goo blog サービス終了のお知らせ 

殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

高速獅子

2011年12月09日 07時24分36秒 | みりこんぐらし
先日、同級生マミちゃんの母上が亡くなった。

通夜と葬儀は、町内にある大手冠婚葬祭チェーンの葬儀場で

しめやかに執り行なわれるということであった。


その葬儀場は今年できたばかりで、私は行くのが初めてだった。

遺体を入浴させる機械があるとか

接待係や駐車場係は社員がやってくれるので

ご近所など他人の手をわずらわせなくてすむ…というのは聞いていた。

その代わり、料金はかなり高いというのも聞いていた。


老いた親もいることだし、私とて、いつお世話になるかわからない。

長患いの後は風呂に入れてもらいたいし

人に迷惑をかけなくていいのは魅力的だ。

町に昔からある家族経営の葬儀社とどう違うのか

一度見ておきたいと思っていた。


会場が新しくて広いのと、遺族を「マミ様」「アキラ様」と

下の名前で親しげに呼ぶ以外は、あまり大差は無いように思える。

帳場はご近所がやっているし、故人は入浴後に亡くなったそうなので

風呂の出番も無かったようだ。


変わっていると言えば、通夜が終わりに近付いた時

「明日の葬儀にも、ぜひご列席ください」と何度も言うところだろうか。

葬儀社作成の原稿と丸わかりの、喪主の挨拶でも言う。

司会者も言う。

お坊さんも言う。

帰り際には、見送りのスタッフも口々に言う。

明日も来たら、そんなにいいことがあるのか?と思ってしまうほどだ。


だからというわけではないが、翌日の葬儀にも行った。

あっさりしていた通夜と違って、葬儀はもりだくさんな内容だ。


喪主の挨拶が終わると、会場の照明が落とされた。

亡くなったお母様に宛てたお嬢様のお手紙を

盛り上げBGMに乗せて、司会者が情感たっぷりに朗読。


あちこちですすり泣きが聞こえ始めたところで

祭壇の横に大きな幕がするすると降りてきた。

故人在りし日のDVDを鑑賞するのだ。


マミちゃんの母上は、日舞のお師匠さんだった。

“平成20年度おさらい会”というタイトルと共に

映し出された静止画像は、まことに美しい舞台姿である。

故人は80才を越えているというのに、娘役で何の遜色も無い。

長年芸で鍛えた人は、さすが、アゴのラインが違う。

女が若く見える最大の秘訣は、顔の下半分の輪郭なのである。


問題は、ここで起こった。

機械がうまく作動しないらしく、なかなか始まらない。

映像が大きくなったり小さくなったり、点いたり消えたり

試行錯誤の繰り返しを眺めながら、長い間待った。


やがて「連獅子(れんじし)」を踊るシーンが上映可能となる。

歌舞伎でお馴染みの、赤いロン毛と白いロン毛の

獅子に見立てた二人の踊り手が、動きを合わせて頭をくるくる回すやつだ。

実力、立場、ともに高次元でないと舞えない、格の高い踊りである。


    「おおっ!」

私は思わず声をもらした。

早送りになっとる!


連獅子を早送りで見たら、どれほどユーモラスか

わかってもらえるだろうか。

ギャグだぞ。

まるで、タチの悪いカラクリ人形を見ている気分だ。

一同ざわめきつつ、しばし高速の連獅子を鑑賞。


明日の葬儀に来い来いと、しつこく誘っていたのはこのためだったのか…

私は意地悪く思う。

さっきまであれだけベラベラとしゃべりまくっていた司会者が

この時だけは貝のように押し黙っているのも不気味。


ま、気持ちはわかるけどね。

うっかり「失礼しました」なんて言えば

機械を操作した人に恥をかかせることになるもんね。

家族経営の葬儀社とは違って、みんな他人同士だもんね。

今日の葬式より、今後の自分達の人間関係のほうが大事よね。


やがて機械が直り、別の美しい踊りが、通常の速度で上映された。

ホッとしたような、連獅子をまだ見たかったような気持ちになった。


この後、列席者は最後のお別れをすると、遺族を残して外へ誘導される。

霊柩車のお見送りだそうで、寒空の中をさんざん待たされる。

「ここはおかしい…」「真夏だったら…雪だったら…」

そんなささやきも聞こえる。


このあたりで、私はやっと気づいた。

ここは、プログラムとプログラムの幕間が長いのだ。

プログラムがたくさんあるので、当然幕間も数多く存在する。

親切なのに、どこか感じが悪い…

丁寧なのに、なぜかムカつく…

いんぎん無礼の刑を受けているような気分は

持ち場同士の連携が取れていないために起こるトロさだと判明。

速かったのは、獅子だけかい。


20分後、水入らずで最後のお別れをすませた遺族が出てきたら

また挨拶…棺桶に花束贈呈…と続く。

火葬場へ向かう霊柩車をお見送りした後は

次々と車寄せに入って来る遺族の車やバスを一台ずつお見送り。

我が葬儀列席史上最長記録・2時間36分をマークして、やっと解放された。

風呂に入れてもらわなくていいから

ここで葬式をするのはやめておこうと決めた。
コメント (39)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする