義父アツシは先月下旬から、しきりに
「胸が痛い、痛い」と言っていた。
犬の散歩で転んだからじゃないのか、と私は言い
長男も口添えした。
「僕も胸が痛かった時、あったよ。それは筋肉痛だよ」
「そうよ、日にちが経てば治るわよ」
そうか…そうなのか…アツシはホッとしていた。
しかし、痛みは日増しに強くなるばかり。
病院へ行ったら、ヘルペス(帯状疱疹)だった。
「ギャハハ!お義父さん、ごめんね~!」
笑ってごまかす。
以来、アツシは食欲が無い。
持病とヘルペスの薬の併用が原因かもしれないし
ヤケドや転倒で立て続けに外傷を負った上
今度はヘルペスで、精神的に参っているのかもしれない…と思っていた。
そこで食欲を起こさせようと、手を変え品を変え
色々試してみるが、はかばかしくない。
やればやるほど食べなくなる。
食べたい物があるか…と問えば
義母ヨシコが、思い余ったように言う。
「肉よ!…ね、お父さん!」
夫婦、いつになく心をひとつにし、うなづき合う。
彼らの言う“肉”とは、町内にある田上精肉店の高級牛肉を
大量摂取できるメニューのことである。
確かにこの一ヶ月、病状の悪化によって牛肉を控えていた。
いつも地味な治療食ではつらかろうと、たまに「毒の日」を設けていたが
皆で一気につつける好物にすると、量の制限ができないからだ。
治療食生活も1年を過ぎ、アツシもヨシコも飽き飽きしていた。
豚をバカにし、鶏をさげすみ、魚を軽視して生きてきた彼らは
安い食材をこねくり回すチマチマ料理が不満だった。
タダで届くからこそ、仕方なく食べていたのが
ヘルペスをきっかけにタガがはずれた。
我慢したって、悪くなるばっかりじゃないか…という結論に至ったのである。
ストライキみたいなもんだ。
そうですか、じゃあお肉にしましょうね…と素直に言えないのが
私の悪いところである。
人のオゴリで厚かましい…とまで思ってしまう。
もうヤケじゃ!
ヤケつながりで、焼肉にした。
「焼肉は一ヶ月ぶりだ…犬がうちに来てから、食べてない…」
アツシは嬉しそう。
「久しぶりにこんなに食べてくれた…」
ヨシコも嬉しそう。
「野菜は嫌なのよね!お父さん!」
焼肉をほおばりながら、またもや2人仲良く見つめ合い、うなづき合う。
トサカにきたので、彼らが見下す鶏にしてやりたいところだが
シブシブということで、翌日はしゃぶしゃぶ。
「昨日焼肉だったから、お父さんと今日は落とすだろうと言って
期待してなかったのよ」
ヨシコはご機嫌だ。
落とすって何だよ、落とすって!
グレてやる!
…そんなに肉が好きなら…フッフッフ…
禁断のユッケが脳裏に浮かぶ。
さすがにそれはヤバかろうと、スキつながりで、すき焼きだい。
がぜん張り切る、すき焼き奉行のアツシ。
「砂糖は今入れるんじゃないっ!」とかうるさい。
ここで夫が根を上げた。
「もう肉は勘弁してくれよ…あっさりしたものが…」
「そうはいくか!」
財布の敵ということで、明日はステーキにしようと誓う。
どうなっても知らんぞ。
ところがアツシ、見る見る元気になっていく。
食事の内容より、食べる楽しみのほうが
今のアツシの心と体には、いいみたいね。
知識も技術も、手間も愛情もいらない。
とりあえず必要なのは、金だけであった。
「胸が痛い、痛い」と言っていた。
犬の散歩で転んだからじゃないのか、と私は言い
長男も口添えした。
「僕も胸が痛かった時、あったよ。それは筋肉痛だよ」
「そうよ、日にちが経てば治るわよ」
そうか…そうなのか…アツシはホッとしていた。
しかし、痛みは日増しに強くなるばかり。
病院へ行ったら、ヘルペス(帯状疱疹)だった。
「ギャハハ!お義父さん、ごめんね~!」
笑ってごまかす。
以来、アツシは食欲が無い。
持病とヘルペスの薬の併用が原因かもしれないし
ヤケドや転倒で立て続けに外傷を負った上
今度はヘルペスで、精神的に参っているのかもしれない…と思っていた。
そこで食欲を起こさせようと、手を変え品を変え
色々試してみるが、はかばかしくない。
やればやるほど食べなくなる。
食べたい物があるか…と問えば
義母ヨシコが、思い余ったように言う。
「肉よ!…ね、お父さん!」
夫婦、いつになく心をひとつにし、うなづき合う。
彼らの言う“肉”とは、町内にある田上精肉店の高級牛肉を
大量摂取できるメニューのことである。
確かにこの一ヶ月、病状の悪化によって牛肉を控えていた。
いつも地味な治療食ではつらかろうと、たまに「毒の日」を設けていたが
皆で一気につつける好物にすると、量の制限ができないからだ。
治療食生活も1年を過ぎ、アツシもヨシコも飽き飽きしていた。
豚をバカにし、鶏をさげすみ、魚を軽視して生きてきた彼らは
安い食材をこねくり回すチマチマ料理が不満だった。
タダで届くからこそ、仕方なく食べていたのが
ヘルペスをきっかけにタガがはずれた。
我慢したって、悪くなるばっかりじゃないか…という結論に至ったのである。
ストライキみたいなもんだ。
そうですか、じゃあお肉にしましょうね…と素直に言えないのが
私の悪いところである。
人のオゴリで厚かましい…とまで思ってしまう。
もうヤケじゃ!
ヤケつながりで、焼肉にした。
「焼肉は一ヶ月ぶりだ…犬がうちに来てから、食べてない…」
アツシは嬉しそう。
「久しぶりにこんなに食べてくれた…」
ヨシコも嬉しそう。
「野菜は嫌なのよね!お父さん!」
焼肉をほおばりながら、またもや2人仲良く見つめ合い、うなづき合う。
トサカにきたので、彼らが見下す鶏にしてやりたいところだが
シブシブということで、翌日はしゃぶしゃぶ。
「昨日焼肉だったから、お父さんと今日は落とすだろうと言って
期待してなかったのよ」
ヨシコはご機嫌だ。
落とすって何だよ、落とすって!
グレてやる!
…そんなに肉が好きなら…フッフッフ…
禁断のユッケが脳裏に浮かぶ。
さすがにそれはヤバかろうと、スキつながりで、すき焼きだい。
がぜん張り切る、すき焼き奉行のアツシ。
「砂糖は今入れるんじゃないっ!」とかうるさい。
ここで夫が根を上げた。
「もう肉は勘弁してくれよ…あっさりしたものが…」
「そうはいくか!」
財布の敵ということで、明日はステーキにしようと誓う。
どうなっても知らんぞ。
ところがアツシ、見る見る元気になっていく。
食事の内容より、食べる楽しみのほうが
今のアツシの心と体には、いいみたいね。
知識も技術も、手間も愛情もいらない。
とりあえず必要なのは、金だけであった。