ほそかわ・かずひこの BLOG

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人権303~自由を優先しつつ平等に配慮する正義の原理

2016-05-06 08:56:16 | 人権
●自由を優先しつつ平等に配慮する正義の原理

 ロールズは、原初状態を仮設して思考実験を行った。それを通じて、社会的な正義(justice)の原理を導き出した。正義の第一の原理は平等な自由原理である。平等な自由への権利に関わる原理であり、これには種々の自由権が含まれる。第二の原理は機会均等原理と格差是正原理である。これは、組織のあり方、所得や富の配分に関わる。原理と称しているが、基本的には自由を優先しつつ、そのもとに平等に一定の配慮をすることが正義だという主張である。この主張は、西洋文明で古代以来さまざまに論じられてきた正義を、公正(fairness)という概念を用いて理論化したものである。
 『正義論』において、ロールズは、次のように言う。「自分自身の利益の増進を願っている自由かつ合理的な人びとが、彼らの連合体の基本条項を規定するものとして、社会生活を始める前の平等な出発点において受け入れられるだろう諸原理、それが正義の諸原理に他ならない。これらの原理が、その後に結ばれるあらゆる合意を規制することになる。(略)正義の諸原理を勘案するこのやり方を『公正としての正義』と呼ぶ」と。
 ロールズは、社会を「相互利益を求める共同の冒険的企て」と規定する。人々は、互いによりよい生活ができそうだという見込みに賭けて、社会をつくる契約を結ぶ。それゆえ、社会形成後に生じる利益や社会を維持する負担をどう分配するかを取り決めておく必要がある。人々は、自由で平等な契約当事者として、フェアな状況で、正々堂々と意見を述べ合い、社会を運営する基本的なルールを全員一致で採択する。ロールズは、このように仮定するから、「公正としての正義」だと言うわけである。
 ロールズの正義原理の最終形は、『公正としての正義 再説』に書かれたものである。それによると、第一原理は、「各人は、平等な基本的諸自由からなる十分適切な枠組みへの同一の侵すことのできない請求権を持っており、しかも、その枠組みは、諸自由からなる全員にとって同一の枠組と両立するものである」。第二原理は、「社会的・経済的不平等は、次の2つの条件を充たさねばならない。(1)社会的・経済的不平等が、機会の公正な平等という条件のもとで全員に開かれた職務と地位に伴うものであるということ。(2)社会的・経済的不平等が、社会のなかで最も不利な状況にある構成員にとって最大の利益となるということ」。
 ロールズは、原初状態において彼が想定する条件のもとに人々が合理的に考え、平等に発言して議論すると、こうした原理が採択されると主張する。それによって、自由と平等の調和的均衡点を提示している。
 正義の原理において、第一原理は第二原理に優先する。自由は自由のためにのみ制約されるとする付帯ルールもあり、基本的諸自由への平等な権利に優先的地位が与えられている。また、第二原理の中でも、(1)の公正な機会均等原理が(2)の格差是正原理に優先する。すなわち、“平等な自由原理>公正な機会均等原理>格差是正原理”という関係が成り立つ、と主張する。
 正義の原理をより具体的なものとするうえで、重要なのが、「基本財(基本善 primary goods)」という概念である。ロールズは、人間は各自異なる善い生き方の構想を持つが、その構想がどのようなものであれ、各自の考える善い生き方をしようとする上で普遍的に必要となるものを、基本財という。基本財は権利、自由と機会、所得と富、そして自尊心の社会的基礎を含むとされる。この概念を加えて理解すると、第一原理は、基本財のうちでも最も基礎的な「基本的諸自由」つまり選挙権・被選挙権などの政治的自由、言論・集会の自由、思想及び良心の自由の平等な分配を命じるというものであり、第二の原理は、所得や地位など他の基本財の分配に関わり、機会の公正な平等、及び最も不利な状況にある構成員の利益の最大化を図るという二つの条件に合わせて、社会的・経済的不平等を是正するものである。
 ロールズの正義原理では、基本財概念を用いて、すべての人々に基本的諸自由を平等に保障することが、全体としての社会的・経済的利益の増進に優先される。それによって、功利主義に欠けていた個人の独自性と多様性への配慮がなされる。そのうえで、自由な個人の間の公正な機会均等を確保する。またそれに加えて、社会的な格差を是正するため、社会的・経済的弱者の福祉の向上を目指す分配的正義のあり方を示すものと言える。こうしたロールズの正義原理は、フランス革命の理念に符合してもいる。すなわち、第一原理は「自由」、第二原理のうち機会均等原理は「平等」、格差是正原理は「友愛」に対応するという見方が成り立つ。
 これらの価値のうち、中心はあくまで自由であり、自由が常に優先される。ただし、自由権のうち特定の自由権を優先するものではない。『公正としての正義 再説』でロールズは、「思想の自由と良心の自由、あるいは、政治的自由と法の支配の保障という基本的自由のどれ一つとして絶対的なものはない。というのは、互いに衝突するときには制限されるからである」とし、「これらの自由がどのように調整されるにせよ、その最終的な枠組みこそがすべての市民に平等に保障されるべきなのである」と述べている。種々の自由権を調整しつつ平等に保障する枠組みをこそ、自由としている。いわば、自由への諸権利の上に立つ制度としての自由である。
 ロールズは、17世紀以来の社会契約説の発想を継承しており、原初状態で想定しているのは、ほぼ等しい能力を持つ市民であり、彼らによる相互利益のための契約という発想をしている。そのため、障害者や社会的協働に参加できない者を、契約の当事者から除いている。社会契約に参加する市民は、抽象化され、画一化された個人である。この点は、ロールズの理論の特徴であり、また弱点でもある。

 次回に続く。


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