ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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ギリシャ問題のゆくえ

2015年01月28日 | ニュース・コメント

  きのうまで3日間、野沢温泉スキー場に行っていました。2日間は上々の天気、きのうは気温が高かったので、山の上の方だけで楽しみました。

  野沢温泉は初めてですが、外人客の多さにはビックリしました。スキー客の3割くらいが外人で、温泉街も行きかうのは外人が半分。我々が泊ったハウス・サンアントンの宿泊客は我々以外全部外人、それもほとんどがオーストラリア人でした。このロッジはスキー宿にしては珍しく本格的フレンチ・ジャパニーズを出してくれます。シェフはオーストリアはザルツブルグの料理学校で修業した若干30歳の若いオーナーシェフ。両親経営のロッジをしっかり引き継いで料理に励んでいます。料理は本当においしく、スキー以上に楽しめました。

   長いゴンドラで一緒になったオーストラリア人に話を聞くと、彼らは30人連れで日本を旅行中とのこと。旅程は東京3泊、箱根2泊、京都3泊、野沢温泉7泊、日本に2週間もいてスキーがメインの旅行です。しかもほとんどがリピーターでした。彼らはパースから来ていて、日本での滞在費がとても安いので、次回はもっと長く居たいと言うのです。オーストラリアに比べると宿代は3分の1、食事は半値、13か所の公共温泉は全部無料、スキーのレンタル代も3分の1なので、誰も自分のスキーを持ってくる人はいないそうです。私は2000年前後、数年に渡りオーストラリアで友人達とゴルフ合宿をしていたのですが、その時に我々が感じていた「オーストラリは安い」とは正反対になっています。我々は何でも半値だと言いながら滞在を楽しんでいました。

   私が野沢温泉で驚いたのは、アフター・スキーの面白さです。地ビールバーやおしゃれなカフェ、カラオケバー、そして13か所の温泉など、夜遅くまで楽しめる工夫がされていました。一緒に行った友人は3日間で小さな街にある13か所の公共の湯を全部制覇するほど温泉を楽しんでいました。最近は日本のスキー場はさびれてきているところが多いのですが、ここ野沢温泉は全く別の様子がありました。ここへは街の観光振興のマネージメントぶりを見学に来る地方自治体の担当者や海外の観光振興担当者が絶えないそうです。

 

  さて、留守中にギリシャ問題が大きく取り上げられていましたので。今回はギリシャ問題を私がどう見ているかをお伝えします。

   ギリシャの選挙ではこれまでの緊縮財政を真っ向から批判した政党が第一党となり、威勢のよい公約を掲げています。それに対してEUやドイツをはじめとする有力国は苦り切っています。欧州の株式市場や為替市場はもちろんネガティブに反応し、心配の種が増えたため将来に対する懸念の声が多くなっているようです。

   前回のギリシャ危機の時にも私はとても楽観的な見通しを述べましたが、今回はもっと楽観的です。理由を簡単に並べますと、

 ・ブタ(PIIGS)はいなくなった

ギリシャを除くPIISは前回と違い問題が波及するような状態にはありません。全快とは言えなくとも、イタリア・スペインなどのおおどころには全く波及はしていません。

 ・ギリシャのGDPはEU全体のわずか0.8%ほどでしかない

ギリシャがいなくなろうが、EU全体に影響はほとんどありません。EU当局になりかわって極端なことを言えば、「お荷物がいなくなればむしろせいせいする」というところでしょう。他にも温情にすがろうとする参加国が出ないようにするためのみせしめには持ってこいの機会となっています。

 ・EU全体の結束は固い

ドイツを盟主としてEU全体がギリシャに対する温情には限界があることをはっきりと示しています。最重要の債務問題は「返済期限の延長はあっても削減はいっさいしない」と言うことで一致しています。


  するといったいギリシャはどうなるのか。ギリシャはEU・ユーロから離脱など絶対にできないと私は思っています。離脱議論が本格化するようだと、それまで「緊縮財政はうんざりだ」と言っていた国民は、すぐさま預金をすべてユーロの現金に換えようとするでしょう。ドラクマのトラウマなど思い出したくもないはずです。するとそのとたんに金融破綻が始まり、それが国家破綻に直結します。国債の償還財源がないためデフォルトが起こり、新規の借金など全く不可能です。つまり一人立ちは夢物語だということに気づくのです。

   ロシアが救済するか?

