ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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買ってはいけない、投資商品  その2 つづき

2011年05月23日 | 資産運用 
 前回は、絶対に買ってはいけない商品として、EB債と呼ばれる債券の名を借りた株投資の紹介をしました。この悪質な商品は、株なら値上がりもしますが、値下がりしかしません。実はこの商品の仕掛けは、購入する投資家が「プット・オプションを売る」というリスクを取る商品で、(オプションの説明に入ると複雑になるためそれは避けます)複雑系商品のはしりです。こうした商品は、為替の変動が絡んでくるようなものもあります。

円ドルの例
一口;10,000円
発行体;ソブリン(政府)より格の高い国際機関(発行体AAA格)
期間;2年
金利;年2%
償還;現在85円の円ドルレートが2年の期間中、一瞬でも東京外為市場で75円を割り込まなければそのまま10,000円を償還。もし一瞬でも割り込んだら、償還は円でなく、あらかじめ決められた米ドルが支払われる。

購入時に決めたドル額をそのままもらうことになるため、円に換算すれば85円だったのに75円分あるいはそれ以下しか戻ってこない。このような仕組みを専門家はノックアウト・オプションなどと呼びます。客を一撃でノックアウトする商品なのでこう呼びます。債券の名をかたる、外為投機商品です。

 同様な商品で、看板に偽りのある商品としては「仕組み預金」があります。上記のようなノックアウト・オプションに代表される「トンデモ商品」を「預金」と言う名前で売るものです。債券型の商品と構造・リスクは全くおなじですが、債券といわれると自らの判断で「買う、買わない」という感覚を持てますが、「預金」と名前が付くだけでリスクの判断がスッと鈍るのを利用した超悪質商品です。その昔、多くの人が引っかかった「変額保険」という名の株式ファンドと同様のオブラートでくるんだ詐欺的商品です。

最近はネットバンキングがはやり、便利に使われている方も多いと思いますが、どの銀行のサイトにいってもこうした仕組み商品のオンパレード。そして銀行から毎日送られてくる電子メールも手を替え品を替え、罠を仕掛けています。みなさん、金利に騙されて、このようなわけのわからない商品には、絶対に手を出さないでください。実は、売り手はどうなっても負けることのないような仕組みになっていて、ひたすら手数料を稼ぐのです。その仕組みの解説は複雑になるのでここでは避けますが、基本はあのEB債で使われた原理と同じような原理です。くれぐれも騙されないようにしてください。

前に紹介したハイ・イールド債なら、大きな資産を有する方が相場を張る気なら勝負する余地はありますが、EB債に代表されるような「説明を要する」商品のほとんど全部が詐欺に近い商品と思って間違いありません。

銀行の辞書にも、『良心』という言葉などない。

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買ってはいけない、投資商品  その2

2011年05月21日 | 資産運用 
その2 他社株転換社債、EB

 前の例は、内容を理解するのに苦心惨憺するような商品、ハイイールド債の通貨選択型などを、高齢者に売るのはけしからん、というお話を書きました。それでも経済的に余裕があり、手数料がとんでもなく高いことを知りながら、あえてジャンクのリスクを取って勝負をする若い方を止めるまではしません。
 しかし、私がこれだけは絶対に許せない、と思った最悪商品をもう一つ紹介します。実際に老若男女が大量に騙された大ヒット商品、他社株転換社債(EB債、Exchangeable Bond)です。

内容例
一口;10,000円
発行体;ソブリンより格の高い国際機関(発行体AAA格)
期間;2年
金利;年2%
償還条件;現在2,700円のソニーの株価が、2年後に2,500円を上回っていたら、現金10,000円をそのまま償還。もし下回っていたら、ソニーの現物株式で2,500円に対して1万円分相当の4株を償還。(4株は固定され、たとえ半値になっていても、4株だけの償還です)

この商品の特徴は、一見するとみかけは素晴らしいのです。
1. 発行体のリスクは日本国より安全な国際機関
2. 転換される株式は、日本を代表するソニー
3. 金利は年に2%と、大手銀行の2年もの定期預金の30倍と有利


みなさん、投資しませんか?
絶対にしちゃだめですよ。

 これをボンド(債券)と呼ぶこと自体、詐称です。買った人は株の値下がりリスクはゼロになるまですべて取らされ、値上がりは株価が倍になっても、決まった金利の2%のリターンしか得られない、片務もはなはだしい商品です。

