ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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日銀に明日はあるか

2016年08月30日 | 日本の金融政策

  新しいシリーズ、「日銀に明日はあるか」を始めます。今後の日本を考える上で、金融政策と財政政策が大きな要素ですが、まずは金融政策からです。

  8月10日のブログのタイトルは、「日銀包囲網」でした。内容は、日銀の金融政策の限界と副作用の大きさにより、これまで日銀を支持してきた金融界、金融アナリストやエコノミスト、そして驚くことに日銀内部や政府内にすら政策に疑問を持つ人たちが現われ、声を上げ始めているというものでした。

  特に三菱UFJ銀行による国債引き受けのプライマリー・ディーラーの資格返上は、財務省から「裏切り者」という声が上がるほど衝撃的だったと報道されていたことを書きました。

  私からみれば三菱銀行の決断はあまりにも当然のことだと思います。損失が確定するマイナス金利国債の強制買い取りは、まるで戦時国債の強制割り当てを思い起こさせるもので、自由主義社会ではあるまじき「財務省と中央銀行の暴挙」だからです。

   日本の株主は株主の権利が侵害されていることに対して鈍感すぎます。会社が株主に損失を与える行為をすれば、株主が訴えるのは当然ですが、それをしません。そして金融庁が銀行の生殺与奪を握っているため、経営側は目をつぶって従うしかないというのは、これもまっとうな資本主義社会とは思えません。この国では依然としてコンプライアンスとかガバナンスはないに等しく、社外取締役も名ばかりで実質的な働きはしていません。

   それに対し敢えて反旗を翻した三菱UFJを、称えてあげましょう。

   日銀は市中銀行から反旗を翻されたり、ほかからも反対の包囲網が築かれはじめている中で、いったいいつまでこの政策を続けられるのか。異次元緩和策が奏功することはあるのか。もし奏功しない時には日本はどうなるのか。こういった問題意識を持って新たなシリーズを書いていきます。

 

   日銀は7月末の金融政策決定会合の結果発表の中で、次回9月下旬の決定会合で金融政策の「総括的な検証」を行うと宣言し、その内容が注目を集めています。

   果たして2%の物価目標をあきらめる布石を打つのか、単に達成できない言い訳をするのか。逆に無理やり成果ひねり出して自己を正当化し、これまでの政策を踏襲、あるいは強化するのか。いずれにしろ「総括的検証」という言葉が示すのは将来ではなく過去の分析のはずなのですが、彼らの、たぶんに自己防衛本能に基づく自己検証を、我々がしっかりと他己検証していきましょう。

 

  先週末FRBのイエレン議長のジャクソンホールでのスピーチが、為替市場を若干ドル高方向に動かしました。ジャクソンホールの経済セミナーはカンザス・シティー連銀が毎年ワイオミング州のジャクソンホールという避暑地で開催するセミナーで、今年は利上げのタイミングを計る上で特に注目されました。

   今回はイエレン議長の他に、日銀の黒田総裁もスピーチを行っています。  その内容が今朝の日経新聞に「ひとり総括」として紹介され、BNPパリバの河野氏が解説を付けています。内容的をかいつまんで示しますと、これまでの反省や見直しなどではぜんぜんなく、どこぞの大統領候補と同じ「オレは絶対に正しい。オレを信じてついてこい」でした。ポイントとしては、

・量的緩和(国債買い入れ)よりマイナス金利重視へシフト

・利下げの限界までにはかなり距離がある

・利下げ・量的・質的緩和の余地は十分にある

・2%の目標は堅持するが、2年で、という旗は降ろす

   それに対して東短リサーチの加藤氏は以下のようにコメントしています。「マイナス金利を深堀するなら、同時に長期国債の購入を減らさないと、銀行収益への打撃が大きすぎる」。これは長期国債くらいプラスの金利を保ってあげないと、収益機会がなくなってしまうということで、だから銀行が抵抗を始めたのです。以上が記事の概要です。

   総括的検証と言うからにはさらに多くの分析が示されると思いますが、私はそれらも基本的には自己弁護のための傍証の提示がメインで、これまでの路線を修正せずにさらに唯我独尊を強めるのではないかと懸念します。クロちゃんは筋金入りの強硬派、私に言わせれば「凶暴なるクロちゃん」ですから。

