九州西国霊場めぐりの目的地である竹崎まで往復して肥前鹿島に戻る。時刻は11時すぎ、鹿島バスターミナルからの祐徳稲荷神社行きのバスに乗車する。
15分ほど乗車して祐徳稲荷神社前のバス停に到着する。日本三大稲荷の一つとされる祐徳稲荷。この「日本三大稲荷」について、第一が伏見稲荷大社というのは異存のないところだが、第二、第三となるといくつかの稲荷神社が名乗りを挙げている。その中で第二または第三として比較的多くの支持を集めているのが祐徳稲荷神社のようだ。他にイスを争うのは茨城の笠間稲荷、愛知の豊川稲荷、岡山の最上稲荷といったところだろうか。
祐徳稲荷には前回の広島在住時に一度訪ねたように思う。ただその時は鉄道+バスではなくクルマで回ったのではないだろうか。今のようなブログという手段がない当時のことで、記憶も曖昧なところがある。
門前町を抜けて楼門に出る。山に張り付くような舞台造りの本殿も実際に目にしたはずである。
祐徳稲荷神社は江戸時代前期、佐賀藩の支藩である鹿島藩主の鍋島直朝が朝廷の勅願所である伏見稲荷大社から分霊を勧請したのが始まりとされる。この勧請には、直朝の妻である花山院萬子媛のつながりによるところがあり、萬子媛みずから石壁山に社殿を建てて奉仕していたが、娘が相次いで亡くなったことから自ら石壁山の洞窟に入り、断食して入定したという。祐徳神社とは、萬子媛の諡号の祐徳院からつけられたそうで、明治の神仏分離で現在の形になった。
コンクリートの階段を上り、本殿に向かう。現在の本殿は1957年に再建された3代目の建物。清水寺のような舞台は下から見上げてもよし、上から見下ろしてもよし。
そういえば、祐徳稲荷はタイからの観光客で賑わうスポットというのを以前にテレビで見たことがある。佐賀県がフィルムコミッションとしてタイの映画やドラマのロケを誘致したもので、タイの人気俳優が出演してヒットになったことで、いわゆる聖地巡礼のスポットとして訪ねる人が急増した。もっとも、現在はコロナ禍ということもあって彼の国から来たとおぼしき人を目にすることはなかったが・・。
本殿に参詣したのだからそのまま階段を下りるところだが、実はこの先に奥の院があり、そこまで行くのがおすすめとある。前回は本殿で折り返したのだろう、奥の院があるというのは今回初めて知った。本殿まで来た人のほとんどがそのまま奥の院方向に歩いていたので、私もせっかくなので訪ねることにした。
萬子媛を祀る石壁社を過ぎ、鳥居が数多く並ぶ参道を上る。伏見稲荷と比べると朱色が抑えられた色使いだが、素朴な感じも好ましい。
奥の院まで200メートルの地点まで来た、これまでのコンクリート造りの階段から一転して、昔ながらの石段、さらには自然の歩道が続く。勾配もいきなり急になったように見える。
ここからは鳥居、祠が乱雑に並ぶ。石段を上がる人も息が上がるようである。私も汗がじわっと出てきた。
標識が150メートル、100メートル、50メートルと少しずつ頂上に近づいてきた。
本殿から10分あまり歩いたか、視界が広がったところが奥の院。ベンチの他に自動販売機も置かれている。祐徳稲荷の門前町を見下ろし、その先には佐賀市方面、有明海を望む。タイからのインバウンドの人たちも奥の院まで上ってきたのだろうか。
奥の院の各社に手を合わせる。ここまで来て真の意味で祐徳稲荷にお参りしたことになるのかな。汗をかいた分、ご利益も多少はあればいいなと思う。
帰りは別ルートだが、それでも急な勾配の石段を下りる。手すりにつかまりつつ、足を下ろす場を慎重に選びながらこちらもヒヤヒヤしながら下る。そしてようやく200メートル地点にて元の参道に合流した。ここまで戻れば後は楽な階段である。
時刻は12時を回っていて昼食時。門前町には土産物店兼食堂も並ぶが、今一つ「これ」というのに出会わない。祐徳稲荷の名物土産というのもあるにはあるが、甘味に手を出さない私としては厳しいところだ。その中で「鯉料理」という文字も見える。前回訪ねた小城の清水観音で鯉料理をいただいたこともあり、佐賀の精進落としかなと思うが、よく見ると「2人前から」と書かれていた。昼食はお預け、あるいは(私の旅でよくあることだが)昼食抜きということで、バスで鹿島に戻ることにする。乗ったのは鹿島バスセンター経由嬉野温泉行き。
一瞬、嬉野温泉まで足を延ばそうかとも思ったが、荷物を預けている鹿島バスセンターで下車。時刻表を見て、10分あまり後に発車する12時52分発の臨時「かもめ70号」を見つける。運転日は3月20日、4月29日、5月3~5日と限られているが、数少ない機会に巡り合ったものである。この先、県庁所在地である佐賀に向かうことにして、乗車券と自由席特急券を買い求める。バスが到着してすぐだったのでちょっと焦る。肥前鹿島も一応は有人駅なのだが、この時間は窓口が閉まっている。
特急らしい高速で途中の駅を通過する。この便は佐世保線との分岐駅である肥前山口も通過するが、それを知らずに乗ったらしい客が車掌に申し出ている。肥前山口で乗り換えて佐世保線のどこかの駅に行くつもりだったのだろう。そうした客も珍しくないのか、車掌は佐賀で折り返し乗車するよう、列車時刻も含めて案内していた。
13時10分、佐賀に到着。今回の九州西国霊場めぐりの最後に、いったん素通りしたが県庁所在地である佐賀を訪ねることにした。佐賀のホームから改札口を出るのも初めてである。
帰りの新鳥栖からの新幹線乗り継ぎまで3時間ほど時間がある。せっかくなので「昼飲み」も含めて楽しむことにしようか。ちょうど、駅北口の高架下に手ごろなチェーン店をみつける。幟には「呼子イカ」の文字も・・・。