ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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人権394~人権発達のための実践を促進する

2016-12-27 08:50:06 | 人権
●人権発達のための実践を促進する
 
 人権の内容を検討したところで、次に人権の発達のための実践について書きたい。
 人権と称される権利は、歴史的・社会的・文化的に発達してきた「人間的な権利」である。その実態は、主として国民国家における国民の権利である。国民の権利は法的権利であり、法的義務を伴う。これに対し、国際社会における人権は、法と道徳の中間に位置する性格を持っており、法的権利というよりむしろ社会的権利である。人権を社会的権利と考えれば、人権保障のための支援は、法的義務ではなく、道徳的義務である。また、人権の発達を目指すには、国際社会の主要な行為主体である各ネイションにおいて、国内的正義に基づいて国民の権利を発達させることが基本である。そこにおいて、各国及び国際社会において最低限保障を目指すべき権利の実現に取り組む。そのうえで、ネイションを基礎とする国際的正義に基づき、国際社会での個人の権利を最低限度に保障することを目指すべきである。この最低限度の権利保障は、国際社会では例外的な状況にある人々が主対象となる。その権利は、各国が一定の条件のもとに恩恵として付与すべきものである。各国における外国籍の移民は、本国の政府がその国の国民として権利を保障すべきであり、居住国の政府は自国民と非国民を権利において区別してよい。
 このような見解のもとに、私が人権を発達させるための実践にあたって重要と考えることを12点述べたい。既に書いたことと重複する部分もあるが、整理のためにそれも含めて書くことをお断りしておく。

(1) 権利と主張を区別する
(2)法的な義務と道徳的義務を区別する
(3)人道主義的義務とは何かを明確にする
(4)結果責任と救済責任を明らかにする
(5)人間の他者依存性と自己責任性を理解する
(6)自立自助を促す支援をする
(7)人間開発を促進し、人間の安全保障を強化する
(8)現実を踏まえ、漸進的な改善を目指す
(9)必要な費用を算出し、分担・管理・運用の仕方を決める
(10)国家間の過度な不平等の是正に取り組む
(11)国家の役割が重要であることを認識する
(12)米国の価値観の変化と中国の民主化を促す

 これらについて、次に記す。

●人権発達のための実践で重要なこと

(1)権利と主張を区別する
 人権発達のための実践において、まず権利については、権利と主張を区別することが必要である。
 今日人権について世界的に大きな影響力を持つセンは、「人権の宣言とは(略)道徳的な要求の表明とみなすべきだ」と言う。センによれば、人権は道徳的要求が政治的・社会的な運動を通じて、法的な権利として実現されてきたものである。道徳的要求は、単なる主張ではなく、道徳的な権利であり、必ずしも法制化する必要はなく、法制化されていなくとも、権利として擁護されるべきだ、という考えをセンは示す。
 センはまた「人権を強力な道徳的主張と見なすなら、それらの道徳的要求を促進するうえで異なる手段を考えることに寛容であるべき理由が存在する。人権の倫理を進める方法と手段は、たとえ、しばしば法制化が進むべき正しい道であるとしても、必ずしも新しい法律を作ることに限定される必要はない」と言う。
 こうしてセンは、道徳的な要求を権利とし、それに応じた義務を説く。私は、センの考え方は権利の概念をなし崩しにするものだと思う。道徳的な要求をすべてそのまま権利だとすることはできない。権利は、能力の行使が社会的に承認された時に権利となる。能力行使を権利として承認すれば、その権利を実現する義務が生じるが、承認なき要求は、権利ではなく主張に過ぎない。社会的に承認されていない主張をも権利とするのは、要求する側の一方的な主張に与するものであり、権利に必要な双方の合意を欠いている。たとえ、権利関係・権力関係における劣位者、弱者、困窮者等による切実な主張だとしても、一方的に主張を発するだけで権利となるとするならば、その逆の立場からも、主張すなわち権利という論理が対置されることになる。
 世界人権宣言は、単なる宣言であって法的拘束力を持つものではない。宣言を基に作られた国際人権規約も、締約国に対して出される国際的監視機関の所見に法的拘束力はなく、勧告的な効果を持つにとどまり、強制力はない。国際人権規約に定める権利であっても、国内法におけるような法的権利とはなっていない。そのような状況で、主張をそのまま権利とすることは、権利をめぐる見解に対立を生じ、混乱を招く。権利と主張は、区別しなければならない。

 次回に続く。

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