   残念ながら今年に入ってのクロちゃんは、新たな政策を打つたびに市場からは逆襲され、円高と株安に見舞われています。そして肝心のCPIも先週発表の7月分で、総合指数が前年比マイナス0.4%、生鮮食品を除く指数も前年比でマイナス0.5%と悪化しています。今後も海外メディアから「クロちゃん、あんたは裸だよ」と言われ続けるのでしょう。

   日銀包囲網を作っている中でも特に銀行界は反発を強めています。理由は今年の4-6月期の減益決算です。マイナス金利の影響により3メガバンクの収益が合計で約3千億円もの減益になったというのです。金融関連株の時価総額は東証の中でも1割と大きいため、下落のインパクトは全体の足を引っ張ります。

   それをクロちゃんが株式の買い入れ額の増額で補てんしようとする。こんなことをいつまでも続けられると思っていることが大きな間違いです。

   つづく

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アメリカ経済と世界的金利低下 その6(ほんとは7回目)

2016年08月25日 | アメリカアップデート

  「アメリカ経済と世界的金利低下」のシリーズも終わりに近づきました。前回までに述べたことを少し振り返りますと、

1.アメリカ経済の足元は、雇用・小売り・住宅関連で結構強い。すでに景気循環の上昇局面が数年継続しているので、ちょっと休んでもよさそうだ

2.世界的なカネ余り状態が金利を押し下げていると言われるが、カネ余りとは相対的なもので、絶対的に数字で示せるものではない。しかし各国の金利を見る限り、先進国・新興国を問わず金利は低下しているので、カネ余りであることは確かだ

3.地政学上のリスクを見ると、中東などをめぐる戦争のリスクのみならず、先進国でもBREXITトランプリスクなど、予想もつかなかったリスクが頻発している。そのたびに米国債への「質への逃避」が起こってしまい、米国債金利を下げてしまう

4.金利下落リスクとして今後覚悟すべき最大のリスクは、中国の政治・経済の崩壊と日本の金融財政破綻リスクだ

5.7月に史上最低レベルの1.3%台まで米国債金利は下げたが、それに匹敵するレベルは12年7月にもあった。そこから3%に回復するのに、1年半ほどかかかった

  ここまでこうしたことを述べてきました。

  では先を見通すにあたり、直近のアメリカ経済はどうか。

  一昨日、米商務省が発表した7月の新築戸建て住宅の販売戸数は、年率換算でなんと前月比12.4%増の65万4,000戸で、8年9カ月ぶりの高水準。つまりリーマンショック前の高水準に肩を並べています。

  同日に発表されたトール・ブラザーズという超高級住宅販売会社の5-7月期の業績は、収入が24%増とこれまた絶好調。ちょっとバブルの心配をするほどです。住宅販売は幅広い住宅関連消費につながるため、非常によい材料とみなせます。もっとも昨日発表の中古住宅販売は若干見劣りする数字でした。原因の一つは価格が高すぎることと解説されています。しかしこれも含めアメリカ経済が依然として好調であることは間違いありません。

   一方、世界の金融市場は週末のジャクソン・ホールでのイエレン議長の発言内容を気にして、動きのとれない状況です。何人かの地区連銀総裁は、利上げに積極的な発言をしていますが、イエレン議長は驚くような発言はしないだろうと私は見ています。


   では、みなさんの関心事である今後の金利を私がどう見ているかです。

   私の基本的考え方は変化していません。それは、金利は何といっても「物価と雇用だ」という例の考え方です。雇用が絶好調ですので、残るは物価です。

   物価を見るにあたり、まず賃金から見てみましょう。アメリカの雇用者賃金は、雇用全体が好調なため穏やかな上昇を続けていて、それが消費を押し上げる原動力になっています。8月発表の平均時給の前年比上昇率は2.6%と、それまでの傾向を維持しています。アメリカ経済の特徴はGDPに占める個人消費が7割と高いことで、その中でもサービス消費が半分を占めることです。賃金上昇はサービス価格の上昇に直結しますので、物価の底上げにつながります。

   さらに石油価格がひところよりだいぶ持ち直してきました。物価というのは前年対比でみるので、価格の絶対レベルが低くても前年を下回らなければ全体の足を引っ張らなくなるのです。WTIなどの石油先物価格は1年前のレベルを上回り始めています。

