ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

米朝首脳会談は成果少なく、新たな懸念湧く1

2018-06-13 19:15:57 | 国際関係
 昨年から北朝鮮が核・ミサイル開発を加速し、米国・日本等は厳しい経済制裁を行っている。米国はそれとともに強い軍事的な圧力をかけてきた。その効果によって北朝鮮が態度を変えた。
 6月12日米朝首脳会談が実現し、軍事的衝突は避けられた。ドナルド・トランプ大統領と金正恩党委員長は、共同声明を出した。合意事項は、次の四項目。

(1)米国と北朝鮮は、平和と繁栄を求める両国民の希望通りに、新たな米朝関係の構築に向けて取り組む。
(2)米国と北朝鮮は、朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築に向け、力を合わせる。
(3)北朝鮮は、2018年4月27日の「板門店(パンムンジョム)宣言」を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む。
(4)米国と北朝鮮は、すでに身元が判明している者の即時送還を含め、残る戦争捕虜/行方不明者の回復に取り組む。

 非核化に向けて「完全で検証可能で不可逆的な」の文言がなく、いつまでにという日程・期限も書かれていない。歴史的な意義は大きいが、双方が状況次第でどうとでもとれる玉虫色の声明である。
 懸念すべきは、トランプ大統領が記者会見で米韓軍事演習の中止を明言し、駐韓米軍の撤退もありうることを口にしたことである。共同声明の内容と合わせると、今回の会談が長期的に見て、本当にわが国や東アジアにとってプラスなのか疑問である。わが国にとっては日本人拉致の問題と中距離ミサイルの配備という重大問題がある。今後、万が一、駐韓米軍が撤退したり、朝鮮半島が北主導で統一される方向に動き出したら、わが国は大きな脅威に直面することになる。こうした中で、わが国が生き延びていくためには、国のあり方を根本から立て直していかねばならない。今年は明治維新から150年の節目の年である。我々は明治の先人に学んでこの課題に取り組まねばならない。そして、今こそ成し遂げるべき最大の課題が、憲法改正である。改憲論については、別途連載しているところであるので、本稿は、米朝首脳会談の結果に関するマスメディアの論説と有識者の意見のうち、目に留まったものを掲載する。

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●読売新聞の社説

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180612-OYT1T50151.html?from=ytop_ylist
米朝首脳会談 北の核放棄実現へ交渉続けよ
2018年06月13日 06時00分

◆「和平」ムード先行を警戒したい◆
 米国と北朝鮮が首脳同士の信頼関係を築く歴史的会談となった。緊張緩和は進んだものの、北朝鮮の非核化で前進はなかった。評価と批判が相半ばする結果だと言えよう。
 核保有に至った国に核を放棄させるのは極めて困難な目標である。その達成に向けて米国は粘り強い交渉を続けねばならない。

◆合意は具体性に欠ける
 トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談がシンガポールで行われた。両首脳は共同声明に署名し、新たな関係をアピールした。
 最大の焦点の核問題について、声明は、「朝鮮半島の完全な非核化」に取り組むという金委員長の意思の確認にとどまった。
 非核化の時期や具体策は示されていない。米国が求める「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」への道筋は描かれなかった。
 首脳会談でも抽象的な合意しか生み出せなかったのは残念だ。
 北朝鮮がこれまでにとった措置は核実験の中止と核実験場の爆破だけだ。金委員長が核を手放す決断を下したかどうかは、不透明だと言わざるを得ない。
 「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」の実現には、北朝鮮が核兵器や核物質、関連施設を申告した上で、廃棄や国外搬出を進めることが不可欠だ。国際原子力機関(IAEA)などによる検証・査察体制も整える必要がある。
 こうした作業をどのような手順で、いつまでに完了させるのか。一連の措置の要領と期限を明記した工程表の作成が欠かせない。
 北朝鮮の弾道ミサイル問題が声明に盛り込まれていないのも不十分だ。金委員長は、ミサイルのエンジン試験施設の閉鎖に言及したが、全ての弾道ミサイルの廃棄を迫らねばならない。
 トランプ氏は記者会見で「プロセスの始まり」を強調した。合意を肉付けする作業は、ポンペオ国務長官と北朝鮮高官による今後の交渉に委ねられた。トップ交渉で一気に事態を打開するのには時間が足りなかったのだろう。
 突破力に頼るトランプ外交には不安が残る。北朝鮮との交渉経験を持つ専門家を政権に集め、日本や韓国、中国とも連携して明確な戦略を打ち立てるべきだ。

