殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

しょせんその程度

2014年08月30日 10時34分52秒 | みりこんぐらし
本社の経理部長、ダイちゃんの信仰を知った4月以降

我々が彼の宗教勧誘に辟易しているのはご存知の通りだ。

家族で同じ道を歩む幸せ…

教えに沿った、清らかで愛情あふれる暮らし…

そこに豊かさと安心の世界が訪れるとダイちゃんは言う。

聞きながら、我々はひそかに思うのだった。

「知らぬは親ばかり」。


2月のことであった。

次男は、ダイちゃんの息子さんのスマホを預けられた。

パスワードを忘れてアプリが取り込めなくなったそうで

ダイちゃんに解明を頼まれたのだ。


あれこれいじっているうちに現れたのは

当時中3だった息子さんが取り込んだ、おびただしいエロ動画。

しかもガキのくせして、シロウトではない。

SM、年増、近親相姦ばっかり。

清らかどころか、倒錯じゃねえか。

入試に落ちるはずじゃわい。



さて、7月中旬のことであった。

これといった用事の無い日に、ダイちゃんは我が社を訪れた。

とても困っている様子だ。


「30人ほどで泊まれる、海辺の宿を探しているんだ」

ダイちゃんは我々に言った。

幹事になったのをすっかり忘れていて

毎年恒例の一泊旅行が10日後に迫ってしまったと言う。


頭がいいはずのダイちゃんは、この頃、よく物忘れをする。

仕事が多忙なのもあるが、私は信仰の副作用ではないかと思っている。


「毎年、海辺でやるんだ。

みんな、新鮮な魚を食べるのを楽しみにしていてね。

いつもは小さい民宿だけど

今年は期待してくれと言ってしまったから

急いで探したけど、夏休みでしょ。

30人となると、難しいんだよ。

この近くに、どこか無いかな?」


我々はダイちゃんのピンチに心から同情した。

宗教の勧誘は憎たらしいが、仕事と友好の面では割り切っているのだ。


「任せてください」

地元住民の我々には、コネのある宿泊施設が何軒かあった。

魚がおいしくて、綺麗で楽しめて、あんまり高くない所…

的は、夫の親戚が勤める島の観光ホテルに絞られた。

「海を眺められる露天風呂なんか、どうですかね?」

ダイちゃんは大喜びだ。

「海を見ながら露天風呂!いいねえ!」


さっそく夫が親戚のノブ君に電話する。

個室は予約でいっぱいだけど、大部屋3つなら大丈夫と言う。

こんな時のために、隠し部屋があると聞いていた。

倹約家のダイちゃんの意思を汲み、大部屋割引の上

さらに格安にしてもらう。

夫の上役ということで、料理も何品かサービスしてくれるそうだ。


激しく喜び、メンバーの一人に電話するダイちゃん。

もちろん自分が探したような口ぶりである。

ダイちゃんの役に立てた夫も、嬉しそうだ。


ところが、電話の相手は同年代のおばさん。

ダイちゃんの真剣さから、仕事関係の集まりだと思っていたが

違ったみたい。

電話から「高ぁい!」という叫びも聞こえる。


電話を終えたダイちゃん、こともなげに言う。

「1万円超えたら難しいんだって。

もう少し下げてもらえない?

それからチェックアウトの後、10時から昼まで別室を借りて

会議がしたいんだ。

実はこの会議がメインでね。

30人が入れる部屋を、できれば無料で貸してもらえないかな?」


またノブ君に電話する夫。

料金は、これ以上無理ということだった。

会議室の方は、掃除時間なので難しい様子だが、何とかしてくれた。


私はすでにキレていた。

有名人もお忍びで訪れる、この辺りでは上等の部類の観光ホテルを

値切った上に会議室までタダで貸せという図々しさ。

それでもまだ迷うバカたれぶり。

これは、例の教団に違いない。

旅の恥はかき捨てと言うけど、旅する前から大恥じゃないか。


ダイちゃんはあちこちに電話をしていたが、その日は結論が出なかった。

「帰って煮詰めるから、仮押さえをしといてもらえないかな?」


「アパートじゃあるまいし!」

語気を荒げる私を横目に、お人好しの夫はその旨をまた電話し

やはり仮押さえのシステムは無いと言われる。

でもノブ君は優しいので

「大丈夫、予約はもう入らないと思うから、決まったら連絡してね」

と言った。

恥知らずの夫も、さすがに恥ずかしいと思ったらしく

「後はホテルと直接話してください」

と電話番号を教え、この件は我々の手を離れた。


一週間後、今度はダイちゃん、仕事で我が社を訪れた。

「ホテルはどうなりましたか?」

例の一泊旅行が3日後に迫っていたので、夫がたずねる。


「ああ、あれは断ったんだよ。

1万円越えたらきついと言う人が多くて。

結局、毎年泊まる民宿になった。

小さい民宿なら、チェックアウトがうるさくないからね」


紹介したお客が、変な宗教団体だった…

これはノブ君と我々にとって、非常に恥ずかしいことである。

会議なんかじゃなくて、絶対お祈りをするんだ。

仲介したあげくに断られる残念なんか、目じゃない。

我々はそっと胸をなでおろすのだった。


「宗教の集まりだったんですか?」

確信している我々ではあるが、一応たずねる。

「そうだよ、毎年夏に観光を兼ねて、あちこちから幹部が集まるんだ。

君達とも、いずれ一緒に参加したいな」


チャンスとばかりに、私は言う。

「宿泊費が1万円超えたら困るなんて、信じられな~い!

これやってたら、金持ちになれるんじゃなかったんですかぁ?」

「倹約は大事だから…」

ダイちゃんはちょっと困ったように答える。


「年に一回の旅行すら倹約して、どこにお金使うんです?

献金ですか?」

「そういうわけじゃないけど…」

「地元の人間使って、難しい要求して、高いからダメでした。

教団の人は二度と来ることは無いから平気でしょうけど

地元で生活する人間は、ゴメンじゃすまないですよ」

「商売って、そんなもんじゃないかな?

ホテルではよくあることだと思うよ。

30人だから、向こうにとっても悪い条件じゃない。

お客の要望に応えられるかどうかの力量の話で…」


マ…マジか…。

私はひそかに、そして激しく立腹した。


「私達は商人の子供です。

お金が惜しければ、同じ商人に迷惑をかけてまで旅行には行きません」

「僕達が泊まった所は浄化されて繁栄するから

ホテルにもいいんだよ。

入信したら、その辺りのことがよくわかると思うよ」

「ヒー!そういう考え、一番嫌!

絶対入信しません。

あきらめてください」

たじろぐダイちゃん。

妻に仇を討ってもらい、ニヤつく夫。


浄化されて繁栄するならば、毎年泊まるという民宿はどうなのだ…

直前の予約にも関わらず、夏休み最初の土日に

30人の予約が受けられる状況で、繁栄と言えるのか…

これを追求しようと思ったところへダイちゃんの携帯が鳴った。


ダイちゃんの携帯は本当によく鳴る。

3つ持っているし、仕事も宗教も幹部なので連絡は頻繁だが

着信を活用して話を終わらせたり進めたりする技術はさすがだ。

今回は、着信をきっかけに終わらせた。


以来、入信の勧誘は控えめになり、集まりの誘いが中心になった。

どっちにしてもウザいのに変わりはない。
コメント (14)
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