  そして今後ですが、OPECにも生産を抑え価格維持をすべしとの機運が出てきていますので、エネルギー価格が物価抑制の主役の座を降りるのは近いと思われます。

  物価を見るにあたり、エネルギーと食料品価格を除くコア物価がより大事だと言われますが、エネルギー価格の変動はすべての物価に大きく影響を及ぼすので、その上昇は物価全般に大きなプラス材料なのです。

   そして先日触れたその他の国際商品価格全般の値上がりも物価上昇には好材料です。

 

  こうしてみてくると、「物価と雇用」のうちの物価にも上昇の兆しが見えてきています。これは今後の金利上昇には明らかに好材料です。

   しかし世界経済がグローバルにつながり一国内で完結することはないため、アメリカの金利動向は国内要因だけでは決まりません。世界のその他の国の低金利も影響するため、上昇していくにはかなりの時間を要すると思われます。

  先進国はこの数年がそうだったように、金利低下が景気上昇に直結していません。一方、新興国は資本が必ずしも自国に潤沢にあるわけではないため、企業は金利低下を渇望しており、低下が設備投資や住宅投資につながり、経済を成長させます。世界の金利低下はすべての国にデフレをもたらすわけではないことを忘れないようにしましょう。


   ではそうした先進国と新興国の状況を織り交ぜて考えて、アメリカの金利はこの先どうなるのか。

   私は低下したままでいるとは思っていません。あくまで循環的な動きが今後もあると思っています。7月の1.3%台への低下はむしろBREXITなどの外部要因が大きかったため、それがボトムである可能性もあるでしょう。

  しかし循環するとは言え、1980年代から始まった長期低落傾向がここで長期上昇傾向に転ずるのは難しいだろうと思います。長期低落に歯止めがかかったとしても、一進一退での循環的な上下動に留まりそうだ、とういうのがこの先半年1年の私の見立てです。

 

  ということで昨年12月の見通しのように3%をターゲットにするのは、しばらく難しいと思われます。上昇があっても2%台をターゲットにせざるをえないでしょう。

   では、マクロ経済のモデルを使った予想はどうなっているでしょうか。今年の予想を出した昨年末にみなさんに紹介したサイト、Trading Economicsの予測数値によりますと、17年第2四半期までは1.6%という低い予想になっています。そして20年でもわずか1.8%という低い予測です。私はそこまで悲観的には見ていません。 モデルは単に数字を統計処理して延長しているので、あくまで参考程度にご覧ください。


   これでこのシリーズ、「アメリカ経済と世界的低金利」を終えますが、この話題は今後ももちろん折に触れて書いていくようにします。

   最後に一言申し上げておきたいことがあります。

   それは米国金利関してある方から、「林さんは金利の上昇を望んでいるんですか」という質問を受けたことについてです。きっと私が米国債投資をこれからしようという方に向けた物言いになっているきらいがあるので、こうした質問が出てきたのだと思います。もちろん私はそれを望んでいるわけではありません。

  金利が投資のリターンであると考えれば、今後投資する方にとって高いにこしたことはありません。一方すでに投資をされた方にとって金利低下は債券価格の評価益につながります。私は両方の方に対して物をいう立場にいるので偏りは禁物なのですが、コメント欄は圧倒的に今後投資をされる方からの質問が多いため、あたかも私が金利上昇を望んでいるようになってしまっているのでしょう(笑)。ちょっと反省します。

  現在のような超低金利は一国の経済にとって決して望ましい姿ではありませんが、一方超高金利はもっと望ましくありません。企業の体力を奪い、財政を圧迫するからです。では望ましい金利レベルがあるのか。

   以前も触れたことがありますが、それは一国の発展段階によって変化するし、金利は景気循環をスムーズにする調整弁でもあるため、一概に何%が望ましとは言えません。

   望むらくは、ある程度の金融資産を持っている方が、キャピタルゲインなどなくとも、年金と安全な債券の金利で暮らしていけるレベルは欲しい、と私は願っています。

  このシリーズは以上です。

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リオ・オリンピックのゴルフ

2016年08月23日 | ゴルフ

  リオ・オリンピックは無事終了しましたね。日本選手の連日のメダルラッシュで、とても楽しく観戦できました。これで東京がもっと楽しみになりました。

  施設の状況やセキュリティなど、事前の観測よりはるかにましな大会だったという印象を持ちました。アメリカの競泳のメダリスト、ロクテ選手のようなことが日本選手にはなくてよかった、と言いたいところですが、実はマナーとプレーぶりでは問題が一つありました。それは100年以上ぶりに採用されたゴルフでの選手のプレーです。

