ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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トッドの移民論と日本27

2010-10-31 07:44:58 | 国際関係
●マグレブ人は間扱いされる

 フランスの移民の中で最大の集団をなすのは、マクレブ人である。マグレブ人とは、北アフリカ出身のアラブ系諸民族である。アルジェリア人、チュニジア人、モロッコ人の総称である。
 1990年前後、フランスには約250万人のマグレブ人がいた。フランスの人口は約6000万人ゆえ、その24分の1に当たる。当時、人口約8000万人の統一ドイツのトルコ人が160万人ゆえ、フランスのマグレブ人の多さが分かる。ちなみに現在のわが国の人口を1億2700万人とすると、その24分の1は530万人。現在、日本の外国人登録者数は約200万人ゆえ、その2.65倍に当たる。しかもその530万人が、みなひとつの文化集団だとすると、相当の存在感だろう。
 マグレブ人の人類学的システムは、共同体家族であり、女性の地位の低さと族内婚を特徴とする。内婚制父系共同体家族は、フランスの人類学システムとは、大きく異なる。あまりに違うので、フランス人は、マグレブ人を集団としては受け入れられない。彼らは「人間ではない」として、間扱いをする。
 フランスには、平等主義核家族と直系家族という二つの家族型がある。これら二つの家族型には、共通点がある。ひとつは、女性の地位が高いことである。フランスの伝統的な家族制度は、父方の親族と母方の親族の同等性の原則に立っており、双系的である。双系制では、父系制より女性の地位が高い。トッドは直系家族父系制をここでは「否定的双系制」と呼んでいる。もう一つの共通点は、外婚制である。外婚制は、工業化以前の農村ヨーロッパのすべての家族システムの特徴でもあった。トッドはこれらの点をとらえ、双系制と外婚制が「フランス普遍主義の人類学的境界を画する最低限の共通基盤」とする。
 フランス人は普遍主義的だが、移民を受け入れるのは、双系ないし女性の地位がある程度高いことと、外婚制という二つの条件を満たす場合である。この最低限の条件を満たさない集団に対しては、「人間ではない」という見方をする。マグレブ人は、この条件を満たさない。女性の地位が低く、族内婚である。フランス人が要求する最低限の条件の正反対である。そのため、フランス人は彼らを受け入れない。

●二つの普遍主義の出会いが悲劇を生んだ

 フランス人は、自らにとっての普遍的人間の基準を大幅にはみ出す者を、「間」とみなす。ところが、マグレブ人の方も別の種類の普遍主義者である。マグレブ人は共同体家族ゆえ、権威と平等を価値とする。フランスは、主に平等主義核家族ゆえ、自由と平等を価値とする。ともに平等を価値とするから、普遍主義である。フランス人が普遍的人間を信じるように、マグレブ人も普遍的人間の存在を信じる。ただし、正反対のタイプの人間像なのだ。フランス人もマグレブ人も、それぞれの普遍主義によって、諸国民を平等とみなす。しかし、自分たちの人間の観念を超えた者に出会うと、「これは人間ではない」と判断する。双方が自分たちの普遍的人間の基準を大幅にはみ出す者を「間」とするわけである。ここに二種類の普遍主義の「暗い面」が発動されることになる。
 第2次世界大戦後、フランスの植民地アルジェリアで独立戦争が起こった。アルジェリア人は、マグレブ人である。アルジェリア独立戦争は、1954年から62年まで8年続いた。アルジェリア人の死者は100万人に達した。その悲劇は、正反対の普遍主義がぶつかり合い、互いに相手を間扱いし合ったために起こった、とトッドは指摘する。今日でもフランスでは、マグレブ移民への集団的な敵意が存在する。外国人移民の排斥を主張する国民戦線のような政党が力をふるっているのは、その顕著な例である。このようにフランスの普遍主義は、「小さな差異」の範囲外に対しては、差別的である。
 わが国には、フランス革命は人間の平等をうたった理想的な市民革命だと思っている人が多い。そして、フランスは人間平等の国と思っている人がいるが、話はそう単純ではないのである。

 次回に続く。

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