ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

インド・シン首相の国会演説1

2007-04-17 11:00:22 | 国際関係
 「自由主義史観北米支部」のサイトで、昨年(平成18年)12月14日、来日していたインドのマンモハン・シン首相が衆議院で、素晴らしい演説をしたことを知った。
http://blog.livedoor.jp/lajme/archives/50959630.html
 日本のマスメディアは、新聞・テレビとも演説の内容を報道していないようだ。今日インドは日本にとって既に重要な存在であり、これからインドの成長とともにますますその重要性を増していくことは確実である。それを考えると、このたびのメディアの対応は、まったく愚かである。おそらく中国共産党の反発を恐れて、自粛したものだろう。
 先のサイトは、「どんどんこの演説を広げていきましょう!」と呼びかけている。遅ればせながら、これに応えて、私も転載させていただく。長文だが、最後に少しコメントを書く。

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マンモハン・シン・インド首相演説

2006年12月14日
東京

河野洋平衆議院議長閣下
扇千景参議院議長閣下
安倍晋三内閣総理大臣閣下
衆議院議員ならびに参議院議員の皆様
著名な指導者の皆様ならびにご列席の皆様

 この威厳のある議会において演説の機会を得ましたことは栄誉なことと認識しております。我々二カ国の国民が互いに寄せる善意と友情の表れです。
 ご列席の皆様
 日本とインドは文明的にも近い国であります。我々の最も古い絆を形成するのが、共通する遺産でもある仏教です。二つの文化は歴史を通して交流し、豊かさを増してきました。1000年余り前、インドの僧侶ボディセナ(菩提僊那)は、東大寺の大仏開眼供養に参列するため奈良を訪れました。近代においては、タゴールと岡倉天心が、アジアの偉大なる両国の間に理解の新しい架け橋を築きました。
 科学技術の発展に基づく明治維新以降の日本の近代化と、戦後に日本再建の基となった活力と気概は、インドの初代首相であるジャワハルラル・ネールに深い影響を与えました。ネール首相は、インドが日本と緊密な絆を結び、その経験から学ぶことを望みました。
 インドが日本からのODA(政府開発援助)の最初の受益国になるよう尽力されたのは、当時の岸信介総理大臣でした。今日、インドは日本のODAの最大の受益国であり、こうした援助に我々は深く感謝しております。
 日本の工業は、自動車や石油化学などインド産業の発展のために貴重な役割を果してきました。90年代の初頭、インドが深刻な経済危機に陥った時期、日本は迷うことなく支援し続けてくださいました。
 1952年、インドは日本との間で二国間の平和条約を調印し、日本に対するすべての戦争賠償要求を放棄しました。戦後、ラダ・ビノード・パル判事の下した信念に基づく判断は、今日に至っても日本で記憶されています。
 こうした出来事は、我々の友情の深さと、歴史を通じて、危機に際してお互いに助け合ってきた事実を反映するものです。
 日本を訪れるたびに、お国の発展を見て真に鼓舞され、寛大さに心を打たれます。私は、1992年の訪日を決して忘れることがないでしょう。それは、インドの財務相として初の両国間の訪問でした。
 1991年に前例のない経済危機に対処した際、日本から送られた支援に謝意を述べるための訪日でした。古い型を打破し、グローバル化しつつある世界での競争に備えるべく経済を開放し、新たな前進への道を乗り出す機会を、あの危機は我々に与えたのでした。当時、弾力性や献身といった長所、あるいは逆境にあって如何に機会を創造するかといったことを日本から学ぼうとして、我々は日本に目を向けたのでした。
 新生インドの首相として、今日、私は日本に戻ってまいりました。過去15年間、インド経済は年率平均6パーセントを上回る成長を遂げてきました。近年は一層弾みがつき、成長率は年間8パーセント以上に加速しています。現在、インドの投資率は対GNP比で30パーセントに相当します。1990年代初頭に立ち上げた広範な経済改革の結果、インド経済は、経済のグローバル化と多極化の進む世界の出現によってもたらされた課題やチャンスを受けいれる柔軟性を身につけました。
 インドは、開かれた社会、開かれた経済として前進を続けています。民主的な政体の枠組みの中でインドを変容させようとする我々の努力が成功を収めることは、アジアと世界の平和と発展にとって極めて重要です。これまでに、10億を超える人々が民族や文化など多元的な要素を抱えた民主主義の枠組みの中で貧困を撲滅し、社会と経済を現代化しようと試みた例は全くありません。
 インドは、現在、持続的な高度成長の波に乗っていると思います。サービス主導型かつ技術先導型の経済によるグローバル経済との統合という新しいモデルを開発してきました。今日、インドは、情報技術、バイオテクノロジー、医薬品など、知識を基礎とする分野で主要な役割を担う国として台頭してきました。道路、鉄道、電気通信、港湾、空港などから成る物理的および社会的インフラを拡大し現代化するため、大規模な投資が行われています。こうした発展は、インドの製造業の競争力と生産性を大いに高めるでしょう。
 インドと日本が両国間の結びつきを急速に発展させるための土台は、こうした経過と国際的な筋書きの変化によって生まれました。二つの古代文明にとって、戦略的かつグローバルな関係を含む、強固で今日的な関係を構築する時が到来したと思います。それは、アジアと世界にとって大変重要な意味をもつでしょう。
 我々は、自由、民主主義、基本的権利、法の支配という普遍的に擁護された価値を共有するアジアの二つの大国です。両国間に存在するこの共通の価値と膨大な経済的補完性を活用し、互いに相手国を最重要と認める強固なパートナーシップを築いていかなければなりません。