   女子の代表はベテランの大山志保選手と23歳の若手のホープ野村敏京選手が出場し、野村選手が1打差で銅メダルを逃しています。野村選手の名前は「はるきょう」と読み、日韓の混血です。普段はアメリカをベースにしていて、すでにLPGAで2勝を挙げている有望選手です。

   その彼女がパー4のホールでパーパットをはずしたあとに事が起こりました。私はそれを偶然ライブで見ていました。ボギーパットはわずか20㎝しか残っていなかったので、悔しさも手伝ってか彼女はパターのお尻を使って逆打ちしたのです。するとボールは10㎝くらいしかころがりませんでした。野球で言えばファールチップです。彼女のパターはピン型のため、パターのお尻は縦に平板ではなく、わずか厚み2・3mmしかない薄板です。ボールの真ん中を少しでもはずせばしっかり打つことはできません。それは百も承知だったはずです。

   最初に申し上げましたが、彼女は4位。3位とは一打差しかなかったので、20㎝を普通に打っていればメダルが取れたはずでした。彼女は自分が日本を代表しているとか、税金で参加させてもらっているとか、オリンピックを目指したのに参加できなかった多くの選手がいることを意識していません。そして彼女にあこがれてゴルファーを目指す子供たちがいることを忘れているとしか思えません。

  最近ジュニアゴルファーのマナーの悪さが事あるごとにゴルフ界で叫ばれています。プレーを途中で投げ出したり、彼女と同じようにパターのお尻で打ったり、クラブを蹴飛ばしたりするジュニアが多いのです。彼女の行為はジュニアには最悪の見本です。

   私も昨年スコットランドでカーヌスティ―をラウンドしたとき、態度の悪いアメリカのジュニアと一緒になったことを書きました。ティーショットをミスすると毎回のようにクラブを叩きつけ、ティーを足で蹴飛ばすのです。それも親が一緒にプレーしているのに。そして親は注意もしませんでした。

  言うまでもなく、ゴルフはマナーのスポーツです。世界中が注目している中で、このようなプレーは絶対に許されません。私の不満はマスコミにも向けられます。マスコミはこのことを報道していません。少なくとも私の知る限り、そしてネットで検索できる限り。

   彼女の中にこの事実が今後どう残るのか、私には知るよしもありませんが、是非猛省して二度とこのようないい加減なプレーをしないようにしてほしいと思います。

  腹立ちまぎれでした。

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出版から5年

2016年08月17日 | ストレスフリーの資産運用

  リオでは嬉しいメダル獲得がつづいていますね。でも何故か銅メダルコレクターなのがちょっと残念!

   それでもメダルはメダルだし、世界に誇れると思うのですが、銅メダルを取った日本選手の多くが泣きながら「申し訳ありません」というのがちょっと気になります。

   それにしても台風一過の暑さは尋常じゃありませんね。4年後は今より暑くなっているでしょうから、とても心配です。リオよりもっと深夜に競技をやればいいのではと思ってしまいます。


   私の著書が出版されてから今月で5年が経ちました。購入していただいた方に、お礼申し上げます。

  その間の出来事を簡単に振り返りながら、著書に書いてあった林の見立てはどうだったのか、検証してみることにしました。

  著書のタイトルは「証券会社が売りたがらない、米国債を買え」という長たらしくて、ちょっとヘンなタイトルでした。私の案である「ストレスフリーの資産運用」は却下され、ダイヤモンド社がつけてくれたタイトルです。もっとも出版後は、刺激的だし満足できるタイトルだと思っています。

  資産運用対象としてアメリカ国債というのは世界標準の代表的リスクフリー資産なのですが、5年前の日本ではそういう認識はほとんどなかったようです。みなさんは最初どう思われたでしょうか。

   再三申し上げますが、私は日本が大好きな日本人で、この先も日本から出て海外に暮らすつもりなど毛頭ありません。ただ、このお粗末な日本政府とは心中したくない。そのための方策としてアメリカ国債の投資が安全でよいと、みなさんにお薦めしているのです。

  「備えあれば憂いなし」、ストレスフリー投資の神髄が米国債への投資です。

  著書の主旨に対して最初に巻き起こった議論は、「アメリカはこの先何十年も本当に安全なのか」という議論でした。不安の理由の第一は、アメリカがまだリーマンショックから立ち直る最中だと見られていてたということです。