 実際にこの商品は2000年前後からこの程度の利回り条件でたぶん数千億円、あるいは兆円単位で発行されました。仕組んだのは最大手から、中小証券まで数知れません。2001年当時、私の知合いの会社経営者(かなりの資産家です)から、「今度これを買おうと思っているんだけど、どうかね」とパンフレットを片手に相談を受けました。私はただちに却下。儲けが最大2%で、損失は計り知れず、ソニーが倒産すれば最悪ゼロ。たった2%の金利でこんなひどいリスクを取るなど正気の沙汰ではないとアドバイスしました。
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買ってはいけない、投資商品  その1 つづき

2011年05月20日 | 資産運用 

 このお粗末な投資のノウハウに、なんと当初買うだけで5%もの手数料が払われ、しかもこの先毎年0.8%ほどの信託報酬が取られます。買っただけでトータル5%とは、たいした信託報酬です。日本国債でいえば、5年分のすべての利子分を瞬時に取られるのです。複雑になればなるほど多数の関係者が介在して手数料を取りまくり、しかも何の手数料なのか、そのレベルは適切なのか、判断のしようがないのがこうした商品です。

 みなさんこうした商品の中身、しっかり理解できますか?私のようなプロでも、パンフレットをみただけでは理解できず、販売している証券会社に問い合わせをして、本当の姿がやっとわかる商品です。しっかりしているとはいえ、80歳を超えた方が、理解できるとは全く思えません。私が「なんでこんな複雑でリスクの高いジャンクボンド投信を80歳を超えた方に売るのか」と聞くと、証券レディーは、「ちゃんと説明しました」とのこと。ぜんぜん答えになっていません。儲けたいからとは決して言わないし(笑)、『理解していただきました』とも決して言いません。証券会社は顧客が理解なんかしなくとも、説明したことだけですべてが免責されるのです。説明を聞いた、という書面にサインをさせられ、それがすべてに優る免罪符です。

 ジャンクボンドの投信を一人暮らしの高齢者に売りつけることがファイナンシャル・アドバイザーの肩書きを持つ証券レディーの適切なアドバイスなのでしょうか。私なら良心の呵責に耐えられません。書いているうちに腹が立ってきて、すっかりN証の悪口になってしまいました。

 今はやりの毎月分配型に関するパフォーマンスの検証をしている記事がありましたので、おしらせしておきます。ちょっと古いですが、10年11月のニュースです。それまでの1年間に日本で設定された毎月配当型商品のなんと90%が、元本割れになっていてそれでも懲りずに毎月の配当を続けているというニュースです。投信評価では世界的に定評のあるモーニング・スター社が分析しています。買った瞬間に払った5%の手数料は考慮されていないでこの始末です。

どうしても毎月分配が欲しい方へのアドバイスは、
「自分で自分に配当しなさい!」、手数料分、確実に得します(笑)
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買ってはいけない、投資商品  その1つづき

2011年05月19日 | 資産運用 

さて、Nグローバル・ハイ・イールド債券投信(バスケット通貨選択型)の投資対象は、実は全部ドル建て債券であることがわかりました。それは当然といえば当然なのです。実は債券の世界は非常に通貨限定的で、かつ厳密な市場秩序により成立しているのです。

 市場秩序とは発行体の種類で言うと上から国際機関・政府・企業などとなります。最上級の国際機関は世界銀行(World Bank)や、欧州復興開発銀行(European Bank for Reconstruction and Development)、アジア開銀(Asian development Bank)などの国際機関です。これらの発行体も流動性の高いドル建債券は多く発行しています。

 発行体の格付けで言えば最上級のAAAからジャンクに至るまでの序列です。発行にあたり選択される通貨のほとんどはドル建で、ユーロ建がそれに続きますが、円建ては隅っこでニッチな存在でしかありません。何故かと言えば、債券の投資家は「流動性」に欠ける通貨を選好しないからです。今でこそブラジルのレアルやインドのルピーは注目されていますが、一端国際市場が荒れ始めると、取引がなくなる事態に陥ります。このブログの初めのほうで触れたように、投資とは「流動性」(売りたいときに売れるか)がすべてなのです。従って、ブラジルの発行体であろうが、インドの発行体であろうが、債券の発行通貨は実は投資家が買ってくれるドルがほとんどなのです。

 では、資金調達をする発行体は必要な通貨をどうして手に入れるのでしょうか。例えばロシアの企業がルーブルを調達するのにロシアでは有力な投資家がいない。そこでユーロ市場に打って出ます。この場合のユーロ市場は「通貨のユーロ」ではなく、ユーロ・ダラーなどに使われる「市場のユーロ」の意味です。

