ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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人権117~家族型的価値観の違いの影響(続き)

2014-10-11 09:37:58 | 人権
●家族型的価値観の違いの影響(続き)

 さて、イギリスの主要地域は絶対核家族が支配的な社会である。絶対核家族は自由/不平等の対の価値観を持ち、自由を中心とした価値観を持つ。平等には無関心である。ホッブスやロックはそうした社会を背景にして、自由を中心に個人の自由と権利に係る思想を説いた。ピューリタン革命・名誉革命は、新興ブルジョワジーを中心とした集団が自由を確保しようとした運動だった。
 続いて、18世紀後半には、そのイギリスの植民地アメリカが、1776年に本国から独立した。初期の北米には、イギリス同様、絶対核家族の移民が多く、自由中心の価値観を共有していた。アメリカ独立宣言は「われわれは、自明の真理として、すべての人は平等に造られ、造物主(Creator)によって、一定の奪いがたい天賦の権利を付与され、その中に生命、自由および幸福の追求の含まれることを信ずる」と宣言した。建国の祖の宗教的差異主義は、イギリスの絶対核家族の家族制度を土台としていた。キリスト教の宗派のうち、家族型的な価値観に合う教義を信奉したわけである。家族型的かつ宗教的な差異主義は、旧約聖書の神の言葉によって増幅され、インディアンや黒人との混交を禁じることになった。
 フランスでは1789年に市民革命がおこった。フランスは、近代化の先進国イギリスの思想の影響を受け、自由を求める意識が高まった。パリ盆地は平等主義核家族が支配的な地域なので、自由だけでなく自由と平等を価値とする思想が展開された。フランス人権宣言は「人間は、自由で、権利において平等な者として出生し、生存する。社会的な差別は、共同の利益のためにのみ設けることができる」と宣言した。フランス革命の普遍主義は、平等主義核家族の価値観に基づくものである。英米と異なり、自由だけでなく、平等を重視する。平等の重視は、政治的にはデモクラティックになり、急進的になる。フランス革命は、またヨーロッパで初めてユダヤ人を解放した。これは普遍主義の理想を追求したものだった。
 トッドによると、今日もアメリカ合衆国は、差異主義によって、黒人という不可触賎民が存在する。イギリスは、白人が階級的に分断されていることによって、移民が民族的・人種的に分断されない状態になっている。これに対し、フランスは、市民革命以来、民族性・出自・血統の観念を排除した国民概念を形成した。ただし、フランスには直系家族の有力な地域があり、普遍主義と差異主義の対立と均衡が見られる。フランス革命後のめまぐるしい政体の変化は、こうした社会構造が背景にあるのだろう。
 人権の観念は、英米の自由/不平等の社会で発達し、フランスの自由/平等の社会で確立された。人間は生まれながらに自由にして平等であるという思想は、西欧諸諸国やロシア、アジア、アフリカ、ラテン・アメリカ等に広がった。だが、家族的な価値観が異なる地域では、容易に浸透していない。最も浸透しないのは、権威/平等を価値観とする共同体家族の社会、つまり共産主義が浸透したような社会である。
 家族型の違いは価値観の違いに影響する。今日最も普遍的な価値とされる自由は、絶対核家族及び平等主義核家族で発達した価値である。自由と平等という対は、一方の平等主義核家族の価値観である。フランスは普遍主義であるから、その価値観が人類普遍的であるべきものと主張されるが、英米の価値観に立てば、自由こそが至上の価値であり、平等の重視は自由を規制するものという見方になる。前者の場合は、平等を重視した人権が唱えられ、後者の場合は、自由を至上とする人権が唱えられる。そのこと自体が、人権は必ずしも普遍的な価値ではないことを示している。

 次回に続く。

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