 また、新たな国際秩序の中で、インドと日本は国力に見合った均衡の取れた役割を演じなければならないという点でも、考え方を共有しています。日印間の強い絆は、開かれた包容力のあるアジアを構築し、地域の平和と安定を強化するための重要な要素です。
 経済関係が二国間関係の基盤となるべきであり、この分野での結びつきを強力に推し進めることが必要です。日印間の貿易や投資は、到底その可能性を発揮しているとはいえません。それとは対照的に、インドと中国、インドと韓国の貿易は好調で、昨年は両国との貿易がおよそ40パーセントの伸びを示しました。中国との貿易は日印貿易の3倍近くに膨らんでおり、韓国との貿易も日印貿易とほぼ肩を並べています。
 経済協力の可能性を十分に生かすには、両国の政府、経済界、産業界の積極的な努力が必要です。
 将来、このパートナーシップを築くことができる最も重要な分野は、知識経済であると信じています。両国の経済構造、比較的得意な分野の均衡状態、人口動態の違いなどを考えれば納得できるでしょう。
 科学技術の分野でも、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、生命科学、情報通信技術といった将来の成長分野での提携を加速させていく必要があります。インドのソフト産業と日本のハード産業は、相乗効果を活用しながら発展しなければなりません。
 心ある賢人同士のパートナーシップは、人事の交流をより盛んにすることを意味します。私は、インドにおいて日本語を学ぶ学生の数が増えることを願っています。日本語は、既にインドの中等教育で外国語の選択科目として導入されています。明日、安部総理大臣と私は、「将来への投資構想」を立ち上げます。今後数年の間に何千人ものインドの若者が日本語を学ぶことができるようにしたいと望んでいます。
 相互が関心を持っているもう一つの分野は、エネルギーの安全保障です。アジア地域全体として、エネルギー供給の安全を保障し、エネルギー市場を効率的に機能させることが必要です。
 我々は貿易とエネルギーの流れを確保するために、シーレーンを保護することを含めた、防衛協力の促進に同等の関心をよせています。
 日本と同様にインドも、増加するエネルギー需要に対応するため、原子力が現実的でクリーンなエネルギー資源だと考えています。これを実現させるために、国際社会による革新的で前向きな取り組みが軌道に乗るよう、我々は日本の支援を求めます。
 テロは平和に対する共通の脅威で、開かれた我々の社会の調和と組織を脅かします。テロには多くの側面があり、その原因も多様で、地理的な境界も無視されるという複雑な問題なのです。我々が力を合わせないかぎり、テロとの戦いには勝てません。
 私は、国連と国連安全保障理事会が今日の情勢に対応できるものになるよう、その活性化と改革に向けて両国が協力してきたことをうれしく思います。両国は国連とさまざまな国連関係機関の効率強化に関心を持っています。この意味において、今、我々が置かれているグローバル化された世界で、各国の相互依存関係を秩序正しく公正に運営していくべく、両国の協力関係を強化しなければなりません。
 アジアで最大の民主主義国と最も発達した民主主義国である両国は、お互いの発展と繁栄に利害関係を有しています。我々は、インドの経済環境が投資のしやすいものになるよう努める決意です。日本企業に是非インドにおけるプレゼンスを拡大していただきたいのです。安部総理大臣と私は、二国間の投資、貿易、テクノロジーの流れを増大させるべく、包括的経済連携協定の締結につながる交渉を開始します。
 我々のパートナーシップは、アジア全域に「優位と繁栄の弧」を創出する可能性を秘めています。それは、アジア経済共同体の形成の基礎となるものです。
 こういった日印間のパートナーシップを拡大させたいという希望や抱負は、あらゆるレベルでの交流を増すことによってのみ現実のものとなります。我々はハイレベルでの「エネルギー対話」を設置することで合意していますが、このような機会がさらに多くの分野で設置されるべきであり、とりわけ貿易と産業分野では不可欠です。
 ご列席の皆様、いかなる戦略的パートナーシップにおいても、その礎となるのは人々の友情です。日本の若者の間で映画『踊るマハラジャ』が人気を博していると聞き、うれしく思っています。インドの子供たちは、日本のロボット『踊るアシモ』を見て歓声を上げていました。また、日本ではインド料理店の数が驚異的に増えているようですし、インドでも寿司と天婦羅への人気が高まってきたことは間違いありません。
 2007年は日印友好年であり、日印観光交流年でもあります。さらに、両国を結ぶ航空便の大幅な増便も望んでいます。老いも若きも多くの日本人がインドを訪れ、古代と現代のインドが放つ数多くの輝きをご自身の目で見てほしいと思います。
 インドと日本の新たなパートナーシップという構想は、本日、その決定的瞬間を迎えました。私の訪日はこの構想を具体化するためであり、21世紀をアジアの世紀にするために我々が努力して演じている役割に、将来の世代が感謝することができるようにするためなのです。
 ご清聴、ありがとうございました。
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 マンモハン・シン首相は、演説の中で、重要なことをいくつも述べている。ネール首相が日本の近代化と復興に学ぼうとしたこと、日本のODA支援と岸信介元首相への感謝、90年代のインド経済危機への支援への謝意、インドは戦後賠償を放棄したこと、東京裁判でのパル判事の見解、民主主義国同志である日印のパートナーシップの構築、インドのソフト産業と日本のハード産業の相乗効果、シーレーン保護を含めた防衛協力、国連における日印の協力、インドへの日本企業の進出の要請、アジア経済共同体の形成等である。
 この演説は、歴史的な意義を持った演説となるだろう。日本とインドの関係においてだけではない。アジアの安定と繁栄にとっても、世界の平和と協調にとっても。

