殿は今夜もご乱心

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ウグイス日記・機転の巻

2014年12月05日 10時19分24秒 | 選挙うぐいす日記

7日目…選挙戦は最終日となった。

ナミ様は、師匠へのミヤゲを増やす追い込みのつもりか

私への質問に余念がない。


「どうしてポンポン、新しいセリフが出続けるんですか?」

「本が好きだから」

「読書がいいんですか?」

「気に入った一冊をしつこく読む」

「どんな本ですか?」

「辞書」


「ネエさん、セリフでよく経済に触れますよね。

言えたらセリフが増えるのはわかってるんですけど、私は怖くて…

どうしたら言えるんですか?」

「お金が好きだから」


「政策についてもガンガン言いますよね?」

「候補が望むから」


まともに答える気は無い。

ナミ様、目下一番の悩みは「機転がきかないこと」だそうで

「いつも機転がきかないと怒られるんです。

もっと機転がきくようになれたら…」

そうおっしゃるが、機転の中でかなり重要な

車関係を投げているからだ。


長年ペーパードライバーのナミ様は、安全走行に無関心。

後続車や離合のやり繰りを始め

脱輪防止、事故防止のための目視ができない。

都会ではいざ知らず、狭い道路の多い田舎の選挙では

これが付いて回る。

選挙カーの運転は神経を使うので、ことのほか疲れるものだ。

目視でドライバーに協力しながら

おりに触れて褒めたりねぎらったりするのも

ウグイスの大切な業務である。


「どうぞ先にお進みください」

渋滞で明るく後続車を促し、サンキュー事故未遂になることも

一度や二度ではない。

そりゃ師匠に怒られるはずだ。

「いつも途中でマイクを奪われて、後で叱られるんです」

悲しそうにおっしゃるが、当たり前である。

たとえ短時間でも、完全にマイクを預けられる信頼を得なければ

いつまで経っても追い回しの下働きのまま叱られ続け

やがてはおばあさんになって引退だ。


車のあれこれは、機転というより常識の管轄なので

運転の練習を勧めもしたが「怖いから無理」だそう。

だから車関係以外の機転を得ようと、ナミ様は一生懸命だ。

しかし、命あってのモノダネ。

安全運転してこその選挙運動。

練習さえすれば簡単に得られる機転を捨てたナミ様に

他の何を言っても身につくわけがない。


私の方は車関係をクリアできなければ

他を頑張ってもダメだと思っているが

ナミ様の方は車が無理だからこそ

余計に他の機転が欲しくなるようだ。

「懐中電灯を振ってくれる人にお礼を言う時

LEDと普通のやつとで文言を使い分けていますよね!

“その青く清涼な輝きのごとく

市政を導く光となりたい◯◯でございます”とか。

“◯◯も暖かい灯りで町の未来を照らしとうございます”とか」

「あんたとこ、まだ旧式かい?って言えないじゃん」


「道を間違えた時

“◯◯は道には迷っても、政策に迷いはございません”

って言われましたよね!

行き止まりになった時は

“◯◯は道には行き詰まっても、政治には行き詰まらない即戦力”

って言われましたよね!」

「あれはついでの遊びじゃ」


こういうのがナミ様のツボらしく

「バッチリメモりました!次の選挙から使わせてもらいます!」

と張り切る。

それよか、やっぱ車だろう…と思うが、虚しいのでもう言わない。


車といえば、こんなことがあった。

年季入りのペーパードライバー、ナミ様の送迎は

高齢の母親が担当している。

ナミ様が老女になった姿を連想させる、可愛らしいおばあちゃんだ。


ナミ様より先に、このママが私になついた。

初日の朝、自身の離婚歴を嘆くナミ様と

娘を不憫に思いつつも、孫に恵まれなかったことや

実家頼りの不甲斐なさに小言が出るこの母に

例のごとく、えらそうに自論をぶちまけたのが発端である。


「離婚~?

女一人幸せにできない男と、いつまでもくっついてたって

一生ロクなことありゃしないわよ!

そんなヤツの子孫、増やさなくて正解よっ!」

ママはこれで目からウロコが落ち、楽になったとおっしゃる。

昔ウグイスをしていたママは、根性無しの娘が歯がゆいそうで

「みりこんさんにしっかりくっついて、習いなさい!」

と、毎日ナミ様を叱咤激励するのだった。


が、そこは親子。

当時はまだ暴漢も出ておらず、ナミ様のウグイス年齢はバレていなかったので

ママも娘に合わせて「ウグイスママ年齢」を使用し

72才と言わされていた。

娘は5つ、母は6つ、逆サバを読んでいたのである。

一つ嘘をついたら、周りも固める必要が出てくるから

大変なのだ。


ナミ様の5つはわからなかったが、後期高齢者の6つはやり過ぎだった。

色白で可愛いとはいえ、杖をついたカツラのおばあちゃん。

今にして思えば、やはり無理があった。


4日目の朝、このママに事件が起こった。

いつものようにナミ様を送って来た時

選挙事務所のそばで対向車と接触したのである。

ここから母娘の苦悩が始まろうとは、思いもよらなかった私だった。

コメント (4)
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