できないでしょう。ウクライナ問題を抱えるロシアがそんなことをすれば、反ロシア連合の団結はより強まり、対ロ制裁は強化されるからです。

 

  ということで、ギリシャ問題をあまり心配する必要はないと私は思っています。

 はたしてこの楽観論が本当に楽観論のままで済むか否か、今後もしっかり見て行きましょう。 

 

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戦後70年、第2の敗戦に向かう日本  その4 金利低下のインパクト

2015年01月23日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  日銀が15年度の「物価見通し」を引き下げました。たった3カ月前には1.7%だと言っていたのを0.7%引き下げて1.0%にしました。それに伴いクロちゃんの大事な大事な「物価目標」の達成時期も引き延ばしにかかっています。クロちゃんは一昨日の会見でもともと「15年中と言っていない、はみでることもある」と言ったそうです。

   そう、あの13年4月のバズーカ1号の発射時にたしかに15年中などとは一言も言っていません。「2年」とだけ言ったのです。「2年、2倍、2%」と大きく書いた紙を自信満々に示しました!

  2年とは正確に15年の4月のことですよクロちゃん。ごまかしちゃいけませんぜ(笑)。

   彼の最近の記者会見での物言いはすでに支離滅裂になってきていますが、かわいそうなので今日のところはこの辺にしておきましょう(笑)。


   さて、欧州中銀が量的緩和に踏み切り、世界的な中央銀行の緩和策と金利低下が大きな話題になっています。日本もその先頭を切っていて、日銀が金利を恐ろしいほど低下させています。それを私は債券の専門家としての視点から、日銀による債券バブルだと指摘しました。前回説明したように、バブルはいつも自己増殖のメカニズムを有していて、後から見ればなんてバカなことをしたんだ、となります。政府・日銀は自分の発行する債券を自分で買い入れることによる自己増殖で、まさに典型的バブルを大膨張させています。ではこの金利低下が日本に何をもたらしつつあるか、しっかりと検証してみましょう。

   そもそも金利低下というのは教科書的に言いますと景気を刺激するはずでした。ゼロ金利は実質的には2000年代の初めからスタートを切っていて、途中で一時停止はあったものの、現在にいたるまで10年以上継続しています。それにもかかわらず一般的評価として「景気はよくない」、あるいは「デフレが継続」しています。効果がないのは周知の事実です。

   2013年に入り日銀総裁がクロちゃんになるとさらに日銀が国債を爆食し、長期金利を低下させ、遂にマイナスの域に達してしまいました。おとといは短期の国債だけでなく、なんと中期と分類される5年物国債までマイナス金利を付けています。いくら物価上昇が思ったとおりいかないからといって、なんという無茶をするのでしょう。

   無茶なことをすると、市場や実体経済には必ず歪みが生じます。そのゆがみを並べてみましょう。

・財政規律の崩壊

・金融機関の収益機会の喪失

・年金の崩壊

・国民から金利所得獲得の機会を奪う

  今回はこの中で深刻になりつつあると私が考えている金融機関の収益機会の喪失について見ることにします。

   一番深刻なのは生保です。ついにほとんどの大手生保は最近になって年金型保険の新規募集停止に追い込まれました。予定利率を掲げることすらできないからです。その上この状態が続くと、きっと過去に約束していた予定利率も、ゴメンチャイして引き下げにかかる可能性もあるでしょう。もちろん年金型だけの問題でなく、生保・損保全体が金利低下で収益の低下に悩んでいます。これが保険料の値上がりにつながりつつあります。

   次に大きな影響を受けるのは地銀・信金です。もともと景気拡大がスローというよりむしろ経済規模が縮小しつつある地方に基盤を置いているため、融資より債券投資に重点を置かざるを得ないのですが、この金利低下でさらに収益があがらなくなっています。地銀の合併ニュースが最近よく見られますが、それもやはり収益低下が原因なのでしょう。こうした状態が続くと、おきまりのヤバいハイイールド物などに手を出すことになります。