 シン首相の演説は、衆議院TVのサイトでは公開されている。しかし、演説の文章は、衆議院のサイトに掲載されていない。
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.cfm?ex=VL

 インドについては、以前書いたことがある。以下の拙稿を読んでいただくとともに、シン首相がどういう人物であるかを知れば、一層この演説の歴史的意義と、その演説内容を報道しないことの欺瞞性が明らかになるだろう。その点は次回述べる。

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■中国からインドへのシフト

平成17年6月29日

 近年インドの経済成長は目覚しく、昨年の第4四半期のGDP成長率は、中国を抜いて10.4%となった。人口も、2035年には中国を上回ると見られている。国連安保理の理事国の候補の一角に上がっているだけの裏づけがあるのだ。
 中国との関係は程ほどにし、インドとの関係を深めていくほうがよいという人が増えている。私も中国からインドに重点をシフトしたほうがよいと思う。そうは言っても、多くの日本人にはピンとこないだろう。極貧の国、不衛生の国というイメージが強いからだろう。しかし、そのまた昔には、唐(から)・天竺(てんじく)といわれ、インドはシナより上だった。

 なによりインドは世界でも最も親日的な国の一つである。日本人は、インド独立の英雄チャンドラ・ボースらを支援し、大東亜戦争のときにはF機関を通じて、民族独立運動を育て、インパール作戦では、インドのために血を流した。インド人は今も日本のお陰で独立が早まったと感謝している。インドの国家指導者は靖国神社に参拝している。戦後、首相となったネールは、東京裁判のインド代表判事にパール博士を任命した。パール博士は、東京裁判の不当性を明らかにし、日本の戦犯容疑者全員の無罪を判決した。インド政府は、当時も今もパール博士の判決を支持しているという。中国とは、まったく正反対ではないか。

