殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
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墓騒動・3

2015年10月13日 08時01分28秒 | みりこんぐらし
墓問題に着手することになった私は

手始めに洋子墓地の見学ツアーを発案した。

現地を見もせず、遺影の前で泣いてたって仕方がないではないか。

「でもお墓の場所がわからないし…

洋子ちゃんに案内してもらったら、その場で決めないといけなくなるし…」

ジトジト、ウジウジの者のならわしとして、消極的な態度を見せるヨシコ。


私には、洋子ちゃんの話からおよその見当がついていた。

選挙のウグイスは、市内の津々浦々を知り尽くしている。

我が市のチベットやマチュピチュと呼ばれる未開地にも分け入るし

おおかたの人には一生用事が無い所にも、数年に一度は行っているのだ。

人が滅多に通らない道路沿いにあり、小さいが綺麗に整備された

おそらくあの墓地だ。


晴れた日曜日の午後、ヨシコと我が夫

それに夫の姉カンジワ・ルイーゼを伴ってツアーに出かけた。

車で10分足らず、私は見当をつけた墓地の前で車を降り

一同に「村井」という新しい墓を探させる。

ヨシコは忘れているが、運転をしない洋子ちゃんがうちへ訪れた時

村井さんという友達が車に乗せて来た。

初対面のその人が、一昨年亡くなったご主人を

洋子墓の隣に葬っていると話していた。


村井さんの墓は、すぐに発見された。

隣が二区画空いているので、間違いない。

駐車場から徒歩2秒、小さい門の先に十基ほどの墓が立つ。


アツシはオレ様主義で暴君の反面

目立つことを嫌う、あまのじゃくなところがあった。

車なんかもそうだが、わざと前の車と同じ車種、同じ色に買い換えて

マイナーチェンジを楽しんだ。

ひっそりやこじんまりで意表を突くのは、案外アツシの好みなのだ。

人目につかない静かな山里の趣きは、まんざらでもないのではなかろうか。

家族も同じ意見で、「ここにしよう」と口々に言った。



その夜、ヨシコは洋子ちゃんに連絡した。

「一区画、ぜひ売ってちょうだい!」

ダメ元で言ってみたら、意外にも洋子ちゃんは快諾した。

「お姉さんの家に行った時、村井さんが一緒だったでしょう。

横で話を聞いてて欲しくなったらしいの。

自分の墓の隣に娘一家のを買いたいって、さっき連絡があったのよ!」

こんな都合のいいことがあろうか。

「お父さん、やっぱりあそこがいいんだわ!」

ヨシコは大喜びした。


墓地が決まったら、墓石の準備だ。

洋子墓地の墓石屋さんは、始めから決まっている。

墓石屋がこしらえた墓地だからだ。

岡野さんという75才の人で、仕事の方で我が社と取引があった。

この人も選挙好きで、昔からアツシと仲が良く

「あの人なら間違いない」と夫も喜んだ。

夫は元々、縁もゆかりもない墓石チェーンに任せるのは反対だった。

建てるなら取引先の岡野石材で…ひそかにそう思っていたという。


うちの家族、洋子ちゃん、村井さん、岡野石材…

みんなが笑顔になれる、こんな幸運ってあるのだろうか。

「呪いなんて、思い込みだったんだわ!」

自分の早計を恥じる私だった。



夫はさっそく岡野さんの携帯に電話をし、翌日会社で会うことになった。

家で会わなかったのは、夫の作戦である。

イケメンの墓石セールスと、ハゲた岡野さんのギャップが大き過ぎて

ヨシコが心変わりしたらいけないから…と冗談めかして言っていたが

夫のもくろみはわかる。

口数は多いけど、女性におじょうずの無い岡野さんの性格は

チヤホヤされながら無駄話を聞いてもらいたいヨシコと合わない。

先に契約を決めてしまってから、細かい打ち合わせでヨシコに会わせるつもりなのだ。


墓について少し詳しい私も、夫の強い要請で参加した。

どうして詳しいかというと、中学生の時に実家の墓を建てることになり

凝り性の祖父に連れられて、あちこちの墓地や墓石屋を回りまくったからだ。

聞きかじりではあるが、一年かけて墓地の良し悪しや石の質

磨き、形、配置のバランスなど多くのことを知った。

だからといって何の足しにもなりゃしないが

自分ほど墓に詳しい中学生はいないと自負していたものだ。



岡野さんはいつもと同じように、ニコニコしながら会社にやって来た。

が…何やら様子がおかしい。

携帯電話のことばかり気にしている。

夫の名前が、別の人の名前で登録されていると言うのだ。

こちらが何度話しかけても商売の話にならず

やがて携帯をいじくりながら、スーッと車に乗って帰ってしまった。

墓地は買えても、墓石屋がこれじゃあどうにもならない。

やっぱり呪いは健在なのだろうか。


(続く)
コメント (6)
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