ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

北方領土交渉に力を入れるのは今~山田吉彦氏

2013-01-03 09:29:22 | 国際関係
 1月2日の拙稿に、現在はロシアに北方領土返還を求める好機だという北海道大学名誉教授・木村汎氏の見解を紹介した。木村氏は、アジア太平洋地域で覇権を進める中国に対して、ロシアは焦りを感じているから、わが国の首相は「ロシアが極東経済を発展させ、真に地域の一員たらんとするなら、ベストパートナーは日本であり、それには四島返還が必須である」と交渉するとよい、と提案をしている。木村氏の意見は、ロシアと中国の力関係が逆転したという情勢を、北方領土交渉に生かせという見方からのものである。
 この意見とまったく違う観点から、今こそ北方領土交渉に力を入れる時期は今だと主張するのが、東海大学教授・山田吉彦氏である。山田氏の理由は、世界のエネルギー市場の動向と北極海航路の開発に係るロシアの事情をとらえたものである。山田氏は、次のように書いている。
 「ロシアは、サハリンのガス田開発に意欲を見せている。しかし、この事業も前途多難だ。米国を中心に開発が進められてきたシェールガスが普及することで、サハリンのガスの魅力は激減することだろう。ロシアは、シェールガスが一般化する前に、サハリンの利益を獲得しなければならない。ロシアにとっても時間的な余裕はないのである。
 しかし、サハリンのガスを量産するためには、液化天然ガス(LNG)プラントを増設する必要がある。だが、LNGプラントを造るには1兆円ほどの費用が必要なのである。外資を導入しなければならない。答えは見えている。サハリンガス田開発はガスの売却先も含め、日本を抜きにしては考えられないのである。
 また、ロシアは北極海を船で通過する『北極海航路』を推進している。この航路の開発には、基点海域にある日本の協力が不可欠だ。日本は、自虐史観を捨て、あらたな交渉の材料を用意し、日露関係の将来を見据えた北方領土返還交渉に臨まなければならない。交渉に力を入れる時期は今だ」と。
 こちらも興味深い意見である。木村氏の意見と合わせる時、わが国はロシアに対する交渉をより効果的に展開できることと思う。ただし、こうした外交で北方領土の返還がなるとは私には思えない。わが国が現行憲法を放置し、国防に規制をかけられた状態に止まっている限り、ロシアとの領土返還交渉は、解決に至らないと思うからである。実力の裏づけのない外交は、相手国になんら圧力を感じさせない。現行憲法の第9条をそのままにしながら、領土の返還交渉をいくら続けても、埒があかないだろう。領土問題は主権の問題、国防の問題であり、つきつめると憲法問題であることを認識しなければならない。まず憲法改正を行い、国民の団結心を高め、国防力を充実し、その上でロシアとの交渉を進める。その時に、中国を中心としたアジア太平洋情勢や世界のエネルギー市場の動向等を語ることが、外交を有利に進める材料となるだろう。
 ところで、産経新聞平成25年1月1日号は、「新帝国時代 2030年のアジア」という記事に、元外務省主任分析官でロシアが専門の佐藤優氏の発言を掲載した。佐藤氏は、昨年8月の李明博韓国大統領の竹島上陸の後、クレムリン(大統領府)にアクセスを持つ人物の来訪を受け、「ロシアは尖閣、竹島で好意的中立だ。そのことを日本はわかっているのか」と言われたという。佐藤氏はこの発言を「尖閣で発言することは、結果として中国を利することになるので避けている。東アジアで中国の影響力が拡大することを阻止したいからだ」と読む。産経の記事は、続けて次のように書いている。「実際、プーチン大統領は昨年12月26日の安倍晋三首相誕生に際し、直ちに祝電を送り、アジア太平洋地域の安定と安全保障のために日露関係を発展させていく意向を示した。28日には電話会談も行った。ロシアの対日アプローチの要因となっているのが天然ガスだ。NIC報告書は、米国がシェールガスの生産により輸出国になる可能性を指摘している。天然ガス輸出国のロシアも大きく影響を受ける」と。そして、「米国が海外から手を引くのか。ロシアも読めない。そこで安定的なエネルギーの供給先として日本を考えている。対中牽制(けんせい)にもなる」と佐藤氏の言葉を伝えている。木村汎氏、山田吉彦氏の見解と合わせて、よく参考にすべき発言である。
 安倍首相には、この好機を対露外交の打開に生かしてもらいたいものである。
 以下は、山田氏の記事及び米国のシェールガスに関する記事。

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●産経新聞 平成24年11月1日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121101/plc12110108160004-n1.htm
【40×40】
北方領土交渉に力を入れるのは今だ 山田吉彦
2012.11.1 08:16

