殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

第2こすず道

2014年08月18日 14時41分30秒 | みりこんぐらし
結婚して以来、毎日実家に帰って来る夫の姉カンジワ・ルイーゼ。

またの名をこすず。

夫の浮気でギクシャクする我々夫婦に油を注ぎ、両親を焚きつけ

経理を任されていた父親の会社を滅亡に導いた、素晴らしいお姉様だ。


数年前のこと。

隣の市に、一本の道路が開通した。

何年もかけて山を切り開き、ようやく完成した立派な道路だ。


図らずもそれは、隣の市の山間部に位置するルイーゼの嫁ぎ先から

実家までの距離を半分に縮めた。

これによってルイーゼの通勤時間は、大幅に短縮されたのである。


予期せぬ優遇に、私は地団駄を踏んだものだ。

しかし、一つの教訓を得たのも確かである。

陰でブーブー言いながら我慢と葛藤にあえぎ

表向きは建前の平静を装う“二心(ふたごころ)”より

「実家に帰りたい!」という“一心”の方が優遇対象となる…

2より1の方が強いという法則である。


人の苦しみや迷惑なんか、関係ない。

シンプル・イズ・ストロング。

教訓を得た記念として、その奇跡のルートに

「こすず道」と名付けた経緯は以前記事にした。


それから3年、父親の会社に見切りをつけたルイーゼは

隣町の老人ホームで給食調理員として働き始めた。

婚家と実家の中間地点に、その職場はある。

こすず道を通って通勤しているが

町はずれの崖の上というヘンピな場所の上

道路が整備されておらず、離合困難の悪路が延々と続く。

早朝勤務もきつかろうが、通勤はなおきつそうだった。


老人ホームで働き始めて3年目の今年

ルイーゼは調理師免許を取得すると意気込んでいる。

私の持っている調理師免許とは違う、もっと難しい特別な免許だと

義母ヨシコはライバル心むき出しで言い張る。

普通より難しい特別な調理師免許なんて

フグの免許ぐらいしか聞いたことが無いが

母娘でそう思い込んでいるのだから、そういうことにしておく。


こうして頑張っているルイーゼに、またもやでっかいプレゼントが届いた。

つい先日、こすず道を降りてすぐの所から老人ホームの手前まで

やっぱり山を切り開いて、数年に渡る大工事が行われ

新しい道路が開通したのだ。

ルイーゼは最初に開通した「第1こすず道」と

このたび開通した「第2こすず道」で

通勤時間の大幅な短縮と快適を手にしたのである。



道路族のはしくれである我が社も、この工事の材料供給に少し関与したが

まさかこういうことになるとは、開通するまで考えもしなかった。

「俺達はあいつのために働いたのか!」

夫と子供達の悔しがるまいことか。


「まあまあ」

私は彼らをなだめるのだった。

第1こすず道だけでなく、第2こすず道までが開通したことを受け

私は一つの予測を立てた。

第3こすず道の構想である。


ルイーゼは仕事の帰りに、必ず実家へ来る。

職場からまっすぐ自分の家に帰るのであれば

第2こすず道と第1こすず道を通ってすんなり帰れるが

逆方向の実家へ向かう道は、いまだ整備されていない。

山越えの離合困難な道が数キロ続く。


この調子で行けば、ルイーゼが実家へ向かうための

新道が建設される可能性は高い。

第1、第2と同じように、これまで不便を強いられた少数の住民のため

何も無かった所へトンネルを掘ったり、架橋をすえたりの大工事が行われ

ゼロから道路が作られるかもしれないじゃないか。


「第3こすず道は、山の切削から取りに行くのよ!」

私は家族にゲキを飛ばすのであった。

思えば第1の時は、会社が青息吐息だったのでそれどころではなく

蚊帳の外だった。

第2の時は廃業作業に追われている最中で

しっかり食い込む余裕が無かった。

次はアタマを取るつもりになっているから、我ながらおめでたい。


「あの女の運に頼るほど落ちぶれるつもりは無い」

と、この発想は家族からすこぶる不評である。

このタイプの工事は、労だけ多くて実入りが少ないのも業界では常識だ。

しかし当たるも八卦、当たらぬも八卦。

ルイーゼの強運がどこまでのものか

山師の気分で眺めるのはけっこう面白い。

コメント (10)
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