 投資家ニーズからまずドル債を発行し、通貨スワップという通貨交換手法によりルーブルを手に入れます。それを繋ぐのが国際的に業務を展開している銀行もしくは投資銀行です。そうした国際業務を展開したいがために巨大銀行はBISの基準、コアの自己資本比率8%から10%を常に保つ努力をしています。発行・利払い・償還のすべてをスワップ契約し、ルーブルとドルの交換を何年・何十年にもわたり継続実行するのです。

 「スワップ」という手法こそが現代ファイナンスの根幹をなす最重要手法です。鉄が「産業のコメ」ならスワップは「金融のコメ」です。これを説明すると一冊の本になってしまうため、ここでは省略します。ただ、債券の発行通貨はほとんどがドル建て、つまり信用力と流動性のあるハードカレンシーと呼ばれるドルであること、それをスワップすることで発行体は必要通貨を手に入れることをご記憶ください。

 このNグローバル・ハイ・イールド債券投信(バスケット通貨選択型)の実際の投資対象はドル債のみで11年8月現在1,003銘柄になっているそうです。そこまで拡げる理由は発行体リスクが高いため、分散投資をしているとの説明でした。1,000銘柄といえば、ドル建てのジャンクボンドを少しずつほとんど全部買えば達成可能で、その中に勝つための投資判断があるとは全く思えません。債券ファンド運用シロウトの私でも簡単にできることです。分散という理屈はあのサブプライムの手法と同じで、一つの発行体リスクは高いが、多数になればリスクは低くなるハズという論理で、ついこの間サブプライムで破綻しました。その教訓はどこへいったのでしょうか。
つづく
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買ってはいけない、投資商品  その1

2011年05月17日 | 資産運用 
これから、ファンドの3つのうたい文句を検証してみましょう。

1. 世界のハイイールド債券に投資(注;分散をしている)

ハイイールド債とは何でしょうか?
答えは「投資不適格債」、つまり業界で言う「ジャンクボンド」です。投資適格債とは格付けでトリプルB以上を言いますが、この投信は投資不適格なダブルB以下の債券に賭け金を張るギャンブルです。金融資産が数億円あり、数千万円くらいならギャンブルしてもいい、と言う方ならわかりますが、80歳を越えて年金で生活されている方にインカムゲイン型(毎月配分がある)としてジャンクボンドを勧めるのは言語道断です。ちなみに「ハイイールド」などという言葉は、「ジャンク」を取り繕うために投資銀行が作ったオブラートです。

Q;投資適格って、誰がきめているの?
A;格付機関は格付け(AAやBBBなどのレーティング)を決めるだけです。投資適格というのは、アメリカの機関投資家団体が、BBB格以上を投資適格(Investment Grade)と称して、自分たちの自己規制に使っている言葉です。

さて、うたい文句の1.には下の注書きがあります。
* 世界のハイイールド債券への投資は、円建ての外国投資信託である「N・マルチ・マネージャーズ・ファンド=グローバル・ハイイールド・ボンドを通じて行います。」
いったい何を言いたいのかよくわかりませんよね。趣旨は、この投信の運用の主体としてパンフレットに書いてある「Nアセットマネジメント」には投資ノウハウがないので、「N・マルチ・・・」に任せますということです。

ここでの注目点は3つ
注目点① N・アセットと・・・カタカナ表示のN・マルチの2社が噛んでいて、運用報酬を両者が得ている2重取りであること。(厳密には販売会社のN証券を含め、3重取り)
注目点② お題目で世界のハイイールド通貨選択型と言っておきながら、実際の投資は円建ての外国投資信託を通じているファンド・オブ・ファンズ(注)であること。 ファンド・オブ・ファンズとは、自分が運用するファンドでなく、投資対象を他社の運営するファンドとするファンドで、ファンド選択のノウハウを売り物にしています。手数料はいうまでもなく、他社と自社の2重取りされます。

注目点③ N證券に実際の運用対象債券を私が確認したところ、実は円建てではなくすべてドル建て債券への投資であること。看板に偽りあり。

通貨選択型とは、様々な通貨建ての債券に投資するのではなく、ドルに対する高金利通貨の為替プレミアムを利用した運用であることが判明しました。

といってもこの説明では多くの方には何がなんだかわからないと思います。要はカモフラージュをほどこしたドル債のジャンクボンドへの投資なのです。

つづく


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