角界を揺るがしている一連の大麻騒動、北の湖理事長辞任→武蔵川理事長就任という動きの中で、改めて「なるほどな」と思い出されることがあった。
三遊亭歌武蔵(うたむさし)という落語家がいる。ごつい体格の落語家で、黒い紋付で高座にあがると、最初のあいさつが「ただいまの協議についてご説明申し上げます・・・」というのがお決まり。そして「三遊亭歌武蔵、本名は『松井秀喜』と申します」と続ける。確かに、ヤンキースの松井選手をでっぷりと肥えさせたらそういう感じになるという風貌である。そして「ただいまの協議について・・・」という、大相撲の審判のセリフも、実は自身が元大相撲の力士出身というところから、定番の「くすぐり」として受け入れられるのである。
この歌武蔵のネタに「支度部屋外伝」というのがあり、元力士ならではのウラ話的な話題や、相撲界の話題全般についてを漫談風に語るものである。私も高座を聴いて、笑いながらもなるほどなと思ったもの。
その中で、「相撲の世界と落語の世界」という、同じような日本の伝統的なタテ社会でありながら決定的な違いについて語るくだりがある。それをまとめると・・・
落語の場合・・・落語家になりたいといって、どこかの師匠に弟子入りを志願したとしても、簡単にOKしてくれるものではない。師匠の高座を欠かさず聴く、楽屋入り、楽屋から出るのを待ってその都度頼み込む。それを何度も繰り返してようやく入門が認められても、師匠(歌武蔵の場合は、三遊亭円歌)から「オレはおまえに、一度も『弟子になってくれ』とは言っていないからな」と言われる。→だから落語の弟子は師匠にはアタマがあがらない。
相撲の場合・・・いい体格をしている少年がいるとなるとすぐに相撲部屋の関係者や親方が飛んできて、「いいカラダだねえ・・・ぜひウチに来てよ。しっかり食べてもらって、あとは稽古をちょろっとやっていれば、関取間違いなし、いや大関も夢じゃないよ」などと甘い言葉を並べて、何とか有望な少年を自分の部屋に連れてこようとする。関取は部屋の米びつなので、とにかく出世させなければ部屋も儲からない。→高砂親方が朝青龍に強いことを言えないのも、相撲の入門の仕組みがこうだからじゃないか。
なるほど、入門する、修業するということについて、どちらの側がアタマを下げているのか、どちらが熱望しているのかということで、その後の力関係にもつながるという説か。今回の一連の騒動を見るに、そういうのも一因にあるのだなと思う。相撲部屋としては早く関取を誕生させたい(今回騒動を起こした間垣部屋、北の湖部屋、大嶽部屋も、相撲部屋としてはどちらかといえば小部屋のほうである)ということで、外国でレスリングの経験のある若者たちをスカウトして、確かに期待通り幕内に上がった。しかし、修業を積む前に番付が上のほうに行ってしまったこともあり、やはり親方としてアタマが上がらなかったところもあるのだろう。
新たに理事長に就任した武蔵川親方は、横綱・武蔵丸を弟子入りさせるまでに、半年ほど「観察期間」を設けてようやく入門を許可したという。外国人力士の扱いを含めてどのような協会運営をするのか、これから見守りたいと思う。
(ちなみに、三遊亭歌武蔵もその名のとおり、武蔵川部屋に籍を置いていたそうです)