新しいシリーズ、「日銀に明日はあるか」を始めます。今後の日本を考える上で、金融政策と財政政策が大きな要素ですが、まずは金融政策からです。
8月10日のブログのタイトルは、「日銀包囲網」でした。内容は、日銀の金融政策の限界と副作用の大きさにより、これまで日銀を支持してきた金融界、金融アナリストやエコノミスト、そして驚くことに日銀内部や政府内にすら政策に疑問を持つ人たちが現われ、声を上げ始めているというものでした。
特に三菱UFJ銀行による国債引き受けのプライマリー・ディーラーの資格返上は、財務省から「裏切り者」という声が上がるほど衝撃的だったと報道されていたことを書きました。
私からみれば三菱銀行の決断はあまりにも当然のことだと思います。損失が確定するマイナス金利国債の強制買い取りは、まるで戦時国債の強制割り当てを思い起こさせるもので、自由主義社会ではあるまじき「財務省と中央銀行の暴挙」だからです。
日本の株主は株主の権利が侵害されていることに対して鈍感すぎます。会社が株主に損失を与える行為をすれば、株主が訴えるのは当然ですが、それをしません。そして金融庁が銀行の生殺与奪を握っているため、経営側は目をつぶって従うしかないというのは、これもまっとうな資本主義社会とは思えません。この国では依然としてコンプライアンスとかガバナンスはないに等しく、社外取締役も名ばかりで実質的な働きはしていません。
それに対し敢えて反旗を翻した三菱UFJを、称えてあげましょう。
日銀は市中銀行から反旗を翻されたり、ほかからも反対の包囲網が築かれはじめている中で、いったいいつまでこの政策を続けられるのか。異次元緩和策が奏功することはあるのか。もし奏功しない時には日本はどうなるのか。こういった問題意識を持って新たなシリーズを書いていきます。
日銀は7月末の金融政策決定会合の結果発表の中で、次回9月下旬の決定会合で金融政策の「総括的な検証」を行うと宣言し、その内容が注目を集めています。
果たして2%の物価目標をあきらめる布石を打つのか、単に達成できない言い訳をするのか。逆に無理やり成果ひねり出して自己を正当化し、これまでの政策を踏襲、あるいは強化するのか。いずれにしろ「総括的検証」という言葉が示すのは将来ではなく過去の分析のはずなのですが、彼らの、たぶんに自己防衛本能に基づく自己検証を、我々がしっかりと他己検証していきましょう。
先週末FRBのイエレン議長のジャクソンホールでのスピーチが、為替市場を若干ドル高方向に動かしました。ジャクソンホールの経済セミナーはカンザス・シティー連銀が毎年ワイオミング州のジャクソンホールという避暑地で開催するセミナーで、今年は利上げのタイミングを計る上で特に注目されました。
今回はイエレン議長の他に、日銀の黒田総裁もスピーチを行っています。 その内容が今朝の日経新聞に「ひとり総括」として紹介され、BNPパリバの河野氏が解説を付けています。内容的をかいつまんで示しますと、これまでの反省や見直しなどではぜんぜんなく、どこぞの大統領候補と同じ「オレは絶対に正しい。オレを信じてついてこい」でした。ポイントとしては、
・量的緩和(国債買い入れ)よりマイナス金利重視へシフト
・利下げの限界までにはかなり距離がある
・利下げ・量的・質的緩和の余地は十分にある
・2%の目標は堅持するが、2年で、という旗は降ろす
それに対して東短リサーチの加藤氏は以下のようにコメントしています。「マイナス金利を深堀するなら、同時に長期国債の購入を減らさないと、銀行収益への打撃が大きすぎる」。これは長期国債くらいプラスの金利を保ってあげないと、収益機会がなくなってしまうということで、だから銀行が抵抗を始めたのです。以上が記事の概要です。
総括的検証と言うからにはさらに多くの分析が示されると思いますが、私はそれらも基本的には自己弁護のための傍証の提示がメインで、これまでの路線を修正せずにさらに唯我独尊を強めるのではないかと懸念します。クロちゃんは筋金入りの強硬派、私に言わせれば「凶暴なるクロちゃん」ですから。
残念ながら今年に入ってのクロちゃんは、新たな政策を打つたびに市場からは逆襲され、円高と株安に見舞われています。そして肝心のCPIも先週発表の7月分で、総合指数が前年比マイナス0.4%、生鮮食品を除く指数も前年比でマイナス0.5%と悪化しています。今後も海外メディアから「クロちゃん、あんたは裸だよ」と言われ続けるのでしょう。
日銀包囲網を作っている中でも特に銀行界は反発を強めています。理由は今年の4-6月期の減益決算です。マイナス金利の影響により3メガバンクの収益が合計で約3千億円もの減益になったというのです。金融関連株の時価総額は東証の中でも1割と大きいため、下落のインパクトは全体の足を引っ張ります。
それをクロちゃんが株式の買い入れ額の増額で補てんしようとする。こんなことをいつまでも続けられると思っていることが大きな間違いです。
つづく