   金利の低下は債券運用だけの影響にとどまりません。貸出金利にも当然波及します。すると地銀・信金だけでなく都銀やノンバンクにまで影響します。

  そして本当の危機はどこにあるかと申しますと金利の上昇時にあります。金融機関がローンの出し手であればその金融機関が影響を受け、住宅ローンをモーゲージ債券として投資家に売り払っていれば、投資家が影響を受けます。なにせ個人が借り手の超長期固定ローンを1%台の低金利で提供しているため、少しでも金融機関の調達金利が上昇すればすぐに逆ザヤになります。

   そもそも金融機関の利益の源泉は、短期の低い変動金利で資金を調達し、長期の高い金利で貸し出すことで得ています。短期調達と長期運用のミスマッチは金融機関のリスクですが、このリスクを取ることこそ収益の源泉なのです。住宅ローンは企業貸し出しが伸びない中、貸出の柱になりつつあります。企業向けと違い住宅ローンは金融機関にとって超長期のコミットです。金利が上昇を始めると当然短期の調達金利が跳ね上がるのですが、貸出は長期の固定なので逆ザヤになります。これは金融危機が起こりかねないほどのインパクト持っています。

   日本は日銀が模範となって出口は考えなくていい国ですので、銀行も出口など気にせず、いざとなればまた国に泣きつけば済むくらいに思っているのかもしれません。

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戦後70年、第2の敗戦に向かう日本  その4 バブル時代の不動産投資

2015年01月20日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  前回はアベノミクスで政府・日銀のやっていることを、これまでよく見かける分析とは違った視点から検証してみました。親の日本株式会社の発行する債券を子会社の日銀が天井知らずに買い上げるということは、バブル時代の事業会社が自社株を自分のファンドや子会社で買い上げていくことと同じで、落語で笑い飛ばされるほどアホなことだとお伝えしました。

   「特金・ファントラ・エクイティファイナンス・損失補てん」と言うバブル用語を並べると、当時財テクに励んだ財務部長さんや、それに乗って株式投資に励んだ個人投資家のみなさんにはさぞかし頭の痛い言葉だと思います。しかしあの時代のバブルは、株式市場のバブルだけではありません。不動産バブルというもっと巨大なバブルも膨れ上がっていました。これも内容を知っておくことは「投資でもっとも注意すべきバブル形成の仕組み」を理解することになります。

  アベノミクスが成功するには資産バブルが必要、あるいは成功すれば資産バブルが訪れるということが言われます。そレに向けてバブル形成の仕組みを理解しておくことはとても良い勉強になりますし、バブルに乗らない知恵を身につけるヒントにもなると思います。

  株式相場が花見酒相場として形成されたのと同様、不動産相場も同じように花見酒相場でした。そこには銀行が深く関わり、株式のバブルと同規模の巨大バブルが形成され、その処理が90年代からの10数年間、日本を苦しめ続けたのです。

   日本の不動産投資は株式相場よりよほど堅固な「土地の神話」に支えられていました。それは日本のような狭い国土の国では不動産は絶対的に供給不足であるから永遠に値下がりはしないという神話です。戦後40年間、一貫して値上がりが続いていたことが安心感を生んでいました。この堅固な需給関係があるため銀行は土地を担保にしさえすれば貸出は絶対に安全で損失はあり得ないと考えていました。

   しかしそれだけでは簡単にはバブルは起きません。株式バブル同様に、自己増殖のメカニズムが組み込まれたからバブルになったのです。

       

  日本の不動産投資の最大の問題点は、キャッシュフローを無視したことでした。

  著書でも書いていますが、日本の投資=株式投資=キャピタルゲインでした。不動産投資も同じ構図で、邪魔な建物など取り壊して簡単な更地の売買だけでキャピタルゲインを得ることでした。

   値上がりが続くという神話にのっかり、土地を担保に銀行から借り入れて別の土地を買い、それを担保に次の土地を買う。これが典型的なバブル形成のメカニズム、つまり自己増殖です。平常時は土地を買うために銀行から借り入れをするには、ある程度自己資金による頭金が必要です。それは住宅ローンを考えればわかりますが、現在一部でそれを無視しはじめていますので、要注意です。

  ところがバブル時は買ったとたんに値上がりするため頭金なし、しかも買った土地の担保評価は100%ではなく、120%あるいはそれ以上に評価して余分に貸して次の投資を促すのが当たり前でした。これを繰り返したため、バブルは一気に膨らんだのです。