   2011年、世の中では「アメリカにも日本と同じ失われた10年が来る」という意見が支配的でした。私がそれを聞いて思ったのは、「バブル崩壊以降の日本の凋落を悔しく思っている人たちが多いな」、ということでした。バブルの後始末で後れをとっている日本をしり目に、アメリカは先端技術やIT分野で世界をリードし先進国では珍しいほどの成長を遂げていました。ところが、いい気になってサブプライムの証券化商品でバブルを作ってしまい、それがはじけた。言葉は悪いですが、ざまーみろ、なのでしょう。

   そこに拍車をかけたのが理由の第二、いわゆる「財政の崖」というアメリカ議会内の「政争」です。それが日本から見ると単なる政争ではなく、アメリカ財政が深刻な危機を迎えていると誤解されたのです。その後も何度となく崖はやってきて、アメリカは落ちる寸前に回避しています。あたりまえです。財政問題なのではなく、共和党と民主党の政争にすぎないからで、何度か崖の淵を見た後は、さすがに単なる政争だと市場も理解したようです。

  現在は、アメリカ経済が失われた10年の中にいるとか、財政の崖から落ちるかもしれない、などと言う人はいなくなりました。

   そうした見当違いの議論がどこから起きるのかと言いますと、私が常々申し上げているように、金融・経済問題を数字で見ていないで、好き嫌いの感情や当て推量だけで見るからです。リーマンショックのマグニチュードも財政の崖問題も、数字でしっかり検証していれば深刻な問題などでないことはすぐわかったはずです。

   もっともリーマンショックはいまだに「100年に一度の」という枕詞がつく大金融恐慌だったという論調が支配的です。1930年代の大恐慌時の失業率は25%、リーマンショック時は10%。数字だけみれば、半分以下でしかありません。しかもリーマンショック後は、わずか数年で5%という絶好調レベルに回復しています。大恐慌のときは10年後、第2次大戦がはじまる寸前まで15%程度の失業率が続いていました。だから真正100年に一度の大恐慌なのです。

   では、アメリカはこの先も本当に安全なのでしょうか。今一度検証してみましょう。

 著書では将来を見るのに、以下の点をもって日本よりアメリカの方が遥かに安全だと言っていました。

 1.日本の安全保障はアメリカに依存

これはトランプが大統領にでもならない限り、ずっと有効です。彼は日米安保の主要目的の半分は、日本がアメリカに刃向かわないための歯止めだということを知らないのです。凶暴なアベチャンと核武装が持論の防衛大臣コンビの恐さを知らないのです。

 2.国債の格付け ムーディーズとS&P

アメリカ Aaa、AA+ で変化なし。  日本は11年時点でAa3、AA-であったものが、現在はダウングレードされてA1、A+。要するにダブルAがシングルAになってしまった。ちなみに累積債務の対GDP比率の5年間の変化はOECD統計によると、

      11年  16年

アメリカ  108%  111% +3

日本   209%  232%    +23

日本のひどさは留まるところをしりません。

3.日本の人口は減り、アメリカは増加

こんなことを言うと嫌われそうですが、少子高齢化対策が最高うまくいったとしても、効果が出るのは30年後、それが数字から見える不都合な事実です。

4.日本の若者の就職人気企業ランキングは1973年も2011年も、2016年もほとんど変化なし

あきれるほどの保守性を若い人が持っているのは、嘆かわしい限りです。

5.産業の未来を占うベンチャーキャピタル投資額の日米較差  

著書にある08年の調査では、日米のひらきは60倍と推定された。現在も継続する別の調査(Field Management Capital)では11年時点での30倍が、14年の時点では50倍にひらいている。投資額の数字は定義によって異なるため正確な比較はできませんが、同調査の08年では20倍のひらきがありましたので、それがどんどん広がっています。

6.アメリカ人は英語を話すが日本人はダメ、という状況に大きな変化はない


   こうした比較は実に単純な比較ですが、将来の経済成長力や安全性を予見するには有効です。それでもアメリカより日本が安全だという方がいらっしゃれば、どうぞコメント欄でご指摘ください。数字で議論しましょう。