◆圧力の維持が必要だ
 過去の米朝交渉で、米政権は大統領任期の制約に縛られ、北朝鮮の見返り目当ての揺さぶり戦術に翻弄ほんろうされた経緯がある。政権交代にかかわらず、持続可能な合意を追求してもらいたい。
 声明には、トランプ氏が北朝鮮に体制の「安全の保証」を与え、米朝両国が「朝鮮半島の永続的な平和体制の構築」に取り組むことなどが明記された。
 金委員長が、体制の正統性をアピールし、国際的孤立から脱する材料に使うのは間違いない。
 韓国や中国が融和ムードに乗じて、制裁を緩める事態を警戒しなければならない。非核化の進展があるまで制裁を維持する方針をトランプ氏が示したのは当然だ。
 懸念されるのは、トランプ氏が記者会見で米韓軍事演習の中止や在韓米軍の将来の削減に言及したことだ。和平に前のめりなあまり、譲歩が過ぎるのではないか。
 米韓と北朝鮮が軍事境界線を挟んで対峙たいじする状況が直ちに変わるわけではない。北朝鮮はソウルに壊滅的な打撃を与えられる火砲を最前線に配備している。
 この脅威が消えない限り、朝鮮戦争で創設された国連軍や在韓米軍の見直しを議論するのは時期尚早だ。休戦協定に代わる平和体制の構築は、北朝鮮の非核化の完了後に行うとの原則を、米国は堅持しなければならない。
 トランプ氏は、金委員長に日本人拉致問題を提起したことを明らかにした。長年の膠着こうちゃく状態を打破する機会が訪れたと言える。

◆日朝会談の環境整備を
 安倍首相は、米朝共同声明について、「北朝鮮を巡る諸懸案の包括的解決に向けた一歩」と支持し、拉致問題は「日本の責任において、日朝で交渉しなければならない」と強調した。金委員長との会談を模索するのは当然だろう。
 拉致被害者の帰国を実現するには、日朝両国の首脳が直接、協議するしかない。
 2002年の日朝平壌宣言は、国交正常化後の日本の経済協力実施を明記している。核・ミサイルと拉致の包括的解決が国交正常化の前提条件だ。金委員長が前向きの措置をとるのであれば、日本が関係改善を拒む理由はない。
 政府は米国と緊密に連携し、日朝首脳会談の開催に向けた環境の整備を進める必要がある。
2018年06月13日 06時00分 Copyright コピーライト The Yomiuri Shimbun

●産経新聞の社説

http://www.sankei.com/column/news/180613/clm1806130001-n1.html
2018.6.13 05:02更新
【主張】
米朝首脳会談 不完全な合意を危惧する 真の核放棄につながるのか

 北朝鮮の核・弾道ミサイル問題を解決に導けるか。世界の注目を集めたシンガポールでの歴史的会談は、大きな成果を得られないまま終わった。
 会談後に署名した共同声明で、金正恩朝鮮労働党委員長は「朝鮮半島の完全な非核化」を表明し、トランプ米大統領はこれを「成果」と位置づけた。加えて、北朝鮮の非核化のプロセスが「迅速に始まる」と歓迎した。
 金委員長に最低限約束させるべきは、北朝鮮が持つ核兵器などすべての大量破壊兵器と弾道ミサイルについて「完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)」であるのに、できなかった。