   ですので株式相場の逆転と同じ様に価格が下落を始めると担保価値が下がり、銀行は危険を感じて貸出を引きはがす。すると担保を売却して銀行に返済しようとするためさらに価格の下げに拍車がかかり、いままで巻き上げてきた相場が一気に巻き戻しに入るのです。

   しかも不動産投資をしたのは不動産会社だけではありませんでした。建設会社、製造業などの事業会社、そして個人もはたまた非営利団体や学校から地方公共団体まで、一億総不動産屋と言われるほどの加熱ぶりで、ゴルフ会員権投資も同じ線上に乗っていました。そこに一番貸し込んだのが興銀・長銀・不動産銀行、そして信託銀行など長期資金の出し手でした。

  バブルを経験しなかった方々のために、そのすさまじさを数字で理解しておくのもよいかと思い、ちょっと数字を見ておきましょう。かつて民間金融界の頂点に立った興銀ともあろうものが尾上縫(おのうえぬい)という料亭のおかみに貸し込んで痛い目に遭ったエピソードです。ウィキペディアの尾上縫氏の項によれば、

 引用

89年の延べ累計額では借入が1兆1975億円、返済が6821億円で、270億円の利息を支払った。90年末には、2650億円の金融資産を保有していたが、負債も7271億円に膨み、借入金の金利負担は1日あたり1億7173万円にも上った

引用終わり

   この記事の数字の信憑性は保証できませんが、そのころの新聞や雑誌にはこうした数字が本当に飛び交っていましたので当たらずしも遠からずでしょう。まあ、千昌夫氏も一ケタ少ないですが同様で、ウィキペディアによれば

 引用

1991年のバブル崩壊とともに借金が膨れ上がり、2000年2月4日に個人事務所「アベインターナショナル」は経営破綻した(東京地裁に特別清算を申請、負債総額は1,034億円)

引用終わり

 個人に1千億はおろか1兆円を貸し込むという日本のバブルのすさまじさがわかる数字ですよね。

   日本の投資家と日本の金融機関が本当の投資の基礎を知っていたら、土地と言うそのままではキャッシュフローをもたらさない投資対象や、建物を建てても利回りの低い投資に血道を上げるなどというバカなことはしなかっただろうとおもいます。日本の投資=株式投資=キャピタルゲイン⇒土地転がし、となります。これもよく考えれば花見酒のくまさんはっつぁんのしたことと同じなのです。

 では、今の政府・日銀が果たして資産バブルを作り出すことができるか。私は無理だと思います。それは何故か?

 次回はそのあたりを解説します。

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戦後70年、第2の敗戦に向かう日本  その3 活かされないバブルの苦い経験

2015年01月16日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  原油の先物は大きく下げてから反発とボラティリティ(変動幅)の高い状態が続いています。OPECとアメリカの我慢比べ、高みの見物をする分にはとても面白いですね。

  ドル転のタイミングを探っている方には116円台はチャンスですね。逆に株や為替の投資をされている方は、気が気じゃないでしょう。

 

  さて前回は昨年の1年を数字で冷静に振り返りました。おさらいしますと、

 1.日本経済成長率・・・GDP成長率はマイナス0.5%

 2. 物価上昇率、11月は前年比0.7%・・・上昇率は順調に低下

 3.  株価は1年で7%上昇・・・しかしドルベースではマイナス6%

 4.  為替レートはドルに対しマイナス13.7%・・・国民の資産はその分目減り

  いったいどこが順調な回復軌道で、どこが国民の幸せにつながるのか、この数字からは見当もつきません。

  今回は政府と日銀のやっていることの本質はどういうことなのか、それが何故第2の敗戦につながるのかをこれまでとは違う角度から見てみます。今まで世の中に提示されたことのない視点からじっくりと解説します。今やっている政府・日銀の政策はあの80年代のバブル時代と相似形だということです。

   みなさんはバブル時代にはやった「財テク・エクイティファイナンス・特金・ファントラ・損失補てん」という用語をご存知でしょうか。

   バブル時代を企業の財務部門や証券会社で過ごした経験をお持ちの方には、さぞかし苦々しい言葉だと思います。ご存知ない方のために説明します。

   財テクとは、投資会社ではない普通の事業会社が財務テクノロジーを駆使して儲けようとする様を言う言葉です。80年代の後半、誰もが株価は永遠に上がり続けると思いこみ、普通の事業を営む企業までもが会社の定款を変更し株式投資を事業の柱の一つに組み込み投資に励みました。その手口で使われたのが特定金銭信託・ファンドトラストの省略形、特金・ファントラです。

