殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

豆板醤

2011年03月15日 18時00分17秒 | みりこんぐらし
義父アツシは、今年に入ってから、ご難続きだ。

正月明けに風邪をひき、かなりヤバかった。

風邪は長引いて、2月下旬まで苦しんだ。


持病の糖尿病もすでに末期で、腎機能が低下している。

風邪など小さな疾患でも、免疫力が無い上に

薬の投与に制限があるので、治りが遅い。

入院だけはしたくないという思いが強く、妻子に体を支えられながら

病院へ点滴に通い、気合いで回復した。


と思ったら、ヘルニアで足が立たなくなった。

関連性は不明だが、年末に起こした交通事故の後遺症ではないかと思われる。

痛みは腰でなく足に出て、神経痛ということになった。

付け根がひどく痛むらしいが、腎臓に負担がかかるので

強い痛み止めが使えない。

七転八倒というのは、このことであろう。


とは言いながら、病院で知り合いに会うと

慌てて車椅子から立ち上がり、ヨロヨロと気力で歩くのだという。

若い頃から、あんまりええかっこばかりしていると

衰えた自分を見られるのが死ぬよりつらいらしい。


アツシは、私が選挙の手伝いをしているのが大変不満である。

なぜなら、彼は対立候補を支持しているからだ。

今回は、珍しく割れた。

「いい加減にしとけ」「行くな」

などと、痛みで唸りながらもけん制する。

無視。

立って歩いて投票に行くのも危ぶまれているのに

支持どころの騒ぎではないじゃないか。


やっと立ち上がれるようになり、私の活動に

いちだんとうるさくなり始めた先日、今度は台所で転んだ。

低血糖によるふらつきはしょっちゅうだが

風邪とヘルニアで寝込んだので、足腰がすっかり弱ってしまったのだ。


転んだ所には、ちょうどストーブがあった。

ストーブには、ヤカンがかけてあった。

はい、ヤケド。

顔と左手を負傷し、腕には大きな水ぶくれができた。


以前から、義母ヨシコには口を酸っぱくして注意していた。

「石油ストーブは、つけるだけで水分が出るから

 わざわざヤカンをかける必要は無いのよ。

 お義父さんが倒れでもしたら大変だから、よしなさい。

 ハイハイし始めの赤ちゃんがいるつもりじゃないと、危ないよ」

しかし何度言っても「肌が乾燥するもん!」とムキになって拒否した。


糖尿病患者に外傷は禁物だ。

治りにくい上、そこから壊死が始まる恐れが濃厚だからである。

ヨシコ、旦那の壊死より、お肌のほうが大事らしい。

自分より具合の悪い者を認めないという性質もあるが

正月からこっち、一日中「痛い、辛い」と騒ぎ

当たり散らす亭主にウンザリして、意地になっている部分もあるのだ。


そして、しれっと言う。

「ヤケドには、豆板醤(とうばんじゃん)がいいと聞いたわ」

ヨシコ、マジかよ…。

皆さんご存知だろうが、一応説明しておこう。

豆板醤とは、唐辛子がたっぷり入った、中華料理で使う味噌である。


「確かに聞いたわ…ヤケドに塗ったらいいそうよ」

ヨシコ、それはリンチだぞ。

でも、好きだな~、ヨシコのそういうとこ。

アツシ、いいと聞くと反応し「持って来い」と言う。

ここは止めるべきなのだろうが、成り行きが見たくて

つい口をつぐむ私よ。


「そうそう、これこれ、豆板醤」

ヨシコは薬箱から、小瓶を取り出した。
     
なんでぃ…ソンバーユというお馬さんの油であった。

間違えただけじゃんか。


卑怯な私は、さんざん笑いまくった後で

糖尿病患者に民間療法はいけない…などと、えらそうにくどくど言って聞かせるが

二人はわかったのやら、わからないのやら。

とにかくソンバーユは、再び薬箱にしまわれた。


あれから5日、アツシは毎日病院で、ヤケドの手当てをしてもらっている。

依然としてヤカンはストーブにかけてあり、ヨシコのお肌のために

シュンシュンと湯気を出している。

アツシ、頑張れ…ストーブの前で転ぶな。
コメント (31)
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