≪「前のめり」は戒めたい≫
 共同声明にCVIDの言葉が入らなかった点について、トランプ氏は「時間がなかった」と言い訳した。交渉能力を疑われよう。
 むろん、会談の実現を含め、両氏が対話できる関係を構築したのは画期的だ。困難な核問題を1回の会談で解決するのも難しい。
 真の核放棄に向けた作業は粘り強く継続しなければならない。まずは、双方が約束した国務長官らによる協議を早急に開くことが重要である。
 安倍晋三首相は、米朝会談について「北朝鮮の諸懸案を包括的に解決する一歩となるもので、支持する」と述べた。だが、北朝鮮自らの非核化が明確になっていない点で、日本として満足することはできないのである。
核・ミサイルの放棄へと事態が大きく前進したとみなせる要素は見当たらない。トランプ氏は会談前に自身のツイッターで「本物のディール(取引)」とつぶやいたが、不発だった。
 北朝鮮から核・弾道ミサイルなどの脅威を取り除くうえで、具体的にどのような状態を目指すか。その「目標」と、時間的目安も含む「道筋」について、はっきり決められなかった。
 北朝鮮の政策転換は、独裁者である金委員長に直接、約束させるのが有効だ。今回の首脳会談は、その絶好の機会だったのに生かすことができなかった。
 それなのに、トランプ氏が共同声明で北朝鮮の体制保証を約束し、会見で国交正常化への意欲も示したのは前のめりだ。
 対する金委員長が与えたのは「朝鮮半島の非核化を完結するための固く揺るぎない約束」の再確認だけだ。
 この言い方は、今年4月の南北首脳会談の合意の踏襲にすぎない。在韓米軍の撤退を要求し、自国の非核化を遅らせる口実にさえなり得る。
 北朝鮮は、2005年の6カ国協議の声明でも「朝鮮半島の検証可能な非核化」のため「すべての核兵器と核兵器計画の放棄」を約束した。だが、平然と反故(ほご)にして核開発を進めた経緯がある。

≪拉致めぐる情報生かせ≫
 金委員長から内実を伴う核放棄を引き出せなかった交渉に、限界を指摘せざるを得ない。
 今回に限って、なぜ北朝鮮を信用できるのかと記者会見で問われたトランプ氏は「大統領(人物)が違う」と語ったが、説得力に欠ける。
 トランプ氏が北朝鮮の核の脅威がなくなるまで、制裁を当面継続すると表明したのは当然である。だが、理解できないのは、経済制裁と並んで効果的に働いてきた軍事的圧力をここへきて弱めようとしている点だ。
 米朝間で対話が継続している間は、米韓合同軍事演習は「挑発的」だとして、やらない意向を示したのは誤った判断だ。
 トランプ氏が首脳会談で、金委員長に対して日本人拉致問題を提起したのはよかった。安倍首相も高く評価し、謝意を示した。
 この問題について、米朝間でどのような意見がかわされたのか、日米で情報共有に努め、生かすことが重要である。
 首相はトランプ氏から電話で会談の説明を受けた。金委員長の反応を詳しく分析した上で、政府として拉致被害者全員の帰国に向けて動くべきである。
 トランプ氏はこの日の会見も含め、日韓両国には北朝鮮への経済支援の用意があるということを口癖のように語る。
 だが、拉致と核・ミサイルの問題が包括的に解決しない限り、日本からの支援はあり得ない。その点を安倍首相もはっきりさせておくべきである。

●ロイターの記事

https://jp.reuters.com/article/us-dprk-analysis-idJPKBN1J8307
2018年6月13日 / 08:03 / 2時間前更新
焦点:米朝首脳会談、ニクソン訪中とは似て非なる政治イベント

[ワシントン 12日 ロイター] - トランプ米大統領が12日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と行った史上初の米朝首脳会談は、1972年のニクソン大統領による初の中国訪問を彷彿させるかもしれない。しかし今回、北朝鮮から非核化に向けた具体的な約束を何一つ獲得できなかった様相から、この二つは外交的意義の点では似て非なる政治イベントと言えそうだ。
 トランプ氏は正恩氏との会談の成功を早速広言したとはいえ、2人が署名した「シンガポール共同声明」はほとんどが、北朝鮮が歴代の米政権に対して守れなかった約束の焼き直しにすぎない、と専門家は断定した。
 そうなるとトランプ氏が国際社会もしくは米国内で政治的な追い風を受け続けるには、次回以降の北朝鮮との交渉で、同氏が「非常に迅速に始まる」と大見得を切った非核化プロセスが、目に見えて進むことを示す必要があるだろう。
 トランプ氏は12日の会談で北朝鮮の長距離核ミサイルから米国を安全にするという面で何か成果を得たわけではないが、今後国内で北朝鮮を外交交渉の席に引っ張り出したことが、「米国第一」政策の一環として国土を守る仕事をしている証拠だとアピールする公算が大きい。
 与党の共和党も11月の中間選挙をにらみ、有権者に首脳会談成功を売り込むとともに、このまま同党に多数派を維持する方が得策だと訴える可能性がある。
 それでも多くの専門家は、正恩氏が核武装を放棄するのは疑わしいと考えている。
 米シンクタンク「ファウンデーション・フォー・ディフェンス・オブ・デモクラシーズ」のアンソニー・ルギエロ上席研究員は「残念ながら、正恩氏が核武装を放棄するという戦略的決断を下したかどうかは不明だし、今後の交渉が非核化という最終目標につながるかも分からない」と語り、今回の動きは目立った進展がなかった10年前の交渉の再現を思わせるとの見方を示した。

