8月30日~9月3日、インドのナレンドラ・モディ首相が来日し、安倍首相と会談して共同声明を発表した。名宰相マンモハン・シン氏の時代に築いた基礎の上に、日印関係の強化がさらに進んだことを歓迎したい。
インドでは、国民会議派を中心としマンモハン・シン前首相が率いた政権が経済低迷を打開できず、また汚職・腐敗に有効な手を打てないことによって国民の支持を失い、本年5月の総選挙で最大野党のインド人民党(BJP)が勝利し、10年ぶりに政権交代が起こった。モディはグジャラート州首相から、インド国の首相に就任した。モディ首相は、ヒンズー至上主義団体のRSS(民族義勇団)メンバーで反イスラム的言動でも知られ、イスラム教徒襲撃を黙認したとして批判されている。
モディ首相は主要国への初訪問先を日本にした。来日前、このことについて、「インドの外交と経済開発での日本の重要性を認識し、ルック・イースト政策の中心に日本がある」ためだと強調した。
安倍晋三首相は9月1日、モディ首相と会談した。シン前首相との会談の成果をさらに発展させる有意義なものとなった。
安全保障面では両国の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)の設置検討で合意し、海上交通路(シーレーン)の安全確保に向けた海上自衛隊とインド海軍の共同訓練の定期化でも一致した。安保協力は、海洋進出の動きを強めている中国を牽制(けんせい)するのが双方の狙いである。安倍首相は、集団的自衛権行使を限定容認する憲法解釈変更の閣議決定について、モディ首相から支持を得た。会談で安倍首相は「アジアの2大民主主義国である日印の関係は最も可能性を秘めている」と指摘し、モディ首相も「インド外交では日本が一番高い位置付けだ」と応じた。
経済分野では日印投資促進パートナーシップを立ち上げ、対印の直接投資額と日本企業数を5年間で倍増させる目標を決定した。インドからのレアアース(希土類)輸入を早期に実現することでも合意した。安倍首相は、日本企業の投資を促す環境整備を要請した。またインド西部の高速鉄道計画に関し、日本の新幹線技術を供与する用意があることを表明し、モディ氏は謝意を伝えた。
共同声明には両国関係について「特別な戦略的パートナーシップ」との文言が盛り込まれ、連携強化を印象づけた。なかでも、安全保障面での協力強化は、非常に大きな意味を持っている。外務・防衛閣僚協議設置の検討で合意したのは、海洋進出を進める中国を牽制し、シーレーンを守る狙いがある。この点に関し、9月2日付の産経新聞で、山本雄史記者は、次のように書いている。
「安倍首相は海洋安全保障強化を図るため、日本とハワイ(米国)、オーストラリア、インドの4カ所をひし形に結ぶ「安全保障ダイヤモンド構想」を提唱しており、今回の会談は構想実現に向けた大きな一歩となった」「中国は、バングラデシュやスリランカなどインド周辺国への支援を通じてインドを包囲する「真珠の首飾り戦略」を進めており、首相はダイヤモンド構想が中国と隣接するインドにとってもメリットがあると踏んでいた。ただ、インドは伝統的に「非同盟」の外交路線を取っており、特定の国との強い結びつきには慎重な面がある。そこで首相はかねて親交があり、経済政策でも共通点が多いモディ氏との個人的な信頼関係を活用し、インドを日本の安保戦略に引き込んだ」と。
共同声明には「特別な戦略的パートナーシップ」との文言が盛り込まれたが、この文言は7月の日豪首脳共同声明でも使われている。同盟国である米国を中心に、ベトナム、フィリピン等との安保協力を進めてきたわが国は、豪印両国との連携も進み、ダイヤモンド構想は完成に近づいていると見られる。
安倍首相は、東京裁判で判事を務め、被告全員の無罪を訴えたパール判事を尊敬している。第1次政権時代の平成19年8月にインドを訪問した際には、東京裁判で判事を務め、被告全員の無罪を訴えたパール判事の長男、プロシャント・パール氏と面会した。モディ首相は1日夜の安倍晋三首相との夕食会で、パール判事の功績をたたえ、「インド人が日本に来てパール判事の話をすると尊敬される。自慢できることだ。パール判事が東京裁判で果たした役割はわれわれも忘れていない」と述べた。
またモディ首相は、日本滞在中、第二次大戦のインパール作戦に従事して、インド国軍の創始者ネタジ・チャンドラ・ボースと共にイギリス軍と戦った99歳の日本兵、三隅(みすみ)佐一郎氏と面会した。モディ氏は、その日本人男性に、インド式の最敬礼をして、敬意を表した。この面会は、インド紙が大々的に報道したことで、日本でも知られる至ったが、わが国のマスメディアは、ほとんど報じることがなかった。
http://bakankokunews.blog.fc2.com/blog-entry-3145.html#OottLct.twitter_tweet_count_m
