殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

汗の効用

2011年08月27日 14時14分16秒 | みりこんぐらし
先日、年配の知人である青山夫人から電話があった。

「あの…変なこと聞いて悪いけど…

どこか見てくれるところ、知らない?」


“見てくれるところ”というのは、拝み屋さんのこと。

霊能力で困り事の相談に乗る人である。 

2~30年前まで、このあたりには

一町村に数人の割合で拝み屋さんがいた。

普通の家の、普通の年配女性がほとんどで

霊能力で問題解決というよりも、女性や老人など弱者の気休め機関

といったおもむきだった。

現在はそのほとんどが他界し、拝み屋さんという商売は聞かなくなった。


もしまだいたとしても、とても紹介する気にはなれない。

その時は気が紛れても、後で何かとトラブルが多いからだ。

紛失物は、たいてい身近な誰かの出来心と言われ

家庭不和や人間不信をもたらした例は多い。

泥棒の仕業にすれば、警察が介入して厄介なことになるからだ。

精神の病や争いごとを除霊してもらって

ますます悪化したのも、子供の頃に見ている。


青山夫人は、絞り出すような声で言う。

「35才の息子が精神的に具合悪くなっちゃって

 今、休職して関東から帰省してるの。

 カウンセリングに通っているんだけど、はかばかしくなくて…。

 どこかへおすがりしたいと思うのよ」

    「おすがりするなら、私より青山さんのほうが詳しいじゃないの」


青山夫人はとてもいい人なんだけど、昔から何かにすがるのがお好き。

体が丈夫でないのもあって、これまで何かあるたびに

さまざまな場所で、やれお祓いだ、ご祈願だと

スピリチュアル・ジプシーを重ねてきた。

こういうのって、癖になるらしい。


ジプシーを続けるうちに、自身も少々“見える”ようになったとおっしゃる。

「体調が悪い時、ああ、私を救えるのは○○稲荷しか無い!とひらめいてね

 這うようにして、お祓いを受けたの」

「亡くなった兄が夢枕に立つと、悪いことが起きるの」

などと、違和感満載のオモシロ語録は多い。


以前病気になった時、私の友人の旦那におすがりなすったこともある。

この旦那、市外にある大きな寺院の僧侶。

決して怪しい所ではなく、由緒正しき古寺である。


そのお寺が霊験あらたかという話を聞いた青山夫人は

つてを頼って、お祓いに出かけたそうだ。

お祓いは神社の専売特許だと思っていたが、寺院でもできるらしい。

ただし、それで病状が改善したかどうかどうかは聞いてない。

聞いてないということは、いまひとつパッとしなかったのだろうと察する。


その後、青山夫人は私の家で、その友人と写っている写真を見つけ

「何でお聖人(しょうにん)様の奥様がここに?!」

と驚いていた。

仲良しの友人だと言うと、感激して

「やっぱりみりこんさんと私には、仏縁があるんだわ!」

と涙を浮かべていた。

以来、仏縁の人として、夫人は私をとてもかわいがってくれる。


しかしそのお聖人、お寺の住職とは世を忍ぶ仮の姿。

浮気はするわ、キャバクラ通いが好きだわ

とんでもねぇなまぐさ坊主である。

友人は商売柄、人に話すこともできず

寝たきりの舅の世話や寺の雑務をこなしながら、長年一人で苦しんできた。


あんななまぐさ坊主でも、祓うだの救うだの

人智を越えた行為が可能なものであろうか。

毒をもって毒を制すということなのだろうか(冗談です)。

だったらうちの夫なんて、もはや神仏の域ではないか(冗談です)。


「休職が長引いたら解雇になってしまうから、急ぎたいのよ。

 拝み屋さんがいないんだったら、またあのお聖人の所へ

 息子を連れて行ってみようかしら。

 みりこんさん、ついて来てもらえない?」

    「よしなさい、よしなさい」

理由をしゃべるわけにはいかないので、ただ止めるしかない。

営業妨害になろうが、あんなヤツに高いお金を払うことはないのだ。

そんなお金があったら、息子さんにおいしいものでも食べさせてもらいたい。 


「私が愛読しているエ○ラさんやシ○さんの本を渡したら

 投げつけられて…もう、どうしていいやら…うっう…」

夫人が泣き出したので、とりあえず電話を切って、彼女の家に駆けつけた。

数百メートルの距離ではあるが、走ったので暑いのなんの。

汗が止まらない。


「私のために、こんなに汗びっしょりになって…

 ありがとう!みりこんさん!」

夫人は感激した。

    「いや、これは更年期障害で…」

そんなこと聞こえちゃいない夫人は、涙を拭きながら言う。

「そばで親身になってもらいながら

 遠くの何かに頼るなんて、私、間違ってた」

     「いや…更年期しょ…」

「いいの!

 あなたの言いたいこと、わかります!」

     「ち…ちが…」

「私、頑張る!

 母親だもの!

 みりこんさん、気がついたことがあったら、何でも教えて!」


我がナイアガラの滝は、彼女にうるおいをもたらしたようだった。

そう言えば奉仕作業なんかで、私だけ汗だくになるので

人一倍働いたように思われて、ねぎらいも人一倍だったような…。

更年期も悪くない。 
コメント (45)
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