   仕組みを簡単に解説しますと、企業が自己資金と借入で投資ファンドを作り、投資ファンドで自社株を含め株式投資を行うのです。そのファンドが特金・ファントラです。自社株が上昇すると新規に株を発行して資金調達をすることが容易になります。それをエクイティファイナンスと言います。高い株価で株を発行できれば会社にはとても有利で、それにより調達した巨額の資金を再度特金・ファントラなどに回してまた自社株を買うということを繰り返していました。

   エクイティファイナンスだけでなくワラント付き社債を発行すると、ワラントの価値が高いためマイナス金利で社債が発行できる状態になっていました。今の政府もこれに近いマイナス金利状態を日銀が作っています。ワラント債で何故マイナス金利で社債が発行できたのかの説明は、難しいオプションの説明に入ってしまうためここでは避けます。

   またいわゆる株の持ち合いも利用されました。関連会社などと相互に株を持ち合っている場合、自社ファンドで他社株を買ってあげる代わりに、他社に自社株を買ってもらうという間接的自社株買いも盛んにおこなわれ、株価の上げに貢献しました。

  一方証券会社はこうした仕組みを事業法人に提供し、しこたま手数料を稼ぐ。その上証券会社も株価は永遠に上がると思っていたので、もし株が下がっても裏で損失補てんをする約束をしたのです。損失補てんを保証されているのですから、「財テクをしない財務部長はバカだ」となります。

  日本株のバブルは単にみんなが買うから上がる、上がるから買うという単純な投資で膨らんだものだけではありません。こうした巧妙な錬金術まがいの仕組みで上昇したのです。もちろんこうしたいわば株価操縦が永遠に続くことなどありえません。それが天井を付け下落が始まると今度はすべてが逆回転を始め、株価はとめどなく下落しました。投資をしていた事業法人は当然証券会社に損失補てんを要求します。しかし損失補てんはほとんどが口約束、あるいは個人的色彩の強い念書だったりしたため補てんされないし、しようにも証券会社が損失を出していて「ない袖は振れない」となり、バブル崩壊に拍車をかけました。その過程で特に補てんのコミットが大きかった山一証券が崩壊、他にも三洋証券などが倒産し、死屍累々となったのです。

   ちょっと冷静に考えればこんなことは落語の花見酒のくまさん、はっつぁんのやったことと同じだということにすぐ気がつくはずです。今の政府・日銀は実は同じことをやっています。事業法人と証券会社が政府と日銀に変わっただけで構図は全く同じ。日本株式会社の株を子会社の日銀が買いまくって上げ続けています。いずれは天井を打って巨額の損失を出すことになります。こうして株式投資に擬すればわかりやすいのですが、日銀は実際には国債投資を行っています。バブル時代に親の発行したワラント付き社債を子会社が買いまくり、金利がマイナスに至っている状態と同じです。

    株と債券が違うのは「株価は天井知らず、債券は金利ゼロという価格の天井がある」というところです。しかし天井があると思っていたら大間違い。日銀は金利ゼロでも買い続けるため、短期金利がついにマイナス金利になってしまいました。

   マイナス金利とはどういうことかと申しますと、国が100万円の資金を1年物の国債発行で調達するとします。返済は99万円でいいとなると、金利はマイナス1%です。つまり借金すればするだけ国は儲けが出るので、「借金しない財務大臣はバカだ」となります。バブル時代にバカだと言われた財務部長と同じ構図です。そのマイナス金利分は実は政府と一体の日銀に赤字として積み上がります。日銀のクロちゃんはこんなバカなことを毎日本当にやっています。金利がほとんどゼロのため国は借金を絶対にやめることはしません。

   こうしてみれば今の政府・日銀のやっていることはバブル時代の証券会社と事業法人が仕組んだ錬金術と同じだということがわかると思います。こんなことが無限に続けられることはあり得ません。それを「ノー」と言えるまともな政治家、財界人、そして識者もほとんどいないのが今の日本です。

   「アベノミクス」という錦の御旗のもと官民挙げて大政翼賛会に属し、それに対する批判者の口を実質的に封じているのがアベノミクスなのです。

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戦後70年、第2の敗戦に向かう日本  その2

2015年01月14日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  第2の敗戦シリーズの第1回目はプロローグとして私の歴史認識を自分が振り返るかたちで書いてみました。簡単にまとめますと、