インドは、戦前、戦後、そして今も、一貫して重要な親日国である。インドの経済成長とともに、その重要性は、今後ますます大きくなっていく。今回の安倍=モディ共同声明が日印関係の一層の発展を軌道に乗せたことを喜びたい。
以下は関連する報道記事。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ー
●産経新聞 平成26年9月2日
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140902/plc14090200220002-n1.htm
日印共同声明の骨子
2014.9.2 00:22
「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップに関する東京宣言」(骨子)
【政治、安全保障】
・年次首脳会談の継続、外務・防衛閣僚協議(2プラス2)の設置を検討、外相間戦略対話と防衛相会談の年内実施
・海上共同訓練の定期化、印米海上共同訓練への日本の継続的参加
・防衛装備協力の推進を目的とした事務レベル協議の開始
・海上自衛隊の救難飛行艇「US2」の輸出交渉加速
・原子力協定交渉の進展を歓迎
【地域、世界平和】
・日本の積極的平和主義を支持
・日米印外相会合の開催
・北朝鮮による核・ミサイル問題への懸念を表明
・国連安保理改革で連携
【経済】
・日印投資促進パートナーシップの立ち上げ。対印の直接投資額、日本企業数を5年間で倍増。5年間で官民合わせて約3・5兆円の対印投融資。インドのインフラ金融公社に500億円の円借款供与
・日本へのレアアース(希土類)輸出の早期実現
【その他】
・日印留学生数の大幅増、スポーツ交流促進
・女性政策での協力
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関連掲示
・拙稿「パール博士は「日本人よ、日本に帰れ」と訴えた」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/j-mind08.htm
目次から08へ
・拙稿「インドの独立にも日本人が貢献」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/j-mind06.htm
目次から19へ
・拙稿「インドへの協力・連携の拡大を~シン首相の国会演説と日印新時代」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12d.htm
インドでは、国民会議派を中心としマンモハン・シン前首相が率いた政権が経済低迷を打開できず、また汚職・腐敗に有効な手を打てないことによって国民の支持を失い、本年5月の総選挙で最大野党のインド人民党(BJP)が勝利し、10年ぶりに政権交代が起こった。モディはグジャラート州首相から、インド国の首相に就任した。モディ首相は、ヒンズー至上主義団体のRSS(民族義勇団)メンバーで反イスラム的言動でも知られ、イスラム教徒襲撃を黙認したとして批判されている。
モディ首相は主要国への初訪問先を日本にした。来日前、このことについて、「インドの外交と経済開発での日本の重要性を認識し、ルック・イースト政策の中心に日本がある」ためだと強調した。
安倍晋三首相は9月1日、モディ首相と会談した。シン前首相との会談の成果をさらに発展させる有意義なものとなった。
安全保障面では両国の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)の設置検討で合意し、海上交通路(シーレーン)の安全確保に向けた海上自衛隊とインド海軍の共同訓練の定期化でも一致した。安保協力は、海洋進出の動きを強めている中国を牽制(けんせい)するのが双方の狙いである。安倍首相は、集団的自衛権行使を限定容認する憲法解釈変更の閣議決定について、モディ首相から支持を得た。会談で安倍首相は「アジアの2大民主主義国である日印の関係は最も可能性を秘めている」と指摘し、モディ首相も「インド外交では日本が一番高い位置付けだ」と応じた。
経済分野では日印投資促進パートナーシップを立ち上げ、対印の直接投資額と日本企業数を5年間で倍増させる目標を決定した。インドからのレアアース(希土類)輸入を早期に実現することでも合意した。安倍首相は、日本企業の投資を促す環境整備を要請した。またインド西部の高速鉄道計画に関し、日本の新幹線技術を供与する用意があることを表明し、モディ氏は謝意を伝えた。
共同声明には両国関係について「特別な戦略的パートナーシップ」との文言が盛り込まれ、連携強化を印象づけた。なかでも、安全保障面での協力強化は、非常に大きな意味を持っている。外務・防衛閣僚協議設置の検討で合意したのは、海洋進出を進める中国を牽制し、シーレーンを守る狙いがある。この点に関し、9月2日付の産経新聞で、山本雄史記者は、次のように書いている。
