殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

怪文書

2017年12月18日 12時43分35秒 | みりこんぐらし
先日、夫宛てに郵送で封書が届いた。

薄っぺらい簡素な茶封筒。

パソコン印刷の宛名。

消印は町内の郵便局。

差出人の名前はどこにも無い。


うちは自営業なので、サラリーマン家庭より郵便物が多い方だと思う。

うちは義父と夫、浮気者人口が2名と多かったので

不可解な郵便物が届く機会も、よそ様より多かった方だと思う。

つまり私は、自宅へ届く怪しい郵便物に対し

ある程度の経験を積んでいると自負している。


その経験から見るに、この封書から色気は感じない。

メールが普及した昨今

思わせぶりな手紙を送る女はほぼ絶滅したのもあるが

これ以上の安物を探すのは無理と思われるペラペラの封筒と

初夏に買い求めた残り物らしき

アジサイの描かれた切手が物語っているように思う。

どうでもいい相手に宛てたと考えていいだろう。


な〜んて無い頭をひねるより、開封すれば全てがわかる。

が、宛名が夫である以上、開けるわけにはいかないので

夫の帰りを待つ。

ペーパーナイフなんて洒落た物は無いから

ハサミを捧げて開封を促す私に

「オレは何もしてないぞっ!」

身の潔白を叫ぶ夫。


中から出てきたのは、一枚のコピー用紙だった。

迫りつつある選挙に関するものだ。

優勢と言われている新人候補の悪口が、びっしりと印字してある。

俗に怪文書と呼ばれる物体。


すでに出回っている事柄ばかりで、目新しいことは書かれていない。

不倫相手を選挙事務所に入れて、女房と一緒に働かせているだの

その女房がろくでもないだの、そんな内容。


一部を抜粋してみよう。

“この嫁の底意地の悪さは職場で知らない人がいないほど評判で

自分が仕事を全くしないことを棚上げし

夫の地位を利用し気に食わない人物に

左遷やいじめなどでたびたび苦痛を味合わせ

周囲から腫れ物扱いされる性根の腐った女のようです”

(改行と個人情報以外は原文ママ)


底意地が悪く性根の腐った女‥

まるで私ではないか。

会ったこともない候補者の奥さんに、俄然親近感がわく。

が、本当に私みたいな女房だとしたら

おとなしく旦那の不倫相手と働くわけがない。

はなから手伝わないか、それこそズタズタにいじめ抜いて叩き出すか

事務所で暴れまくって立候補自体を潰す。


よって選挙事務所で不倫相手と女房を一緒に働かせるという

極めて封建的な妻妾同席行為と、悪魔のような女房‥

怪文書が並べて主張するこの二説は両極にあり、論理的に成立しない。

つまり虚偽捏造ということになる。


内容の真偽はともかく、このような文章を長々と書き連ね

他者を貶めようとするあさましさと幼稚な根性は見上げたものだ。

人心をおもんばかる能力に欠けた、傲慢な人間が作成したのはバレバレ。


内容が嘘とわかれば、今度はどの陣営の仕業かが気になるところ。

が、調べるまでもない。

封筒に印字された我が家の住所から、犯人の目星はついている。


我々夫婦は夫の実家で生活して5年経つが、住所変更はしていない。

よって郵便物は、元の住所から転送されて届く。

しかし怪文書の住所は、最初から実家の番地である。


夫が実家の番地を使い始めたのは、ごく最近。

しかも香典限定。

四十九日には茶の子が届くが

留守宅より、実際に生活している実家に届く方が便利だと

今頃になって気づいた。

そこでこの9月から、香典や記帳に実家の住所を書くようになった。


夫の名前と実家の住所を組み合わせて書いた葬式は、まだ二軒。

会社の付き合いで発生する香典は会社の住所だし

家同士の付き合いで発生する香典は義母の名前にするため

夫の個人名で、かつ実家の住所となると少ないのだ。


うち一軒は姉の姑なので除外し、あとの一軒が

怪文書送付の目的で香典帳を提供したか

もしくは茶の子を配達した進物屋の仕業。

どちらも現職と親しい。

新人の勢いを恐れた、現職の陣営で間違いなかろう。


「あんたにも怪文書が来るようになったのねえ」

私は夫を賞賛する。

「こういうのが届くようになったら一人前よ、さすがね!」

もちろん、こういうのが届いたら一人前という根拠は無いが

そもそも怪文書なんて、あんまり気持ちのいいものではない。

だからこうやって盛り立ててやるのだ。

夫はまんざらでもない様子。


翌日、夫の従姉妹の旦那、ユキオ君が会社へ来た。

63才の彼は、夫の伯父の会社を引き継いで社長をしている。

結婚相手の親がたまたま会社を持っていたという逆玉で

何十年前だったか、サラリーマンを退職して経営に参加した当初は

生まれながらの社長族の中で苦労していた。

しかし元々頭が良くてやり手なので

会社は彼無しでは存続しなかったと思われる。

その分、気位が非常に高い。


夫はさっそく、ユキオ君に怪文書のことを話した。

「え〜?ウッソ〜!

なんでヒロシの所へ来て、俺の所へ来ないんだ!」

ユキオ君は、たいそう悔しげに叫ぶ。

やっぱり怪文書が届いたら、男として一人前なのだろうか。


香典帳が怪しいと説明したが、ユキオ君は納得していない様子で

「ヒロシより俺の方がメジャーなのに!」

とプリプリ怒っていた。

めんどくさい男だ。



さてその後、怪文書の効果が現れた。

現職を応援する者が、どんどん減っているという。

逆効果というやつ。

気に入らない者への誹謗中傷を黙認して一味のままでいると

明日は我が身になってしまうという理由らしい。

まともな有権者がまだいると知り、ホッとしている。
コメント (6)
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