僕のほそ道   ~ のん日記 ~

  
これと言ったテーマはなく、話はバラバラです。 つい昔の思い出話が多くなるのは年のせい? 

 ギリシア神話と耳鳴り

2008年08月04日 | 心と体と健康と

前回、耳鳴りのTRT療法の病院の待合室で、阿刀田高の本を読みながら順番が来るのを待っていた…ということを書いた。読んでいたのは「ギリシア神話を知っていますか」という文庫本。最近また少しギリシア神話に凝っていて、この本も数ヶ月前から何度か読んだけれども、読むほどに滾々と湧き出る面白さがあり、外出時は持ち歩いて適当なところを開けて、つまみ食いのようにして読んでいる。

最近、それを読んでいて、耳鳴りと関係のある興味深いひとつの話を発見した。まあ、耳鳴りの改善にはゼンゼン役に立たない話ですけれども、今日はそのことについて書いてみます。

耳鳴りにはさまざまな態様があり、原因も諸説あって治療法も確立されていないことは、これまで何度も書いてきた。耳は外耳、中耳、内耳の3つの部分から成り、内耳は音を聞く聴覚器と、体のバランスを保つ平衡器という全く異なる2つの機能を持っているとのことである。内耳は、ものすごく精密で複雑なのである。

いろいろな耳鳴りの中でも、この内耳の聴神経で発生した耳鳴りが、最も治療の難しい耳鳴りであると言われている。僕なんかもそういう耳鳴りなのだろうと思っている。病院で、自分の耳の奥から脳にかけての克明なMRI写真を見せてもらい、中耳や内耳の仕組みを詳しく説明してもらったが、なかなか難しくて、半分も理解できなかった。蝸牛、耳石器、前庭…なんて、なんのことかさっぱりわからない。

まあ、とにかく耳の一番奥の「内耳」というヤツが、偉大なる存在にして、かつ大いなるクセ者と言わなければならない。

そこで話は、いきなりギリシア神話に飛ぶのです。
ご用とお急ぎでない方は、このあとも、おつき合い下さいまし~。

以下の話は、阿刀田さんの本の「アリアドネの糸」の章を参考にしております。
「アリアドネの糸」って、みなさん、よくご存知のお話ですよね。
この機会に、いっしょにおさらいをしてみましょう。

その昔、ギリシアのアテネと南方のクレタ島とが戦争をし、クレタ島が勝利した。戦勝国のクレタ島の王が戦利品としてアテネに要求したのが、
「毎年、7人の少年と7人の少女を人身御供としてクレタ島に送れ」だった。

何のための人身御供かと言えば、クレタ島に「迷宮」と呼ばれる宮殿(あるいは城塞のようなもの)があり、そこにミノタウロスという怪物が住んでいた。こいつは少年少女の肉を食うのが大好きで、献上しないと暴れ出す。だから、クレタ島の王は、アテネから毎年、少年少女を送らせて怪物に与えようとしたのである。

「そんなアホな。わたしらの可愛い子どもたちを!」と、アテネ側は困り果てる。
そこへ「ボクが人質に入ってクレタ島に行き、怪物ミノタウロスを退治しよう」
と、カッコよく名乗り出たのが、アテネ王・エイゲウスの子(つまり王子)のテセウスだった。テセウスは、人身御供の中に加わってクレタ島に運ばれた。

クレタ島の王の娘アリアドネが、そのテセウスを見て、一目ぼれをしてしまった。彼の勇猛な活躍ぶりは噂にも聞いていた。おそらく、怪物を倒そうというつもりだろう…と賢い彼女は推測するが、なにしろ怪物の住む「迷宮」は、もともと怪物が外に出られないようにと作られた宮殿で、中はきわめて複雑な迷路になっていた。テセウスが首尾よく怪物を退治したとしても、宮殿から出てくることは不可能である。そこでアリアドネは、テセウスに糸玉を渡した。

「この糸玉の一端を迷宮の扉に結びつけ、あとは糸をたぐって出ていらっしゃいませ。そして…」と、アリアドネは熱い視線をテセウスに向けた。
「そして…?」
「私を連れてこの国を逃げてください。あなたをお助けした以上、私もこの国にとどまることはできません」

テセウスは言われたとおりにして迷宮に入り、怪物とめぐりあい、一撃で倒した。

糸をたぐって無事に迷宮から出られたテセウスは、アリアドネが用意した船でクレタ島を脱出し、2人は結ばれる…。

…とまあ、ここまではいいのだけれど、そのあとたどり着いた島で、アリアドネは酒の神ディオニソスに気に入られ、ごちゃらごちゃらと言い寄られ、抱きしめられたりしている間に、テセウスは、なんとアリアドネを島に置いたまま、さっさと一人でわが国アテネに帰ってしまうのである。なんだ、この薄情モンがぁっ!

…で、この話と耳鳴りと、どう関係するのかというと…。

怪物ミノタウロスが住んでいた(というより閉じ込められていた)迷宮は、現在でも犯罪事件の犯人が見つからないまま歳月が過ぎたときに使う「迷宮入り」という言葉の語源にもなっている。それほど、複雑に入り組み、いったんその中に入ると二度と出て来ることができない宮殿…それがクレタ島の迷宮であった。

その迷宮の名は、ギリシア語で、ラビュリントスというのだそうだ。
英語で言うと labyrinth で、これは、ラビリンス、とでも発音するのだろうか。
さらにこれを医学用語で言えば、人間の耳の内部、つまり内耳の部分を意味するのだという。
ためしに手元の和英辞典で「内耳」を引くと、
inner ear と labyrinth の2通りの単語が出てくる。

内耳 → labyrinth(ラビリンス) → 迷宮

そうです。内耳は「迷宮」という意味を持っていたのです。
怪物ミノタウロスが閉じ込められていたギリシア神話の「迷宮」です。
迷路だらけの「迷宮」なのです。

それほど、耳の奥部は、複雑に曲折して入り組んでいる…というわけである。
ヒトの体の中で最も複雑な部分…と言い換えても過言ではないだろう。

耳鳴りというものが、謎に包まれているのも無理なからぬことである。
しかし、決して「迷宮入り」とあきらめてはならないことは、もちろんだ。

…ということで、ただそれだけの話です。すみません。
耳鳴りとギリシア神話の話はこれでおしまいです。愛想なしですか?

では、終わりに、テセウスに関するその後のエピソードを付け加えます。

アリアドネを捨て、船で故郷に向かったテセウスだったが、当初、人身御供としてアテネを出るとき、父親であるアテネの王エイゲウスに、
「もし無事で帰ってきたなら、船に白い帆をかかげます」と約束をした。
しかし、その約束を、テセウスはすっかり忘れていた。

息子の帰りを待ちわびていた王は、ある日岸壁に立って見ていたら、テセウスの船が見えた。「おぉっ」と思って船を見ると、白い帆が掲げられていなかった。
「やっぱり息子は怪物に食われて死んだのか」と、王は絶望のあまり、海に身を投げて死んでしまった。…あぁ、なんという早とちりなのだ。
テセウスも、恩人のアリアドネを見捨てたバチが当たったのだろうか…?

ちなみに、この海は、エイゲウス王の名をとって、エーゲ海と呼ばれるようになった、ということであります。チャンチャン。

 

 

 


コメント (4)
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