<なし崩しの懸念>
 トランプ氏と正恩氏が約束した朝鮮半島の「完全な非核化」については、北朝鮮側が米政府の核武装解除の定義を受け入れたわけではないとの解釈が広がっている。
 かつて米政府当局者として北朝鮮との外交交渉を担当したエバンス・リビア氏は「共同声明には重要な要素がほぼゼロで、新鮮味にも乏しい。願望込みの目標が列挙されている。これは北朝鮮にとって勝利で、何の意義も生み出さなかったと見受けられる」と手厳しい。
 トランプ氏はツイッターで、大統領が北朝鮮トップと会談すること自体が米国にとって大損だという主張を「負け犬の遠吠え」になぞらえた。また同氏は、会談後の記者会見で「正恩氏が本気で非核化を望んでいると思う」と述べ、北朝鮮側の主要な要求である米韓合同軍事演習の中止にも前向きな姿勢を表明した。
 ただ直近の3代の大統領はいずれも北朝鮮から非核化の約束を得たが、すべて反故にされてきた。
 専門家の間でも、今回の首脳会談は、1972年にニクソン大統領が中国を訪れて長年にわたる米中対立の打開に道を開いた動きには、到底及ばないとの声が聞かれる。
 トランプ氏の主張では、北朝鮮が非核化に実際に取り組むまで米国は制裁を続けることになる。だが緊張が緩和されることで、中国と韓国は北朝鮮に約束を確実に守らせる上で不可欠な制裁措置を完全に履行し続けそうにない。
 今年に入って米国務省の対北朝鮮交渉担当者を辞めたジョセフ・ユン氏は、北朝鮮が近く「米国がわが友人であるなら、制裁を緩めてくれても良いではないか」と言い出し、非核化プロセスの枠組みそのものがなし崩しになってしまう事態を懸念している。
(Matt Spetalnick、David Brunnstrom記者)

●有識者の意見

◆宮家邦彦氏

http://www.sankei.com/politics/news/180613/plt1806130004-n1.html
2018.6.13 07:09更新
【米朝首脳会談】
立命館大客員教授・宮家邦彦氏「北非核化の進展望めず」「トランプ氏の外交交渉は稚拙」

 北朝鮮非核化の焦点である「完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄(CVID)」が共同声明に入らなかったのは、事前交渉で北朝鮮が全く聞く耳を持たなかったからだと思う。しかも「4月27日の板門店宣言を再確認し」として、非核化の定義を南北合意に依存させたことは、米朝間での非核化議論をさらに困難にするだろう。ポンペオ米国務長官と北朝鮮高官との交渉に非核化議論を委ねたことも気になる。声明には北朝鮮の核兵器廃棄に関する言及はなく、事実上、非核化の進展は望めなくなった。
 ボクシングに例えれば、第1ラウンドは北朝鮮の粘り勝ちだ。第2ラウンド以降も逆転の可能性は少ない。北朝鮮は非核化に向けた取り組みで時間稼ぎに成功した上、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は国際的評価を上げ、米国から体制保証も得た。
 一方、トランプ米大統領は「歴史的会談のための会談」という見せ物で国際的関心を集めたが、米国が得たものは少ない。外交交渉としては驚くほど稚拙で、交渉の達人ではなく、興行の達人だったということだ。トランプ氏は記者会見で「北朝鮮は核兵器を破棄する」と繰り返し、会談の意義を強調したが、実にむなしく響いた。
朝鮮半島問題は新しい次元に入った。新しい平和のレジーム(体制)はできそうになく、朝鮮半島問題は漂流を始めるだろう。米国は主導権を取る立場にはなくなった。北朝鮮に核兵器放棄の意図はなく、あったとしても切り札にするだろう。今回の会談は対北経済制裁解除のキックオフになる。韓国や中国、ロシアが制裁緩和に動き始め、これまでのような対北制裁包囲網は構築しにくくなった。
 これまでの北朝鮮の対応を踏まえれば、今回の結果はある程度予想できた。日本政府は驚くべきではないし、日本は「蚊帳の外」でもない。トランプ氏に正論を言えるのは世界中で安倍晋三首相しかいない。
 拉致問題の解決には日朝交渉が不可欠だ。安倍首相はトランプ氏と緊密に連携し、北朝鮮に非核化に向けた具体的な行動を求めていく強い姿勢が求められる。

