クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

歌劇<ルスランとリュドミラ>(1)

2006年10月02日 | 作品を語る
前回まで語った歌劇<イワン・スサーニン>に続いて、グリンカが書いたもう一つのオペラを採りあげてみることにしたい。5幕からなるマジック・オペラ<ルスランとリュドミラ>(1842年)である。これは上演時間が3時間20分にも及ぶ大長編オペラだが、それにめげることなく、いつものようにしっかりと全曲の流れを追っていこうと思う。

〔 第1幕 〕

キエフ大公の娘リュドミラ(S)と、勇敢な騎士ルスラン(B)の婚礼が決まって、今祝宴の準備が進められているところ。この祝宴には、リュドミラへの恋のアタック・レースに敗れた2人の男も混じっている。ハザール公ラトミール(A)と、ヴァルカーギ族の騎士ファルラーフ(B)だ。やがて、お祝いの言葉を求める人々に応えて、吟遊詩人バヤーン(T)がルスランとリュドミラの未来を予言する。「若い2人には不運と試練が待っているが、忠節と愛をもって乗り越えれば、幸福の道が開けるだろう」。続いて、新婚の2人を励ます力強い合唱。

(※思い切り有名な序曲に続いて、第1幕は婚礼祝いの場面。しかし、このオペラ、吟遊詩人がいきなり愛し合う2人の試練を予言するところからドラマが始まる。ここでは、その予言の歌に付けられた伴奏が、ちょっとユニークだ。グースリと呼ばれる撥弦楽器の音を模したものとして、とりあえずハープが使われているのは分かりやすいところだが、さらにピアノのソロも出て来るのである。確かに聴いてみると、弦を爪弾く音の表現としてはピアノもよく似合うようだ。なるほど、という感じ。)

リュドミラは、敗れたラトミールとファルラーフの2人を慰める。続いて、五重唱。ルスランとリュドミラ、そしてリュドミラの父スヴェトザール(B)が喜びを歌い、ラトミールは故郷ハザールに帰る決心を歌う。しかし、ファルラーフだけは、何かまだ胸に一物抱えた様子。思いそれぞれの五重唱である。

(※リュドミラによる技巧的なカヴァティーナと、それに続く5人のアンサンブルも、非常にグリンカらしいものだ。前回まで語ってきた<イワン・スサーニン>と同様、いかにも、「イタリアで学んできました」といった感じのベルカント・スタイルで書かれている。)

スヴェトザールが娘のリュドミラと新郎ルスランに祝福の言葉を送った瞬間、雷鳴が轟いてあたりが真っ暗になる。やがて明るさが戻ると、リュドミラの姿が消えていた。彼女は、邪悪な魔法の力によって誘拐されてしまったのである。スヴェトザールは、「娘を無事に連れ帰ってくれた者に、彼女と我が王国の半分を与える」と、騎士たちに約束する。ルスラン、ラトミール、ファルラーフの3人はすぐさま出発する。

(※この部分で興味を惹くのは、女性のアルト歌手が演じるラトミールという男だ。リュドミラをさらわれたスヴェトザールが、「娘を探しに行ってくれる者は、誰かおらぬか」と呼びかけたのに対し、真っ先に応じて歌いだすのが、このラトミールである。ルスランではないのだ。アルトの声で彼が、「おお、勇士達よ。野に向かおう」と歌いだすのを、合唱団が力強く引き継ぐ。実はここでの音楽がまた、非常にイタリアっぽい。私個人的には、ヴェルディの初期作品が連想されるところだ。例えば、<ナブッコ>や<アッティラ>。)

〔 第2幕 〕

リュドミラを探す旅の途中で、ルスランは魔法使いのフィン(T)と出会う。この善良な老人はルスランに、「リュドミラをさらったのは、悪い魔法使いのチェルノモール(黙役)だ」と教える。しかしルスランには、その悪者を倒す方法が分からない。やがてフィンは、若い頃の苦い体験を語り始める。そして、自分とかつて関わったナイーナという魔女に気をつけるようにと、ルスランに忠告する。

(※今手元にあるゲルギエフ盤の解説書によると、ここで魔法使いフィンが歌うバラードの音楽的題材には、異国情緒を出すためにフィンランドの民謡を採譜したものが使われているらしい。だから名前がフィンになっているというのも随分安直な感じがしなくもないが、まあいいことにしよう。w )

(※ところで、この長大なバラードで歌われる魔法使い若き日の思い出話というのは、何ともトホホな中身を持ったものである。「ワシは昔、ナイーナという美しい女に惚れたのじゃが、いともあっさりふられてしまった。それからワシは、剣を振るう者となって各地で財宝を手に入れた。そして、それをどっさり持ってナイーナのところへ再び出向いたが、またしてもふられた。そこでワシは、魔法の力を借りてナイーナの心を奪ってやろうと試みることにした。しかし、それが実行出来た頃にはもう、彼女はいい婆さんになっておった。ところが、そのナイーナ婆さんに魔法が効いてしまったのじゃ。ババアに惚れられてしまったワシは、逃げて、逃げて、逃げまくった。そしてナイーナはとうとう、性悪な魔女になってしまったというわけよ。お前も気をつけるのじゃぞ」って、何だよ、それ・・。)

一方ファルラーフは、リュドミラを見つけるのはもう無理だと諦めていた。そこへ、魔女ナイーナ(Ms)が現れる。「あなたに力を貸してあげるわ。ルスランを打ち負かして、リュドミラを手に入れなさい」。尊大な性格を持つ卑劣漢ファルラーフは、これで自分が勝利者になれると喜ぶ。

(※魔女の手助けを得て元気になったファルラーフは、「ルスランの奴め、せいぜい国中をさ迷っているがいい。俺はナイーナの力で、リュドミラを手に入れる。さあ、勝利は近いぞ」と喜び勇んで歌い始める。これは、『ファルラーフのロンド』と呼ばれる有名な曲だ。で、この歌もやはり、イタリアの流儀で書かれている。オペラ・ブッファの伝統を踏襲した、どこかユーモラスな表情を持つ早口の歌である。これを聴いていると、ロシア語の歌詞がだんだんイタリア語に聞こえてくるという不思議な体験が出来る。まさに音楽のマジック。)

―この続きは、次回・・。
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