・戦中世代はバブルの主役だったが、そのツケを払わずに年金もしっかりもらって逃げ切った

・団塊の世代はバブルを享受し正規社員ステータスを満喫してリタイア。しかしバブルのツケは支払うべきで、年金をもらい始めたが逃げ切れるか否かは疑問

・それ以降の世代は非正規社員を甘受させられ、いわれのないバブルのツケが自分達に回って来る不公平感を抱きながらも、それに備えるため消費はセーブせざるを得ない

・本来であればバブル後に第2の敗戦を認めて、早目に復興すべきだった。しかし為政者も国民もそれを嫌い先延ばししたため、長期の停滞に陥った

   ここからが2回目です。

   さて、長期の停滞を脱するために取られた戦略は、アベノミクスというバクチでツケを解消しようとするもので、きわどい政策と言わざるを得ません。

   すでに2年を経過したアベノミクスですが評価すべき点は、大企業を中心とした経済界・証券会社を含む金融界がアベノミクスを手放しで絶賛し、国民の中では金持ちもその気になっている層がいるという点です。これは私の言う「でかしたアベチャン」部分で、それが2年目も継続しました。

   ではそうしたムードではなく、アベノミクス下の昨年1年間を数字で振り返ってみることにします。

 1.日本経済成長率・・・GDP成長率はマイナス0.5

昨年1年間のGDP成長率はまだ出ていませんが、予測機関40社の予測平均値は実質成長率でマイナス0.5%です。この1点を見ても「経済は回復基調にある」という政府発表とは大きな差があり、実際にはマイナス成長でした。この原因はGDPの6割を占める個人消費が不調であったことによります。

なお、40社の予測平均値は私がかつて勉強をしていた日本経済研究センターが調査していて、以下のサイトで見ることができます。http://www.jcer.or.jp/esp/

 2.    物価上昇率、11月は前年比0.7

日銀の目標は+2%で、それが達成できればデフレは克服され好景気になり、みんな幸せになれるはずと日銀は言っています。そしてクロちゃんは「デフレは克服されつつある」と言い続けていますが、実は年初のプラス1.3%以来月を追うごとに上昇率は低下し続け11月のコア指数前年比はプラス0.7%となっています。目標の2%にはほど遠いいのが実態です。物価が上昇すればみんな幸せと言うのは、それ以上に収入が伸びている時だけの話で、現実は収入が増えない中での物価上昇のため、大企業の社員以外の国民はどんどん窮乏化しています。今年予定されている食料品の値上がりがとても心配です。

 3.    株価は1年で7%上昇

日経平均株価は13年末の16,291円から17,450円へ7.1%上昇しました。円安傾向が後押ししています。しかし取引の大半を占める海外投資家の動向を見ると、懸念される動きになっています。おととし13年1年間の海外投資家の買い越し額は15兆円で、それが株価を5割以上押し上げました。それが昨年1年の買い越し額はわずか8千億円と大幅に減少しています。海外投資家はドル建てで株価を評価しているので、ドルベースで株価を見ると実は日経平均は年間を通してマイナス6%でした。これが海外投資家の行動に出ているのです。

 4.    為替レートはドルに対して1年でマイナス13.7

13年末のレート105.36が14年末には119.79となり、14%もの円安です。政府・日銀・財界は喜んでいますが、自分の資産が国際標準のドルベースで見ると14%も目減りしています。おかげで前項の日経平均も円ベースで7%上昇しても、ドルベースではマイナス6%なのです。

   まとめますと、経済成長率がマイナスで物価も思惑通り上昇していないのに、政府・日銀はこの結果でも「経済は回復基調にある」という大本営発表を繰り返しています。その中で昨年11月には残り2%の消費増税を見送りました。増税を見送ったということは、経済運営がうまくいっていない何よりの証拠です。しかしアベチャンは「この道しかない」という強弁をつづけています。2年やってダメなものは今後続けてもダメです。

   増税見送りの当然の結果として格付け会社が日本国債をダウングレードし、国債をしこたま抱えるメガバンクも一蓮托生でダウングレードされています。こうした格下げは今後も続く可能性が高いと思います。

つづく

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