◆香田洋二氏

http://www.sankei.com/politics/news/180613/plt1806130003-n1.html
2018.6.13 07:06更新
【米朝首脳会談】
元自衛艦隊司令官・香田洋二氏「壮大な無駄遣いの政治ショー」

 壮大な無駄遣いの政治ショーだ。共同声明は肝心なところに重しも押さえもない。トランプ米大統領の記者会見も全く得心できる内容ではなかった。トランプ氏は「過去の失敗を繰り返さない」と言ってきたが、同じ線路の上を走っているように見える。5月に訪米した際、多くの安全保障関係者が「大統領の功名心が危険だ」と指摘していた。まさにそうなった印象だ。
 非核化には実施の担保が全くない。拉致問題や人権問題も具体的なものが何もない。一方で北朝鮮は文書で体制保証を取り付け、義務を課せられないまま、米国からの軍事攻撃を相当な期間にわたり回避できることになった。何も失わないで時間稼ぎに成功した。
 北朝鮮はミサイルのエンジン試験場の解体を表明したというが、大陸間弾道ミサイル「火星15」など、配備済みのミサイルはそのままだ。火星15のエンジンテストは終わっており、実験場の解体に意味はない。あれを成果だというのは、正確に現状を理解していないのではないか。核実験場の廃棄も掘っ立て小屋をつぶしただけの子供だましだった。その延長にすぎない。
 トランプ氏は記者会見で将来的な在韓米軍の撤退にも言及した。わが耳と目を疑った。最大の失敗であり、大統領が決して言ってはいけないことだ。東アジアで今後、対中国の戦略を考えないといけないときに、自ら飛車・角を捨てるようなもの。日本にとっても在韓米軍の撤退は絶対に避けなければならない。もう一度、日米でしっかり戦略を整合する必要がある。
 今回の会談で、米国が北朝鮮に軍事力を行使する可能性は遠のいたとはいえる。ただ、北朝鮮の対応がトランプ氏の期待を裏切った場合、また軍事オプションが浮上する可能性はある。トランプ氏は軍事力を使う大統領だ。北朝鮮も高をくくったような対応はできないかもしれない。
 あえて言えば、両首脳に個人的パイプができたのは成果かもしれない。北朝鮮の今後の行動を見極め、必要なら直ちに厳しい態度に出ることが必要だ。事ここに至っては、そう言うしかない。

◆尹徳敏氏

http://www.sankei.com/world/news/180613/wor1806130018-n1.html
2018.6.13 07:11更新
【米朝首脳会談】
韓国外国語大の尹徳敏教授 「過去の失敗合意と酷似」

 約27年にわたる北朝鮮の核問題と国際社会の歴史の中でようやく米朝首脳の会談が実現したが、合意に詳細な部分はなく「歴史的な会談」が行われただけに終わった。
 共同声明に「朝鮮半島の完全な非核化」という文言は入っているものの、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」にまでは踏み込んでいない。核弾頭や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の移転、解体はもちろん、非核化をめぐる期限にも触れていない。
 また、トランプ米大統領は会談後の記者会見で、在韓米軍の費用にも言及し、米韓合同軍事演習の中断が費用の節約になるとまで言った。韓米、日米などの同盟関係を気にしていないかのような発言で、何らかの“取引材料”がある可能性を疑わせる。
 トランプ氏は、北朝鮮がすぐにも非核化に着手すると言ったが、これまでにやってきた核実験場の爆破などを評価しているにすぎない。北朝鮮は実質的な非核化はしていない。
 また、トランプ氏は北朝鮮への制裁を続けると言った。だが、このような状況で中国や韓国は制裁を続けられるだろうか。これまでの米朝の合意と比べてみても、今回の会談で進展した部分は見当たらず、失敗した過去の合意と似ている。
 課題は今後の米朝実務協議に委ねるかたちとなった。金正恩氏は非核化の原則を受け入れたのだろうが、問題は目に見えるかたちでそれを実行できるかどうかだ。(聞き手 名村隆寛)
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