人といろいろ話していても、最近の話題は経済のことが多くなっているように感じる。年末になって年を越さなければならない時期に、不景気を肌で感じるようになっているということなのだろうか。それなりに経済論理を武装している人も増えていて、まあ、それは確かにそうだね、という解説を聞くことも多くなった。正直に言って間違いだと思えることもあるし、いわゆる一般論を概観したものを述べている人もいる。専門家でなければ語ってはいけない話なのではないし、僕自身も嫌いではないのだろう、フムフム聞いたり口をはさんだりしながら時間をついついつぶしてしまう。思えばいろんな事があったのは確かで、いつの間にかそういう方面の本もたくさん揃えて買ってしまっているようでもある。年末年始は経済の本でもゆっくり読んで、頭の整理をしておこうなどと思っている自分がいるようである。
さて、その中で特に怒りや不安でもって語られるのは、人員削減や内定取り消しの話であるようだ。内容的にはいろいろあるが、おおむね大企業がけしからんというものが多い。企業の社会的責任論や品格のことを言う人もいる。今までの好景気でため込んでいる内部留保はどうなのだということもあるし、雇用の不安定が将来の先行き感をさらに暗くすることは確実ではあるだろう。社会不安は治安の悪化を招き、日本は住みにくい社会へ変貌する恐れもないではない。都会に住んでいるだけで、相当のリスクがあると考える方が自然である。それでも日本は諸外国より数段治安がいいのだから(暴動が起きるとも考えにくいし。まあ、諸外国ならそのレベルまでひどくなる可能性は高い)凄いものだなあと思う人は少なく、不安が増大して先行き不安バブルになるに違いない。
今回の、というか今後の日本がどうなるなどというのは簡単に言ってそういうことなのだが、僕も何となく認識を変えなければならないと思いだしているのは、これは諸外国よりまだ日本の痛手が少ないのではないかという楽観論である。もちろん金融方面での痛手は軽微で、そういう方面から見た健全性を考えると日本は大変にラッキーだったといってよい。しかし、日本でもバブルがはじけたことも確かで、そのはじけたものが円安バブルであったということも、今後どんどん明らかにされていくことのようだ。派遣労働者の首切りや内定取り消しというのは、基本的にそういうことの裏付けであって、これは基本的な日本国内の産業構造の転換期であることを示している。もう日本国内の製造業は復活しない可能性さえある。そんなときに日本国内の労働者を抱えることは、国際企業としての死活問題になりかねない。海外で売れなくなったということはもちろん嘘ではないにしろ、生産現場を現地なり海外へ移転する準備を急速に進めるところ以外は生き残れなくなったというべきなのではないか。あの大企業の代表であるトヨタでさえ、というような論調はかなり聞かされることではあるが、ひょっとするとトヨタは、GMやクライスラーの買収を模索しているのではないか。そうであるならば比較的好調といわれる東海地方の崩落もありうるし、地方経済ということでも、工場移転で活気づいていたところほど、この先は深刻ということになるだろう。
まあ基本的に日本の大不況は確実で、さらに根が深く深刻であることは避けがたい。米国が深刻であることも間違いないけれど、時間的な復活シナリオを描くことから考えて、米国より長期にわたる暗黒時代が続く可能性が高いと思われる。世の中の大変屋さんのマスコミ関係者とは考えを異にする人間ではあるにせよ、このことに関しては、真摯に受け止めて行動しなければならないと自戒したい。それでも単に会社が悪いと企業叩きに精を出すことは、さらに痛手を広げる自殺幇助であることだけは指摘しておくのみである。
しかしながら今までは、古い産業構造が事実上崩壊しながらゾンビとして生きながらえていたことも事実である。たぶん今後はいくらもがいてもそういうゾンビはもたない。やっと新たな産業構造へ事実上シフトしていくことは確実だといえるわけで、これの一点においてのみ、慶賀すべき将来性と考えられないこともない。そうした将来性がどこで生まれるのかということも注目されるわけで、たぶんこれは首を切られたり内定を取り消されたりした方の人たちの間から生み出される可能性だってあるように思う。相手にされないことで自立の道を見出さざるを得ない状況であるからこそ、次の産業構造の担い手となるようなものを生み出す原動力につながっていくのではないか。そういう訳で、既に構造上立ち行かない業界の崩壊こそ、いいスタートが切れるということだけは言えるのだろうと思うのである。
蛇足的に付け加えると、不景気は公務員といわれているけど、その方面だって借金によって賄われていることを真剣に考えた方いいと思う。今も財政支出で何とかなるなんてレベルの政治が暴走を続けているが、借金だってバブルと同じようなものである。はっきりと日本の財政水準はバブルの域に達している。これは預言でも何でもない。今もっとも将来性がないのは、日本国を支えていると考えられていたそのような構造なのである。先に政治がもたなくなるが、そのまま共に崩壊するのはどこなのかということである。
まあ、他人事ではないという自覚を持った人が、次の一歩も踏み出しやすいことも確かだ。皆さん気を確かに持って、あえて前進あるのみですよ、ほんと。