「安倍首相は海洋安全保障強化を図るため、日本とハワイ(米国)、オーストラリア、インドの4カ所をひし形に結ぶ「安全保障ダイヤモンド構想」を提唱しており、今回の会談は構想実現に向けた大きな一歩となった」「中国は、バングラデシュやスリランカなどインド周辺国への支援を通じてインドを包囲する「真珠の首飾り戦略」を進めており、首相はダイヤモンド構想が中国と隣接するインドにとってもメリットがあると踏んでいた。ただ、インドは伝統的に「非同盟」の外交路線を取っており、特定の国との強い結びつきには慎重な面がある。そこで首相はかねて親交があり、経済政策でも共通点が多いモディ氏との個人的な信頼関係を活用し、インドを日本の安保戦略に引き込んだ」と。
共同声明には「特別な戦略的パートナーシップ」との文言が盛り込まれたが、この文言は7月の日豪首脳共同声明でも使われている。同盟国である米国を中心に、ベトナム、フィリピン等との安保協力を進めてきたわが国は、豪印両国との連携も進み、ダイヤモンド構想は完成に近づいていると見られる。
安倍首相は、東京裁判で判事を務め、被告全員の無罪を訴えたパール判事を尊敬している。第1次政権時代の平成19年8月にインドを訪問した際には、東京裁判で判事を務め、被告全員の無罪を訴えたパール判事の長男、プロシャント・パール氏と面会した。モディ首相は1日夜の安倍晋三首相との夕食会で、パール判事の功績をたたえ、「インド人が日本に来てパール判事の話をすると尊敬される。自慢できることだ。パール判事が東京裁判で果たした役割はわれわれも忘れていない」と述べた。
またモディ首相は、日本滞在中、第二次大戦のインパール作戦に従事して、インド国軍の創始者ネタジ・チャンドラ・ボースと共にイギリス軍と戦った99歳の日本兵、三隅(みすみ)佐一郎氏と面会した。モディ氏は、その日本人男性に、インド式の最敬礼をして、敬意を表した。この面会は、インド紙が大々的に報道したことで、日本でも知られる至ったが、わが国のマスメディアは、ほとんど報じることがなかった。
http://bakankokunews.blog.fc2.com/blog-entry-3145.html#OottLct.twitter_tweet_count_m
インドは、戦前、戦後、そして今も、一貫して重要な親日国である。インドの経済成長とともに、その重要性は、今後ますます大きくなっていく。今回の安倍=モディ共同声明が日印関係の一層の発展を軌道に乗せたことを喜びたい。
以下は関連する報道記事。
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●産経新聞 平成26年9月2日
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140902/plc14090200220002-n1.htm
日印共同声明の骨子
2014.9.2 00:22
「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップに関する東京宣言」(骨子)
【政治、安全保障】
・年次首脳会談の継続、外務・防衛閣僚協議(2プラス2)の設置を検討、外相間戦略対話と防衛相会談の年内実施
・海上共同訓練の定期化、印米海上共同訓練への日本の継続的参加
・防衛装備協力の推進を目的とした事務レベル協議の開始
・海上自衛隊の救難飛行艇「US2」の輸出交渉加速
・原子力協定交渉の進展を歓迎
【地域、世界平和】
・日本の積極的平和主義を支持
・日米印外相会合の開催
・北朝鮮による核・ミサイル問題への懸念を表明
・国連安保理改革で連携
【経済】
・日印投資促進パートナーシップの立ち上げ。対印の直接投資額、日本企業数を5年間で倍増。5年間で官民合わせて約3・5兆円の対印投融資。インドのインフラ金融公社に500億円の円借款供与
・日本へのレアアース(希土類)輸出の早期実現
【その他】
・日印留学生数の大幅増、スポーツ交流促進
・女性政策での協力
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関連掲示
・拙稿「パール博士は「日本人よ、日本に帰れ」と訴えた」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/j-mind08.htm
目次から08へ
・拙稿「インドの独立にも日本人が貢献」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/j-mind06.htm
目次から19へ
・拙稿「インドへの協力・連携の拡大を~シン首相の国会演説と日印新時代」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12d.htm