東京国際ミネラルフェア二日目。
朝カル土曜日講座の前に、再び訪ねた。
前日に辰砂を分けてもらった鉱物標本開発の浅田さんのブースで、しばらくおしゃべりタイムを過ごしていた。
そこへ恰幅のいい中年の女性が現れた。
「ようやく見つけたわ!」
手にもっているのは、細い繊維のようなもの。
「それって石なんですか」
「そうよ、アスベストよ」
浅田さんが鉱石を探し出す。
「それならもっているの。ほぐしてあるのが欲しかったの。話をするときに見せるためにね」
手にとって見せてもらうと、極細繊維であることがわかる。
「繊維一本は、0.02μm 髪の毛の5000分の1ですからね」
浅田さんの説明を聞いて、石綿・アスベストの現物と、飛散した繊維を大量に吸入すると肺がんになるという話が一致した。
その女性は、アスべスト解体作業で管理監督する国家資格をもっている、建設関係の仕事をしていると話の端々から伝わってきた。
繊維状に変形した鉱石
「耐熱性に優れていて、燃えない素材なのよ。だから建築材料として使われたの。安価だったしね」
「他にも、電気製品や自動車、家庭用品に広く使われているんです」
浅田さんが補足してくれ。
私も、角閃石のアスベスト鉱石と繊維状になっているケースに密封されているアスベスト繊維を分けてもらった。
3時半からの朝カル講座に持参した「辰砂+ノジュールの中に水晶+アメシスト」に加えて、聞いたばかりのアスベストの話を受け売りしようと思いたった。
話の内容をイメージしながら、住友ビルのエレベーターで、教室のある11階に向かう。
レッスンがはじまって、次々と石を提示する。
「へー、これがアスベストの元の鉱石ですか」
思った通り、アスベストへの関心は高かった。
さて、今朝のいなって、ようやくWikiを調べる時間が取れた。
《アスベストの語源は、ギリシャ語で「しない(ない)」という意味の「a」と「消火しない」という意味の「sbestos」とからなる言葉》
フェアで聞いた話の裏付けが続く。
長期に大量に吸入すると肺がんや中皮腫の誘因になるとことが指摘されて
「静かなる時限爆弾」
そう呼ばれるようになった、と知る。
それ以後、代替え品としてグラスウール(ファイバーグラス)、セラミックファイバーがもちいられるようになったという。
さらに読み進むと、歴史におけるアスベストと人の関わりの記述には興味をそそられた。
例えば
古代エジプト:ミイラを包む布。
古代ローマ:ランプの芯。
中国:周の時代、火に投じると汚れだけが燃えて綺麗になることから「火浣布(火で洗える布)」として貢物であった。
日本:『竹取物語』火に焚べても燃えない「火鼠の皮衣」。1764年平賀源内が秩父山中で石綿を発見し、中国にならい「火浣布」として江戸幕府に献上した布が京都大学図書館に保存されていると書かれていた。
人の行為に、想いを馳せてみる。
縄を「綯う」行為、紐や糸を「撚る」行為、繊維から布を「織る」行為、水に浮かした繊維を「掬う」行為、すべて人の暮らしの必需品を作り出す行為だ。
その素材には、植物の繊維、昆虫(蚕)吐く糸、蛇紋岩や角閃石といった鉱石の繊維を利用してきた文明(技術)だ。
その中で、アスベストは廃棄物処理法で「特別管理産業廃棄物」に指定するというところまで行き着いたわけだ。
このように、アスベストは人体に悪影響を起こす鉱石だが、辰砂の水銀もまた有害な物質である。
身近なところでは、化石(石油・石炭)を燃料として利用する行為そのものが問われる時代となった。
中でも危険極まりないものは「ウラン鉱」の利用だ。
原子力発電や兵器利用は、一歩間違うと破滅への道を進む。
もっとおそろいしいことは、その危険を知っていても止められないことだ。
今朝も、アスベスト鉱石と繊維状のアスベストを手元に置きながら、文明の行方を想像していていた。
時間は巻き戻すことができない。
これからどうする、それが一人ひとりに問われている。
アスベストを繊維状にほぐしたもの
蓋が開けられなくて・・・・