  では、11年時点の将来見通しと決定的に違った、あるいは私が完全に見通しを誤った事項があるかないかを見てみます。

   自己申告しますと、11年時点で私が最も予想できなかったことは、12年年末の「アベノミクス」導入です。その結果が円安と株高につながりました。これについてはもちろん誰もが予想はできなかったし、新たな要素なのですが、問題はその後の展開です。

   私は導入当初は長続きしないと思っていましたし、異次元の金融緩和などという無謀な緩和策は打上げ花火の効果だけで、長期的に続けられないし日本財政の破たん時期を早めるだけと思っていました。

   確かに政策目標であるデフレの克服はできなかったし、今後もできそうにありません。しかし、円安が株高を呼び込んだため大歓迎され、財政は金利低下のお陰で長持ちしています。

  もちろん財政問題は解決したわけでもなく、ひたすらマグマを溜め込んでいるだけなので、破たんの威力は大きくなるのですが、今はその端緒も見えてきていません。

 以上がたぶん最も間違った部分だと思います。

 つづく

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山の日によせて

2016年08月13日 | エッセイ

  今年初めて山の日ができましたね。お盆にかけて、良い時期を選択してくれたと思います。

  みなさんは飛び石連休を活用されましたか。私はでかけていませんが、そのかわり山の思い出を書いてみました。私の山の思い出は、日本5位、3,180mの槍ヶ岳登頂です。それも中学2年生の夏のことでした。

   中学2年生が北アルプスの中でも最も厳しいと言われる山の一つである槍ヶ岳にどうして登れたのか。それも昭和38年、1963年のことですから、北アルプスも現在のように整備されてはいない時代でした。

   そのわけは学校にあります。ユニークな教育に力を入れる母校、成城学園の夏の行事で、中学2年は登山が公式行事でした。

   中学に入学すると1年生は夏の臨海学校で、全員が海で2kmの遠泳に挑みます。4月早々先生からそれを聞かされ、6月からプールでの訓練に入ります。泳げない生徒は特訓を受け、とにかく全員が挑むのです。私も6年生の時にやっと25mほど泳げただけなので、波のある海ではいったいどうなるんだろうと不安に思いました。

  しかし先生によれば、「プールで25m泳げれば海で2km泳ぐのはわけない」とのこと。その後の特訓でもプールでは平泳ぎで50mがやっとでした。しかし千葉県の富浦での臨海学校に行き訓練をすると、海では200mくらいは泳げるのです。でも2kmはその10倍です。

  挑戦の当日は生徒数200名くらいに対してサポートのボートが何艘も出て、大学の水泳部の先輩たちが泳ぎながらサポートしてくれます。生徒は全員掛け声とともに泳ぎ、途中ボートから水や氷砂糖をもらいます。その間だけボートにつかまることができるので、ついつい欲しくもない水や氷砂糖を欲しいとお願いしました。そしてたしか2時間ほどかかったと思うのですが、全員が泳ぎ切ったのです。なんという達成感だったでしょう。

    海の日の話になってしまいました(笑)。山に戻ります。

   2年生の春になると全員で神奈川県は丹沢山塊の大山に登山をして、登山訓練が始まります。実はこの大山登山、訓練と選別を兼ねています。遠泳と違い、さすがに何日もかけて登る槍ヶ岳は体力に差のある全員が登山するのは無理です。そのため自己申告で、槍ヶ岳組、白馬岳組、軽井沢高原組に分かれるのですが、その見極めのために大山に登るのです。槍ヶ岳や白馬岳に登るには本格的登山靴が必要で、その当時は小さな登山靴は売っていなくて、特別に学校がそろえてくれました。大山には厳しい登山道と穏やかな登山道があって、槍ヶ岳組は厳しい登山道を登らなければなりません。それをなんとかこなして、あこがれの槍ヶ岳組に入ることができました。

  槍ヶ岳登山に対して父兄はどうだったかと言いますと、すでに1年生のとんでもない遠泳と冬の志賀高原でのスキーを経験していたので、むしろ喜んで応援してくれました。クラスは男女半々で40数人ですが、男子は半分の10人ほどが槍ヶ岳に挑戦し、あとは白馬岳。女子は槍がわずか2名で、あとは白馬と軽井沢組に分かれました。

  槍への挑戦は2年生総勢50人ほど。それを登山好きの先生が5人、カメラマンを兼ねた山のガイドが1人、強力が2人でサポートしてくれました。当時の強力とは普段山荘に食料を運ぶ仕事をしている人たちですが、途中で疲れた生徒のリュックを背負ったり、時には生徒を背負ったりしてくれます。

