殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

脱皮

2010年01月15日 09時24分10秒 | みりこんぐらし
夫と出かけた時、車から

すごくプロポーションのいい中年女性を見かけた。

美人は田舎にもいるが、プロポーションのいい人というのは

めったにお目にかからない。


着ているものも、さりげなくおしゃれで

太すぎず、細すぎず、長身のメリハリボディによく映える。

ひと目でこのあたりの住人でないことがわかる。

ま、血とか遺伝子からして別世界のおかたである。


「わ~!ステキな人!私、もうちょっと体をしぼる!」

夫は、また始まった…と言いたげな顔。

「痩せさえすれば、ああなれると思うなよ」

フン。


五十肩になってから、あまり積極的に動かなかったので

体の肉がダラッとしているのがわかる。

もはや私の辞書にクビレという文字は無い。


このままでは取り返しのつかないことになってしまうわっ!

すでに取り返しどころの問題ではないかもしれないが

せめて一矢報いたいではないか。


なんか運動でも始めよう…

とりあえず近所を歩こうと、ジャージ姿もいさましく家を出る。

…100メートルで挫折。

さ…寒いやんけ。

肩が冷える…日焼けする…などと

もっともらしい理由をつぶやきながら、急いで家に帰る。


努力せずにどうにかならないものかと考える、根性無しの私。

「そうそう、あれがあったわい」

ジャ~ン!

以前つきあいで買ったまま、放置していた矯正下着。

ヨロイみたいなコルセットと、きついガードルの上下だ。


一時期、巷でこれを売るのが流行り

知り合いに「着ているだけで痩せる」「プロポーションが変わる」

とそそのかされて、ついフラフラと買ってしまった。


さっそく身に付ける。

…苦しい。

でも高かったんだし、美のために耐えるわっ!


2時間経過…締めつけられて、お歳暮のハムになった気持ち。

そして思い出してしまったのだ。

長年このタイプの下着を愛用していた人の裸を。


矯正下着には、胸の下からお腹まで

1センチ幅くらいの“つっかい棒”みたいなものが数本入っている。

その部分の摩擦で肌が色素沈着を起こし

おなかに黒い縦スジが4本ついていた。


上下が合流するウエストの周辺も黒く変色し

その部分をぐるりと取り巻く無数の小さなイボ!

そして体が下着に依存してしまうのか

肉がつきたての餅のように流れて波打っていた。


一緒に旅行してそれを目撃し

細身の外見からは想像もつかないありさまに驚愕したものである。

これを着てからでないと、洋服も入らなかった。

そうそう、あれがショックで買ったまま着なかったのだ…。


人は無意識のうちに、他人のサイズを胸の幅で

年齢を胸の高さで計測する習性がある。

だからこれさえ着ていれば、胸が横に流れず前方に突き出し

位置が胸一個分上に上がる。

目の錯覚によって現状より細く、そして若く見えるのだ。

しかし、愛用後の体の保証まではしてくれない。


こんなモンに頼っちゃいかん!

締めつけられて、なんだか頭も痛くなってきたし!


急いで脱ごうとするが、脱ぎ方がよくわからない。

背中の部分にズラズラ~ッと何十個も鍵ホックがついており

着る時は、前で鍵ホックを留めて後ろに回した。

同じように今度は後ろから前に回してはずせばいいはず。


しつこいようだが五十肩なので

左手があてにならないため、右手だけではうまくいかない。

前のものを後ろに回すのは、勢いで出来ても

後ろのものを前に持ってくる動作が困難なのだ。


じたばたするうちに

寄せてたたんで目一杯持ち上げた胸肉(すでにチチとは呼べず)が流出し

最初よりきつくなったような気が…。


わ~ん!

「矯正下着で主婦窒息死」

なんて見出しが頭をよぎる。


のたうち回って必死に脱出を試みる。

頑張るのよ、みりこん…

心は引田天功よ…

イリュージョンなのよ…

が、気分はなんだかヘビやセミに近い。

七転八倒の末、からくも脱出成功。


後で説明書を読んだら、脱ぐ時は二つに折って

決まった方向に回せばホックが前に来る…と書いてあった。

さっきの苦しみは何だったのだ…放心状態でおのれの抜け殻をながめる。

脱皮したって、美しく変身するとは限らなかった。
コメント (36)
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