殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

グッバイ・四人組

2014年08月15日 09時01分54秒 | みりこんぐらし
ひところ人気のあったアメリカのドラマ「S・A・T・C」。

セレブでファッショナブルな4人の中年女性が織りなす

ゴージャスな友情物語だ。


我ら4人の地味な集まりに、そう名付けてはや8年が経過した。

セレブでもなく、ファッショナブルであるはずもなく

中年という共通点をよすがに、S・A・T・Cを名乗る厚かましさ。

その中年も高年になりかけ、残る共通点は人数のみと成り果てた。


メンバーは、病院の厨房で同じ釜のメシを食った者で構成されている。

同い年のA子、5才年上のB子、一回り年上のC子。

A子とB子はまだ現役、C子と私はすでに退職済みだ。


この集まりが行われることは滅多に無い。

せいぜい年に2回がいいとこ。

会うのはたいてい夜だが

まず不規則な勤務の現役A子とB子の2人が揃いにくい。

2人とも当日が午後勤務でなく

翌朝ゆっくりできる日程となると難しいのだ。


退職したC子と私にも、病老の親がいる。

C子は両親2人の介護なので

外に出て丸々数時間を過ごすのが難しい。

やっと親族に頼んで出て来ても、手に負えずドタキャンになったり

電話で呼び戻される。

現役2人も介護の必要な親がおり、似たようなものなので

集まりは滅多に行われないことになる。


先日、C子に自由が訪れた。

父親が亡くなり、母親が施設に入ったからだ。

1人自由がきくようになると、日程が合わせやすくなる。

1年ぶりの集合だ。


しかし楽しみにしていたその日、現役のB子が来られなくなった。

前日まで働いていたのに、仕事中に倒れたのだ。

末期癌だった。

卵巣から肺に転移し、呼吸困難になって入院した。


年に2回、病院で行われる検診を6月に受けたばかりだった。

3月にも呼吸が苦しくなったので検査をしてもらったら

気管支炎と診断されていた。

我々の働いた病院は、やっぱりヤブだった。



やっと会えるようになったら、1人が欠ける。

人生ってこんなもんさ…とは思うが、その「こんなもん」は

時に残酷だ。


ショックだとか言いながら嘆き悲しむには

我々はもう年を取り過ぎた。

家族や知人の死に出会う回数が増すにつれ

それは明日の自分かもしれないとわかってくる。

「今は誰にも会いたくない」

B子の希望を尊重し、ただ静かに現実を受け止める。


我々3人はB子の奇跡的回復を祈りつつ

自分がそうなった時のために、お互いの要望を知っておき

それぞれの家族に伝える役目をしようと決める。

見舞いの希望の有無や延命治療の有無

葬式のスタイル、墓や法事のことなどだ。



その伝達が行われたのは、食事をすませて寄ったマックカフェ。

ケーキを注文したら、3人それぞれの皿に

ジャムとチョコレートで簡単な絵が描かれていた。

A子には星、C子には花、私にはハートの絵。

こんな夜だから、ちょっとしたサービスが心にしみて

喜ぶオバン達。


「お客様のご要望を取り入れて、色々やらせていただいてるんです」

マックカフェの綺麗なオネエちゃんが、にこやかにのたまう。

ここには2回しか来たこと無いけど

カフェはハンバーガーの売り場よりべっぴん揃いである。

「何かご要望がありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」


「ご要望…?」

私の悪い癖が始まった。

オネエちゃんの手を取り

「息子の嫁に来てちょ」。


S(そんなこと言われても)・A(あたしゃ)・T(当惑)・C(シティしまうわ)

といった表情のオネエちゃん。

若者の尊い犠牲の元、オバンの夜は更けていくのであった。
コメント (12)
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