  槍ヶ岳へは、燕岳から大天井岳(おてんしょうだけ)を経る北アルプスの「表銀座縦走コース」を取ります。日本のアルピニストの誰もが憧れる表銀座コースですが、中学生が縦走するのは本当に驚きだと、山好きの大学生の従兄が言っていたのを思い出します。

   私は小さいころから晴れ男だったので、全行程快晴に恵まれました。最も厳しかったのは初日の中房温泉から直登する燕岳、2,763mへの登山でした。とても大山登山の比ではなく、女の子は初日から強力に背負ってもらうほどでした。しかしそれを登り終えると、北アルプスの絶景が拡がっていました。この絶景を見るためにアルピニスト達は表銀座に来るのだそうです。

  当時の写真はモノクロだったし、プリントしかの残っていません。そこでみなさんには見ていただきたいサイトをお知らせします。知らない方のサイトですが、燕岳への登山と山頂小屋、そして360度のパノラマ動画をみることができます。感謝!

http://ohara98jp.exblog.jp/20873178/

 

  登山2日目はすごく遠方に見える槍ヶ岳まで一気に縦走しますが、あんなに遠くの山まで本当に一日で行けるのかと、気が遠くなるような思いで見たのを思い出しました。快晴の表銀座はとても気持ちのいい縦走ですが、途中でかなりの上り下りがあるため、中学生達はみんなで「もったいねー、降りるのヤダー」と大声で叫びました。すると北アルプスから「もったいねー、降りるのヤダー」と見事なコダマが返ってきました(笑)。

  縦走は途中で大天井岳を回りこむようにして槍ヶ岳の山頂脇にある「肩の小屋」まで行きます。翌朝は早朝に起きてご来光を仰ぎながら、山頂までのスリル満点のロッククライミングです。肩の小屋からは、ほとんど垂直のロッククライミングになります。

  別のサイトにはそのロッククライミングの写真があります。このサイトの登山ルートは我々が下った上高地から槍沢を経る登頂ルートですが、その間の写真がとてもきれいだし、槍ヶ岳の厳しさの様子がよく見てとれます。きっちょむさんに感謝!

http://kiccyomu.net/yarigatake.html

   槍ヶ岳のとんがりの横にちょっととんがっているのが「アルプス一万尺、小槍の上で・・・」という歌で有名な小槍です。小槍は自前のハーケンとロープでしか登れないはずです。

   頂上への最終ルートはオーバーハングにちかいのですが、数mだけはしごがかかっていました。最近登山した友人に聞くと、最近はもっとはじごがたくさんかかっていて、登りルートと下りルートが分かれているとのことでした。

  しかし思い起こすと、こんなに厳しい登山を中学2年生が毎年しているなんて、驚く以外ありません。我ながらよくやったものだと思います。

   最後は上高地に向かって槍沢を一気に下ります。下山も決して楽ではありません。膝が笑ってしまう体験を初めてしました。下山途中で大学の山岳部のグループが、一人30kgものリュックを背負って登って来ました。我々と出会うと、「お前ら槍に登ったのか、ホントか」と何度も聞かれ、我々は誇らしげに「ホントだよ」と答えたのを思い出しました。

   そして夕方には上高地の明神池にある明神荘に到着し、久々にお風呂に入って疲れをとりました。

   実は15年ほど前にこの上高地の明神池を再訪しました。60歳台で母親がなくなったあと一人になった父親に親孝行をしようと思い、写真好きの父親が昔から行きたいと言っていた上高地の帝国ホテルに泊まりに行ったのです。その時に上高地をトレッキングして明神池に行きました。そこには中学の時に泊まった古い明神荘がそのまま残っていました。なつかしい明神荘で、やまめの天ぷらをいただきました。その時父親に、成城学園にいれてもらったおかげで槍ヶ岳登山ができた話をしながら、感謝しました。

   「山の日」ができたおかげで、中学生時代の忘れがたき思い出を書き記すことができました。その年にはお隣のおじさんが、「せっかく登山靴を買ったんだから、富士登山を一緒にしよう」と言って連れて行ってくれ、3千メートル級の山を2つも登ることができました。でもそれを最後に本格的登山はしたことがありません。

 以上、山登りの思い出でした。

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