ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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現代世界史44~科学と宗教の融合

2014-09-17 06:28:34 | 現代世界史
●科学と宗教が融合する時代へ

 第2次世界大戦後の現代世界において、西欧発の近代化革命が、地球規模で加速度的に進行している。
 近代化革命」つまり近代化の過程は、科学の発達と宗教の後退の歴史だった。西欧では15世紀以降、「呪術の追放」によって宗教が合理化され、17世紀の科学革命によって合理主義が進展した。18世紀以降、啓蒙主義の高揚が人知への過信をもたらした。その結果、西欧人の多くは神を見失った。その影響で、人類の多くが神を見失った。神といっても、聖書の物語の中に描かれている神ではない。真の神とは、宇宙・自然・生命・精神を貫く法則であり、万有顕現の原動力のことである。現代人は、こうした意味の神を見失い、自らが神に成り代わったかのように錯覚している。宗教はますます後退し、精神性・霊性は、物質的な享楽の中に埋没しかかっている。西欧を中心として世界的に、近代化革命の進展とともに「脱宗教化=世俗化」とニヒリズムが広がっている。
 ところが驚くべきことに、20世紀に入って以降、科学の側から、この展開を逆転させる動きが現れている。科学の先端において、精神性・霊性への関心が高まってきている。科学の時代から精神の時代へ、あるいは物質科学文化の時代から精神科学文化の時代への転換ともいえるような、巨大なパラダイム・シフトが起こりつつある。
 20世紀の新しい物理学、量子力学や相対性理論によって、物理学ではパラダイム・シフトが始まっている。そのことを明らかにした物理学者の一人が、フリッチョフ・カプラである。カプラは、名著『ターニング・ポイント』(1984年)で、次のように書いている。
 「現代物理学から生まれつつある世界観は、機械論的なデカルトの世界観とは対照的に、有機的なホリスティック(全包括的)な、そしてまたエコロジカル(生態学的)な世界を特徴としている。それはまた、一般システム論という意味で、システム的世界観と呼ぶこともできる。そこではもはや、世界は多数の物体からなる機械とは見なされていない。世界は不可分でダイナミックな全体であり、その部分は本質的な相互関係を持ち、宇宙的過程のパターンとしてのみ理解できるとする」
 カプラは、現代物理学の世界観が、東洋に伝わる伝統的な世界観に非常によく似ていることを発見した。『老子』や『易経』や仏典に表わされている宇宙の姿と、量子力学や相対性理論が描く世界像とが近似しているという。このことをカプラは、『物理学の道(タオ)』(1975年、邦題『タオ自然学』)という本で発表し、世界的に話題を呼んだ。
 これは決してカプラ個人の見方ではない。20世紀の名だたる物理学者たち、不確定性原理のウェルナー・ハイゼンベルグや波動方程式のエルヴィン・シュレーディンガーが、かつては単なる神秘思想と思われていたインド哲学に深い関心を持ち、コペンハーゲン解釈のニールス・ボーアは晩年シナの易学の研究に没頭した。カプラの師、ジェフリー・チューは自分の靴ひも理論が大乗仏典の内容とそっくりなことに驚愕している。
 カプラは言う。「東洋思想がきわめて多くの人々の関心を呼び起こしはじめ、瞑想がもはや嘲笑や疑いを持って見られなくなるに従い、神秘主義は科学界においてさえ、真面目にとりあげられるようになってきている。そして神秘思想は現代科学の理論に一貫性のある適切な哲学的裏付けを与えるものという認識に立つ科学者が、その数を増しつつある。人類の科学的発見は、人類の精神的目的や宗教的信条と完全に調和しうる、という世界観である」(『ターニング・ポイント』)
 こうしてカプラは、科学と宗教とが調和・融合する新しい時代の到来を、世界の人々に伝えている。

●「心のアポロ計画」を推進する

 大脳生理学者・カール・プリブラムも、次のように語っている。
 「従来の科学は、宗教で扱う人類の精神的側面とは相容れないものだった。いま、これが大きく変わろうとしている。21世紀は科学と宗教が一つとして研究されるだろう。このことはあらゆる面でわれわれの生き方に重大な影響を及ぼすだろう」(プリブラム他著『科学と意識』)
 科学と宗教が一つのものとして研究され、それが私たちの生活に大きな影響をもたらすーーこうしたことを唱えているのは、カプラやプリブラムだけに止まらない。物理学や生物学や認知科学など、さまざまな分野の科学者が、科学と宗教の一致を語っている。
 われわれは、科学と宗教が分離し対立した近代を経て、改めて科学と宗教がより高い次元で融合すべき新しい段階に入っているのである。
 ここにおいて、再評価されつつあるのが、宗教の存在と役割である。
 カプラは、次のように書いている。「われわれが豊かな人間性を回復するには、われわれが宇宙と、そして生ける自然のすべてと結びついているという体験を回復しなければならない。宗教(religion)の語源であるラテン語のreligareはこの再結合を意味しており、それはまさに精神性の本質であるように見える」と。(『ターニング・ポイント』)
 まさしく、われわれは、科学の時代から精神の時代、物質科学文化の時代から精神科学文化の時代への転換期にある。この時代の方向指示者の一人として、数理科学者のピーター・ラッセルは、「心のアポロ計画」という注目すべき提案をしている。ラッセルは、名著『ホワイトホール・イン・タイム』(1992年)で、次のように言う。
 「今日、人類はまっさかさまに破局へ突っ込んでいく事態に直面している。もし本当に生き残りたかったら、そして私たちの子供や、子供の子供たちに生き残ってほしかったら、意識を向上させる仕事に、心を注ぐことこそが最も大切なことである。破壊的な自己中心主義から人類を解き放つための全世界的な努力だけが必要である。つまり、人類を導くための地球規模のプログラム、”心のアポロ計画”が要求されているのである」
 アポロ計画とは、1960年代に宇宙時代を切り拓いた米国の宇宙開発計画である。それは、物質科学文明のピークを歴史に刻んだ。人類が月に着陸し、月面から撮った宇宙空間に浮かぶ地球の写真は、人々に地球意識を呼び起した。これに比し、「心のアポロ計画」は、この宇宙時代にふさわしい精神的進化を追及するプロジェクトである。
 このプロジェクトでは、心理的な成熟や内面の覚醒を促す技術の研究開発に焦点が当てられる。そこに含まれるテーマは、次のようなものである。

◆神経科学と心理学に焦点を当て、心の本質を理解する。
◆自己中心主義の根拠をもっと深く研究する。
◆霊性開発のための現在ある方法を全世界的に調査する。
◆新しい方法を探すとともに、現在ある方法の協同化を進め、発見されたものの応用と普及を図る

 提唱者ラッセルによると、この計画に巨額な資金は必要としない。
 「毎年全世界が“防衛”に費やしている1兆ドルの1パーセント足らずで、すべてがうまくいくはずである」とラッセルは言っている。
 私はこの「心のアポロ計画」に賛同する者である。世界の有識者は、早急にこの精神科学発達プログラムを促進すべきである。だが、ラッセルが「心のアポロ計画」を提唱してから、既に20年以上経っているが、世界規模での具体的な取り組みはされていない。国連等の国際機関で、すみやかにその取り組みを開始すべきである。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「“心の近代化”と新しい精神文化の興隆~ウェーバー・ユング・トランスパーソナルの先へ」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09b.htm