自慢じゃないけど、僕は歯だけは周囲の誰よりも丈夫だった。虫歯はないし、子どもから大人になり、さらに年を重ねていっても、いつも「きれいな歯やねぇ」とほめられた。歯医者さんにも、生まれてから一度も行ったことがなかった。
そんな自慢の歯に異変が起きたのは、60歳の時だった。左の上の奥歯が痛い。なんか、冷たい水を飲んだりしたらその部分がヒリヒリする。そこで、近所の歯医者さんに行ったのが初めての「歯医者体験」だった。
その時は歯科医師から「知覚過敏ですね」と言われ、少し様子を見ましょうと言われた。「知覚過敏? なに、それ?」。「様子を見る」って、これからも左上の歯がヒリヒリするのを我慢しなければならないわけ?
納得が出来なかった僕は、歯医者さんをいろいろ調べ、藤井寺駅前にあるフクダ歯科というところへ出掛けました。
そこで事情を話すと、先生はレントゲンを撮ってくれ、
「歯にヒビが入っています。抜歯しなければなりません」と言い、
「でも一番奥の歯ですから、抜いても入れ歯の必要はないです」
と説明をしてくれた。
「知覚過敏です」と言って何の処置もしてくれなかった最初の歯科医とはえらい違いでしたわ。ほんと。
それで、生まれて初めて左上の一番奥の歯を抜かれたわけですが、奥歯だから入れ歯をする必要もなく、それから12年間、またず~っと歯の調子は良かった。もちろん今も入れ歯はゼロだし、固い食べ物もゴリゴリと噛めます。
(金メダルは噛みませんけどね)。
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ところが…
一ヵ月ほど前から、今度は右上の一番奥の歯が水を含むとヒリヒリした。歯を磨いてブクブクすると、右上の奥歯が飛び上がるほど痛い。ソーメンを食べて右上の奥歯の部分にかかった時は死ぬほど痛かった。
そのうち治るかも、と思いながら放っておいたけれど、水を飲んでもその部分にかかると「痛!」となる。先日、いよいよ限界だなと思い、いま、モミィが定期的に歯のケアに通っているのが、たまたまあの60歳の時に抜歯をしてもらったフクダ歯科だったので、そこへ妻に電話をしてもらい、予約を取って診てもらうことにした。
そして一昨日、午後3時からの予約で、駅前のそのフクダ歯科へ行った。
実に12年ぶりである。
予約時間に行くと、まず先生の助手である女性が出てきて、僕が診察券を渡したら、なにせ12年も前のことなので彼女は「カルテにはないんですけど、いつごろお越しになりました?」と尋ねたので、「12年前です」と答えた。
「はぁ、そうですか」とその女性。
でも、僕は彼女を覚えていた。
あの12年前に左上の奥歯を抜歯してもらった時にも助手をしておられた。
彼女は気さくな人で、あの時、間もなく市役所を退職するという僕に「退職された後のことは、なにか考えておられます?」と、にこやかに聴いてくれたことを覚えている。いや~懐かしい。むろん彼女は忘れてるでしょうけど。
それを伝えると、「え~、そうだったんですか。いやぁ、あの時からは太っちゃいましたけど」と笑った彼女は、確かに体型はすこしふっくらしたようだけど、雰囲気はまったく変わっておらず、あの日同様、この日もとても気分を和らげてくれました。
さて、そんなことでフクダ先生に、12年前に奥歯にヒビが入っていて抜歯をしてもらったことを告げると、今回の僕の症状を聞いて「あのときと一緒かもしれませんね」と言い、「レントゲンを撮りますから」と狭い部屋に案内された。
その結果、
「いやぁ、よかったですね。前回同様ヒビが入ったかなと思いましたけど、違いましたよ。虫歯でしたよ」
という言葉を聞いて、僕はビックリしました、
えっ、僕が虫歯?
生まれて一度も虫歯になったことなく、
完全にひとごとだと思っていた虫歯に。
「ええ、だから抜歯はしなくてもいいです」
と、フクダ先生。
ふむ、虫歯でよかったんだ、と僕。
先生は僕の虫歯のレントゲン写真を見せてくれ、
「ここが痛みを感じる神経です。治療ではここを取り除きます。痛みますので、痛かったら言ってくださいね」
そんな説明を受けながら、ア~ンと口をあけて、細いものでカチカチと神経のところを押さえられたり、ガリガリガリ~っとものすごい音で歯に触れられたり、歯に空いた穴に何かを詰められたりと、まぁ、そんな感じの治療が30分以上続きました。痛かったことも何度もありました。そしてその都度、ブクブクと口を漱ぐのですが、だんだん、口をブクブクしても、先ほどまでのようなツーンとした痛みを感じなくなってきたのには、ちょっと驚きながらも、嬉しかったです。
で、治療を終えると、先生は、
「このあと、3時間程度は飲み物はいいですが、食べ物は口にしないようにしてください。物をかむと、頬っぺたを嚙んでしまいますから」
とのことだった。なぜか、すぐに物を食べると頬を噛むのだそうだ。
3時から医院に入り、そこを出たのはもう4時半だった。
家に帰ると、さっそくお酒を飲みたいのに、
「飲み物はいいですが食べ物を噛むと頬っぺたを噛むので、食べるのは数時間控えてください」
と言われたので…
そこで、帰り道、イオンの食料品店に寄り、明太子マヨネーズというのを見つけて、それを買い、家に帰って妻に今日の話をしながら、お皿にムニュっと絞り出した明太子マヨネーズをスプーンで口に運びながら、缶チューハイを飲んだ次第です。これなら頬っぺたを噛まなくて済みますからね~(笑)。
ということで、
この歳になって、初めての虫歯治療の体験でした。
治療から2日経ちました。
今ではヒリヒリ感もなく、完全に元に戻りました。
また、24日に、もう一度行くことになっています。