと、年末は特に忙しい。
大掃除に良い方法は無いかとたずねられ、我が意を得たりとお勧めした。
素直な奥さんはさっそくホームセンターで買い求め、使ったという。
すごくいいと喜んでくれて、非常に満足した私であった。