 先日、札幌で北方領土出身者とその家族の方々と話す機会があった。残念ながら悲観的な考えが主流になっている。政府、外務省や北方領土問題の評論家たちの多くは、今は動かずに耐える時期だと言うが、それでは北方領土返還運動を進める意味がわからないと彼らは言う。
 評論家たちの議論は、相変わらず、2島先行返還論と4島一括返還論にわかれ平行線をたどったままだ。両陣営ともサンフランシスコ平和条約における千島諸島の範囲やその後のロシアの要人の発言を解説するだけで、現実的な解決策を示す者はいない。結局、両陣営とも日露の話し合いが重要だ、という落としどころとなる。いったい何年、話し合いをすれば解決するというのか。ロシア側の発言は、ころころと変わる。1998年の橋本・エリツィンによる川奈会談も2001年の森・プーチンのイルクーツク声明も昔話ではないだろうか。その間に世の中は明らかに変わっている。しかも、ロシアにおける市場経済化は進み、政治体制も民主化が進みプーチン大統領の一言で北方領土問題が解決するわけではない。現実的な北方領土返還交渉が求められる。
 ロシアは、サハリンのガス田開発に意欲を見せている。しかし、この事業も前途多難だ。米国を中心に開発が進められてきたシェールガスが普及することで、サハリンのガスの魅力は激減することだろう。ロシアは、シェールガスが一般化する前に、サハリンの利益を獲得しなければならない。ロシアにとっても時間的な余裕はないのである。しかし、サハリンのガスを量産するためには、液化天然ガス(LNG)プラントを増設する必要がある。だが、LNGプラントを造るには1兆円ほどの費用が必要なのである。外資を導入しなければならない。答えは見えている。サハリンガス田開発はガスの売却先も含め、日本を抜きにしては考えられないのである。
 また、ロシアは北極海を船で通過する「北極海航路」を推進している。この航路の開発には、基点海域にある日本の協力が不可欠だ。日本は、自虐史観を捨て、あらたな交渉の材料を用意し、日露関係の将来を見据えた北方領土返還交渉に臨まなければならない。交渉に力を入れる時期は今だ。(東海大教授)

●産経新聞 平成24年11月13日

世界のエネルギー市場で増す米の存在感、最大産油国へ
2012.11.13 18:08

 【ワシントン=柿内公輔】世界のエネルギー市場で米国の存在感が増している。世界で従来型の原油生産が停滞する一方、シェール層のオイルやガスの開発ブームにわく米国は近く世界最大の産油国にのし上がる見通しで、米国の「エネルギー革命」が世界のエネルギー需給や経済活動にインパクトを与えそうだ。
 国際エネルギー機関(IEA)が発表した2012年版の「世界エネルギー展望」によると、米国の11年の産油量は日量810万バレルだが、20年には1110万バレルまで拡大し、20年代半ばまでにはサウジアラビアを抜き世界最大となる見通しだ。ガス生産でも米国は15年にロシアを上回り世界最大になるとみている。
 米国のエネルギー生産を押し上げる原動力が、地中岩盤のシェール層に含まれるガスやオイルの開発だ。IEAの予測では、シェールオイルなど「非在来型」原油の生産量は35年に現在の4倍近くに達する。同年までに米国は必要なエネルギーのほとんどを自給できるようになるという。
 最近の技術革新により可能になったシェールガス・オイルの開発拡大で、米国は石油の中東依存度(輸入量の約2割)を引き下げる安全保障面での効果が期待できる。また、生産コストの低下が米企業の競争力に結びつき、オバマ政権の再選の土台となった「製造業の復活」も支えることになる。
 影響は米国内にとどまらない。IEAによると、35年時点の世界の石油需要見通しは11年比14%増の日量9970万バレルに達する。中国やインドなど新興国での自動車の普及などが「予想以上に需要を押し上げる」とみているためだ。
 その供給元と期待されるのが米国産資源で、米民間機関の調査によると、20年にも液化天然ガス(LNG)など液体化石燃料の純輸出額が純輸入額を上回るとの試算もある。IEAのファンデルフーフェン事務局長も「世界のエネルギーの構図は塗り替えられつつある」と指摘する。
 エネルギー安全保障の観点から米国はエネルギー輸出を制限してきたが、風向きに変化も見える。目下の焦点は自由貿易協定(FTA)加盟国に原則限るLNG輸出を、再選を果たしたオバマ政権が緩和するかどうか。原子力利用の停滞に加え、中東への石油依存を減らしたい日本など各国にも気がかりなところだ。
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