車で40分ほどの町に、お気に入りの洋服の店がある。
昨年初めて行って以来、すっかりはまっている。
最初は、知人である橋川夫人の買物につき合う目的であった。
10才年上の橋川夫人は、優しくて気のいい人だが
着るものは、決して私の好みではなかった。
加齢で問題の生じた胸と腹
及び尻まわりの隠蔽(いんぺい)が大前提なので
ダボッとした長めの上衣は、必須アイテム。
小柄でずんぐりの体型に長い上着を着れば、もっさり感満載。
隠す安心と楽ちんを入手するために、メリハリとバランスを犠牲にしたので
救済措置として、引き締まって見える色合いが最重要課題となる。
よって、必然的に黒や紺などの暗色系。
それを意味不明の柄や織りで「渋い」「地味派手」などと表現してお茶を濁す。
あとは申しわけ程度のレースや刺繍による手芸的要素
大きめのボタンなどで、わずかに残るおしゃれ心を救済。
試着室から何を着て出ても「似合う」と言われ
色やデザインを少し変えれば「冒険」とたたえられる、オバン製造工場。
夫人に「行きつけの店があるの」と言われ
その方面の店であろうよ…と、気が重かった。
ところが行ってびっくり。
橋川夫人御用達のもっさりルックもあるが
ゴージャス系、キュート系、よそ行き(古いか)、普段着…
様々なジャンルの洋服が、コーナー別になっていた。
私の好きな装飾過剰のゴテゴテ系も、わんさか。
シンプルも好きだけど、この年になると
かなり上質な素材でなければ、みじめったらしくなる。
着て楽しいのは、ゴテゴテだ。
サイズが豊富なので、大柄な私でも選べる楽しさが充分味わえ
価格も手頃である。
さらに着てびっくり。
型紙が中高年専用らしい。
ものすごく楽で、しかも心なしか細く見える。
平均的とされる体型を参考に、作りたい洋服を作り
その服着たさに人が合わせる“若服”。
タイムリミットが迫っており、新調そのものがおしゃれ行為となるため
細かいことはさほど問わない“婆服”。
踏みとどまるか、あきらめるか、瀬戸際の“おば服”。
踏みとどまりたい人には、優れた英知でウィークポイントを隠蔽工作してくれ
あきらめた人を優しく包む…それがおば服。
そう、ここは“おば服専門店”なのであった。
さて先日、同級生の親友モンちゃんと、この店に行った。
正月に控えた同窓会で着る物が欲しいと言うので、案内したのだった。
細っこいモンちゃんは、サイズ的には若服が着られる。
少年のような体型に、ジーンズやコットン素材の服がよく似合うが
顔の方には、そろそろ限界が忍び寄っている。
普段はどうでもいいけど、ここぞという時には
装飾の多いソフトな印象の服を着て、顔から目線をそらしてもいい頃だ。
本体の劣化を包装紙で補うという名目で
おば服ワールドへひきずり込もうとたくらむ私がいた。
モンちゃんの服選びに興じていたら、3人いる中高年の店員の中で
一番若手の店員と、高校の話になった。
出身校が我々と同じとわかり、モンちゃんと私と店員は喜び合う。
さらに同い年とわかり、また3人でキャッキャと手を取り合って喜び合う。
しかしこの時点で、偶然を喜び合うのはどうもおかしいと気づく3人。
同じ学校で同い年のことを、もしかしたら世間では
同級生と呼ぶのではないのか。
「あの、もしかして…モンちゃん?」
店員は問うた。
「そうよ…あれ?小川さん?!」
モンちゃんは、変わり果てた私と違い
髪型や体重など、高校時代の面影を多くとどめているので
わかりやすかったようだ。
この2人、2年と3年で同じクラスだったそう。
私は同じクラスになったことはないけど
そう言われれば、つり気味の大きな目に見おぼえがある。
電車で4駅離れた町から、通っていた子だ。
モンちゃんを連れて行かなければ、一生知らなかったかもしれない。
爽やかな驚きに、興奮冷めやらぬモンちゃんと私であった。