 中国の経済は、雲行きが怪しくなっている。なにより北京オリンピックの開催を危ぶむ声がある。メインスタジアムは建設中止となり、既存の施設を使うことに変更された。10個の競技場は半分が建設取り消しとなった。資金不足が深刻で、胡錦涛政権は引き締めにかかっているのだ。株は6年前から暴落し、低迷を続けている。沿岸都市部と内陸農村部の格差が拡大し、失業者があふれ、暴動やストが年間1万件以上起こっているらしい。石油不足・電力不足・水不足は深刻となり、沙漠化・環境汚染・大気汚染・水質汚染が進行している。中国は、既に破綻し始めているのだ。
 ピーター・ドラッガーは、「インドへの投資のほうが中国より魅力的である」と予想した。「巨大な軍と農村の余剰を都会の製造業が吸収するという社会構造の変化を中国に望むのは無理だろう」と述べ、「なによりも教育を受けたエンジニア、スペシャリストがインドに大量に育っている」と指摘している。

 ソフトウエアの開発でインドの伸長が目覚しいことは、わが国でも常識になりつつある。ソフト産業では、インドの輸出額は既に中国の2倍以上になっている。欧米企業はインドへの投資を増大しており、インドが中国に替わって「世界の工場」になりつつある。IBMがパソコン部門を中国のレノボに売却したニュースは衝撃的だったが、その一方でIBMはインドの「ダクシュ」という大手通信会社を買収し、着々とインド進出を行っているという。
 IT時代にインドが急速に発達してきたことには、十分な理由がある。インドはゼロを発見した国として有名だが、「マハーバーラタ」の時代からインド人には数理的に特異な能力がある。小学校高学年の子だと、3桁の暗算ができるのが普通というのだから、驚異的である。インドの大学進学率は、既に中国を上回っている。またインド人の公用語は英語で、概念的に高度な内容のことも英語で会話できることが、情報通信産業では非常に有利になっているようである。

 インドの経済成長は、大衆文化の発達をも生み出している。インドの映画産業は、アジア最大の規模を誇る。映画製作の中心地、ムンバイ(イギリス名ボンベイ)は、「ボリウッド」と呼ばれる。インドの「ハリウッド」という意味である。作品の質の高さでも、世界の注目を集めており、そのうちオスカーを取るだろうという声もあるらしい。
 インド人の人生観には、深遠な宇宙哲学があり、精神的な価値を重んじる。高い精神性がうかがわれる。自己主張が強くて身勝手なシナ人と違い、穏やかで親和的だ。シナ人のように即物的・拝金的でなく、インド人は物欲や金銭欲だけでは動かないと聞く。商取引でも、順法精神が見られるようだ。当然のことのように約束を破るシナ人とは異なり、まともな付き合いができると言うわけだ。

 そのうえ、中国は事実上、共産党の一党独裁の国であるが、インドはデモクラシーの国である。アジア最大の民主主義国家である。この違いは非常に大きい。また、中国に軍事的脅威を感じるわが国と、地政学的に中国を警戒するインドの提携は、両方にメリットが大きいといわれる。ペルシャ湾から南シナ海へのシーレーンの防衛は、中国にとっても重要な課題だが、インドはいざとなったらこれを抑える力を秘めているようである。こうしたインドとの提携は、わが国に有効な外交カードを増やすことになる。
 
 反日的な周辺の二、三の国のことばかり意識するのでなく、視野を広げて、日本を愛し、日本に感謝している国々との関係を深めていくべきだろう。ましてや、今世紀半ばには中国を抜くだろうといわれる大国が、そこにあるのだから。
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2 コメント

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>ITUKYUUさん (ほそかわ)
2007-04-19 10:09:41
ご意見有難うございます。
そこまでインドに期待できるかどうかはわかりませんが、大切にしていくべき友好国だと思います。
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インドとの友好は絶対に保持すべき (ITUKYUU)
2007-04-18 22:29:43
正に同感の至り。戦後の日本に情けを掛けてくれたのは、ネール首相。我々はこの事実を後世に語り継がねばならない。米国が日本を捨ててもインドはバック・アップしてくれるだろう。
日本は【核】を持たない。必要が無いからだ。米国がダメならインドが有る。お互いに真の平和が何で有るかを知る。日本の半日ネット・売国政治家・似非平和主義・・・・ETC。偽善者のオトボケは最早国民の知る処。ご意見書き込みに感謝致します。
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