昨年初めて行って以来、すっかりはまっている。
最初は、知人である橋川夫人の買物につき合う目的であった。
10才年上の橋川夫人は、優しくて気のいい人だが
着るものは、決して私の好みではなかった。
加齢で問題の生じた胸と腹
及び尻まわりの隠蔽(いんぺい)が大前提なので
ダボッとした長めの上衣は、必須アイテム。
小柄でずんぐりの体型に長い上着を着れば、もっさり感満載。
隠す安心と楽ちんを入手するために、メリハリとバランスを犠牲にしたので
救済措置として、引き締まって見える色合いが最重要課題となる。
よって、必然的に黒や紺などの暗色系。
それを意味不明の柄や織りで「渋い」「地味派手」などと表現してお茶を濁す。
あとは申しわけ程度のレースや刺繍による手芸的要素
大きめのボタンなどで、わずかに残るおしゃれ心を救済。
試着室から何を着て出ても「似合う」と言われ
色やデザインを少し変えれば「冒険」とたたえられる、オバン製造工場。
夫人に「行きつけの店があるの」と言われ
その方面の店であろうよ…と、気が重かった。
ところが行ってびっくり。
橋川夫人御用達のもっさりルックもあるが
ゴージャス系、キュート系、よそ行き(古いか)、普段着…
様々なジャンルの洋服が、コーナー別になっていた。
私の好きな装飾過剰のゴテゴテ系も、わんさか。
シンプルも好きだけど、この年になると
かなり上質な素材でなければ、みじめったらしくなる。
着て楽しいのは、ゴテゴテだ。
サイズが豊富なので、大柄な私でも選べる楽しさが充分味わえ
価格も手頃である。
さらに着てびっくり。
型紙が中高年専用らしい。
ものすごく楽で、しかも心なしか細く見える。
平均的とされる体型を参考に、作りたい洋服を作り
その服着たさに人が合わせる“若服”。
タイムリミットが迫っており、新調そのものがおしゃれ行為となるため
細かいことはさほど問わない“婆服”。
踏みとどまるか、あきらめるか、瀬戸際の“おば服”。
踏みとどまりたい人には、優れた英知でウィークポイントを隠蔽工作してくれ
あきらめた人を優しく包む…それがおば服。
そう、ここは“おば服専門店”なのであった。
さて先日、同級生の親友モンちゃんと、この店に行った。
正月に控えた同窓会で着る物が欲しいと言うので、案内したのだった。
細っこいモンちゃんは、サイズ的には若服が着られる。
少年のような体型に、ジーンズやコットン素材の服がよく似合うが
顔の方には、そろそろ限界が忍び寄っている。
普段はどうでもいいけど、ここぞという時には
装飾の多いソフトな印象の服を着て、顔から目線をそらしてもいい頃だ。
本体の劣化を包装紙で補うという名目で
おば服ワールドへひきずり込もうとたくらむ私がいた。
モンちゃんの服選びに興じていたら、3人いる中高年の店員の中で
一番若手の店員と、高校の話になった。
出身校が我々と同じとわかり、モンちゃんと私と店員は喜び合う。
さらに同い年とわかり、また3人でキャッキャと手を取り合って喜び合う。
しかしこの時点で、偶然を喜び合うのはどうもおかしいと気づく3人。
同じ学校で同い年のことを、もしかしたら世間では
同級生と呼ぶのではないのか。
「あの、もしかして…モンちゃん?」
店員は問うた。
「そうよ…あれ?小川さん?!」
モンちゃんは、変わり果てた私と違い
髪型や体重など、高校時代の面影を多くとどめているので
わかりやすかったようだ。
この2人、2年と3年で同じクラスだったそう。
私は同じクラスになったことはないけど
そう言われれば、つり気味の大きな目に見おぼえがある。
電車で4駅離れた町から、通っていた子だ。
モンちゃんを連れて行かなければ、一生知らなかったかもしれない。
爽やかな驚きに、興奮冷めやらぬモンちゃんと私であった。